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年俸総額と平均年齢がセリエAトップのミラン。人件費削減と世代交代への努力とは?

2011.12.29

 ミランは現在のセリエAで最も人件費と平均年齢が高いクラブだ。だが、このネガティブな要素はこの数年で着々と改善へと向かっている。その背景にあるのは、ファイナンシャル・フェアプレー(以下FFP)の導入。ベルルスコーニ御大の復帰も噂される中、新たな黄金期の構築に向け、ミランは新時代へのトビラを開こうとしている。

文協力=トゥチディデ

■順位表でも年俸でもインテルを抜いてトップに立ったミラン

 ミランの年俸総額はセリエAの全20チーム中トップで、総額は約1億6000万ユーロ(約170億円)。もちろんその中には、セリエAで最高給取り(約9億円)の選手、ズラタン・イブラヒモヴィッチの年俸も含まれている。

 この数年、ミランの人件費は激しく変動してきた。カカー、パオロ・マルディーニ、アンドレイ・シェフチェンコといった高給取りを抱えていた2008ー09シーズンの年俸総額は実に1億9000万ユーロ(約200億円)。その後、09年夏に彼らを一斉放出したことで総額は1億2550万ユーロ(約132億円)まで下がったが、この1年間でコストは再び増大している。イブラヒモヴィッチの年俸はロナウジーニョの放出でほぼペイできたものの、ロビーニョやアントニオ・カッサーノ、マルク・ファン・ボメルなど新たな高給取りが加わった。さらに、昨シーズン、スクデットを獲得した“ご褒美”として、何人かの主力選手には年俸アップを容認。結果、ミランは順位表でも年俸でもインテルを抜いてトップに立つこととなった。

 ただし、FFPの導入により、ここ数年はミラン内部でもコスト管理の意識が急激に高まっている。昨夏以降の人件費アップはあくまで意図されたもの。無秩序に選手に高給を支払い続けていた過去とは違う。

 この夏、ミランはアンドレア・ピルロとの契約更新を見送り、移籍金ゼロで他クラブへ移ることを容認した。最終的に契約切れで退団した主力はピルロ一人だったが、クラレンス・セードルフやアレッサンドロ・ネスタ、マッシモ・アンブロジーニとの契約更新もギリギリまで行われなかった。つまり、状況次第では契約満了という形で退団させる可能性があったのだ。しかも、彼らに提示したのはいずれも1年契約。新契約はスクデット奪還に対する“恩賞”でしかなく、今後、十分な働きを見せられなければ、次の契約はないという姿勢をミラン首脳陣は明確に打ち出した。

 当たり前のように思うかもしれないが、これは画期的なことだ。もう活躍が見込めない“賞味期限切れのベテラン”ならともかく、公式戦40試合に出場したセードルフのような主力に対して1年契約を提示することは、以前ならば「敬意を欠く行為」として非難されていただろう。しかし、セードルフは怒ることなくこの新契約を受け入れ、ファンもそれについて文句を言うことはなかった。これは、FFPの導入が人々にサッカー界の新たな現実を認識させたと言うべきだろう。

■元首相ベルルスコーニの復帰も大きな不安要素ではない

 FFPの施行が本格化する中、ミランの人件費は今後さらに下がるはずだ。その将来図を予想するには、アルベルト・アクイラーニやアントニオ・ノチェリーノを見れば分かりやすい。アクイラーニはリヴァプールからのレンタルだが、今シーズンの公式戦で25試合以上に出場すれば自動的に完全移籍へ切り替わる契約になっている。ミランは既にアクイラーニと3年契約を交わしており、年俸も現在の200万ユーロ(約2億円)から、来夏には250万ユーロ(約2億6000万円)までアップする。だが、この年俸は歴代の主力選手と比べればはるかに安上がり。年俸150万ユーロ(約1億6000万円)の5年契約を結んだノチェリーノにも同じことが言える。

 今シーズンの彼らのパフォーマンスを見る限り、アンブロジーニやジェンナーロ・イヴァン・ガットゥーゾはもはや絶対の存在ではない。ピルロが抜けた影響もほとんど感じられない。ミランは、もはや“長老たち”のチームではないのだ。

 また、ミランはベテラン勢の穴を埋めるべき若手を外部に求める必要がない。出費を抑えつつチームの平均年齢を下げる“若返り作戦”は既に実施されているのだ。開幕前にアレクサンダー・メルケルを共同保有の形でジェノアへ譲り渡したことは多くのミラニスタを失望させたが、この放出は“育成料”を支払う代わりに実戦経験を積ませていると見るべきだ。ジェノアのレギュラーとして1シーズンを戦い抜くことによって、メルケルには大きな飛躍が見込める。

 21歳のロドニー・ストラッサーもレッチェへのレンタルで修行中。20代前半の有望株をレンタルでかき集め、若手の爆発力で残留を勝ち取ろうとしているチームだけに、シーズンを通して見れば相当な出場機会が与えられそうだ。既にレギュラーと見なされているケヴィン・プリンス・ボアテングとイタリア代表のアクイラーニ、ノチェリーノ。そこに武者修業を終えたメルケル、ストラッサーが加われば、若くて強力な中盤が完成するだろう。

 前線にはステファン・エル・シャーラウィがいる。エジプト人の父とリグーリア州出身の母の間に生まれたエル・シャーラウィは、加入早々から可能性を感じさせるプレーを見せている。また、実績が豊富すぎるために見過ごされがちだが、22歳のパトも若手の一人としてカウントすべき選手だ。

 この通り、ミランは既に数多くの若手を擁している。今後は限られたベテランだけが残り、その経験を若手に伝えていくことになるはずだ。移籍市場で新たな戦力を探すことなく、ミランは若返りと戦力アップを実現し、大幅な人件費削減にも成功することになる。

 ミラニスタにとっての唯一の心配は、シルヴィオ・ベルルスコーニがイタリア首相の座から転がり落ちた影響がどれだけクラブに及ぶかだ。何年も前にクラブ経営の実権を手放しながら、オーナーとして強い影響力を持ってきた彼は現在、会長職への復帰をもくろんでいる。ワンマン経営で知られるベルルスコーニの現場復帰は、これまで地道に進めてきた人件費削減や世代交代といった方策を根底から覆しかねない。

 もっとも、ベルルスコーニがいかに権力を振りかざそうと、FFPの施行により彼のポケットマネーでの赤字補填は実質的に認められなくなる。派手な補強をしたくとも、新ルールがそれを許さないのだ。ベルルスコーニの会長復帰で、多少なりともクラブの強化方針に影響は出るだろう。それでも、これまでに積み上げてきた人件費削減と世代交代の努力が無駄になることはないはずだ。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(@SoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではCover&Cover Interviewページを担当。

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