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育成年代の発育に伴う障害と予防…加藤晴康氏「高いプロ意識で体のケアを」

2015.08.07

 小学生年代でサッカーをする子供を持つお父さん(お母さん)向けに、子供のサッカーの成長、育成に関する各分野のスペシャリストを招き、ジュニアサッカーに必要な知識や考え方を共有するセミナー型のイベント「お父さんのためのジュニアサッカー育成講座」が6月12日に開催された。イベントのゲストとして、立教大学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科准教授、日本サッカー協会医学委員会委員の加藤晴康が登壇。大学で教育、研究をする傍ら、病院での整形外科外来・スポーツ外来の診療も行う同氏が、育成年代の発育に伴う障害と予防について語った。

 子供たちがけがをして痛がった時に、皆さんはそのままプレーさせますか? それともプレーを止めさせますか? 「そんな痛がってるんじゃない。やりなさい」というタイプか、「ちゃんと治してからやらなきゃダメだよ」というタイプか。これってすごく大きな問題なんですよ。もちろん、どちらも大切なんですが、最も重要なのはそれをどう使い分けるかなんです。

 この話をする前に、けがには二つの違いがあるということを話しておきます。けがには「外傷」と「障害」があって、これを分けて考えていかなければいけないんですよ。「外傷」というのは捻挫だったり、骨折だったり、“ももかん”だったり、いわゆる「1回の大きな外力で加わる損傷」です。「障害」というのは、小さな外力が加わってひざや腱、筋が傷むこと。どちらが嫌かというと、恐らくほとんどの方は外傷と答えるかと思いますが、私個人としては明らかに障害の方が嫌ですね。

 まず、外傷というのは「1回の力で加わる損傷」ですから、ガツンとやられた時点でどのぐらい傷んでいるかが決まっています。ですから、トレーニングをしながら治るのか、それともある程度の治療をしないと治らないのか、分かれています。自分でできるかできないかを判断できるというのは、とても大事なこと。「このくらいの痛みだったら、俺はできる」、「この痛みだったらやめておこう」。この判断ができない選手は厳しいと思います。これはもう経験ですし、自分で覚えてもらうしかないんですけどね。

 次に障害。障害は、練習量が原因で起こります。日々の練習量で体に負荷をかけ、だんだん負担がかかってきて、少しずつ炎症が起きる。つまり、2週間休んで練習に復帰したとしても、体が強くなっていない限り、また痛くなるんです。それは当然です。「このけが、癖なんだよね」と、よく言うじゃないですか。体を鍛えることを何にもしないで復帰しているのだから、また痛めてしまう。しっかり、体を鍛えて復帰することが大事なんです。実は、こういうことで苦しんでる育成年代の選手がものすごく多く、この意識が変われば「違う方向に向かうのに」と思っています。

 そしてもう一つ、育成年代の選手ですごく気になる点があります。人間の体は不思議で急激に負担がかかると、いろんな障害を起こすんですよ。今からマラソンしようとして42キロ走ったとしたら、たぶん明日は大変なことになりますよね。だけど、毎日42キロ走っている人は、42キロ走ったとしても平気じゃないですか。痛くも何ともない。それは、トレーニングをしているからです。人間の体は、少しずつ負荷をかけていけば、痛まないんですよ。復帰してすぐに痛むというのは、まさにこれが原因。徐々に慣らしていかなければ、改善されません。こういう理由で障害に苦しんでいる人もたくさんいます。

 また、もう一つ気になることがあります。小学生はウォーミングアップをする前にピッチに出て、いきなりシュート練習とかロングキックをするじゃないですか。彼らはウォーミングアップもせずに、いきなりものすごい負荷をひざに与えているんです。プロの世界で、シュート練習から始める選手っていないですよね。でも、小学生はコーチが来る前にいきなりシュート練習とかロングキックをする子が多い。これによって痛みが出てくる人も多いと思うので、これを少なくしたいと思っています。

 次に成長痛について。成長痛は二つ種類あります。一つは骨が急激に伸びることによって、神経血管が伸ばされて痛くなるもの。これは、幼稚園から小学校1、2年生くらいまでに起こることはほとんどありません。もう一つは成長期。成長期には軟骨が伸びるのですが、その時に急激に負担がかかると、その弱いところが引っ張られて痛みが出る。私はこれを「成長期のスポーツ障害」と言っています。

 小さい子の成長痛はあまり心配する必要がなく、成長期のスポーツ障害の中には、後遺症を残さないで治っていくものもあります。ただ、股関節が急にバキっと痛くなったりとか、足の甲の痛みというのは、後遺症として残ることがあるんです。足の痛みは女の子に多いんですけど、後遺症となって将来的に手術をする子もいます。オスグッドなんかは痛い状態が長く続くと、治りづらくなったりもします。外来をやっていると、「成長痛は病気やけがではない」と思われている方が多くいることが分かりますが、成長痛の中には問題ないものもありますし、良くないものもある。もちろん疲労骨折もあるかもしれないですし、「成長痛」で片付けないで原因が何なのかを調べることが重要です。

 話が変わりますが、現在、国際サッカー連盟がけがを予防しようということで、世界的な取り組みをしてます。「イレブンプラス」という言葉を聞いたはないでしょうか。「イレブンプラス」というウォーミングアップをすると、けがが少なくなったという声を聞きます。ウォーミングアップではいろいろやるんですが、一番衝撃的だったのは体幹トレーニングを行うこと。ウォーミングアップで筋トレをするって衝撃的じゃないですか? 急激に止まる動作、しっかり止まれるかどうかというのは、体幹の筋力によります。片足になった時にしっかりバランスが取れるかというのが重要なんですが、バランスが取れるかどうかは体と足とつなぐ筋肉、股関節から体幹にかけての筋肉がしっかりしているかどうかによります。これがぐらぐらすると、ひざや足首に負担がかかる。そこで捻挫が起きるらしいんです。例えば、小さい子を肩車している時に、上でがたがた動かれると、バランスを取るのがすごく大変ですよね。でも、上でジッとしてもらえれば、下は楽に歩ける。それと同じで、止まったりターンしたりする時に、上がしっかり止まれれば下も安定する。つまり、けがの可能性が減るんです。これがけがの予防のポイントなんです。

 私は育成年代の多くのプレーヤーを見ていますが、「プロ意識ってなんだろう」といつも感じます。私が考えるプロ意識とは、自分で高いモチベーションを常に維持できるかどうか。人に言われてではなく、自分で維持することが大事で、これが体のケアにつながる。自分が疲れたらしっかり休む、痛いところがあったらしっかりケアする。そういう判断ができるかどうかが重要だと思いますね。

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