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止まらないシティの快進撃。マンチェスターの“脇役”が“主役”に躍り出るとき

2011.11.04

文/翻訳協力=サイモン・ハート/田島 大

■相手チームを困惑させる柔軟性と流動性

 マンチェスター・シティは長らく同じ町のライバルの影に埋もれてきた。最後にリーグ優勝した1968年でさえ、マンチェスター・ユナイテッドが英国勢初のチャンピオンズカップ(現リーグ)制覇という栄光を勝ち取ったことにより、“脇役”へと追いやられた歴史がある。

 それでも、アレックス・ファーガソンが言うところの「うるさい隣人」は、10月23日に王者の庭で6−1の大勝を収め、ライバルのリーグ支配に待ったを掛けた。もちろん、これだけでライバルを王位から引きずり下ろしたことにはならないが、2009年12月に始動したロベルト・マンチーニのチームは今、独自の優れたスタイルを確立しつつある。

 マンチーニはシーズン開幕前、リーグ優勝を目指すのであれば昨シーズンのゴール数(60得点)よりも15点は多く取る必要があると話していた。実際の成績は10試合を終えて36ゴール。これは1894−95シーズンのエヴァートンに並ぶ記録的な数字だ。では、シティの成功の秘密はどこにあるのだろうか?

 元シティのDFで、現在はスカイスポーツの解説者を務めるアンディ・ヒンチクリフは、カギを握るのは攻撃の流動性だと話す。

「今のシティはチームの柱となる選手だけでなく、脇役に至るまで、“柔軟性”や“流動性”といった言葉で溢れている。相手チームはボールを失った瞬間に『誰をマークすればいいのか?』と困惑しているはずだ」

 マンチーニの基本システムは4−4−2。セルヒオ・アグエロが下がり目にポジションを取るため、4−2−3−1と言っても差し支えないが、基本的には2人のセントラルMFが最終ラインをガードし、前方に位置する4人のアタッカーが自由にポジションを入れ替えるのが特徴だ。

 彼らの柔軟性が最も顕著に表れたのがマンチェスター・ダービーだった。この日、サイドMFで起用されたダビド・シルバとジェイムズ・ミルナーは、ユナイテッドの両翼がサイドに張っていたのに対し、流動的に中央に流れてチャンスをうかがった。ミルナーは中央に入るだけでなく、左サイドまで流れて先制ゴールをアシストすると、後半には右サイドからクロスを上げて再び得点を演出している。シルバはピッチの至る所に顔を出し、守勢に回った時にはしっかりとガエル・クリシの前方にいた。守るべき場面ではしっかりと自分の持ち場へ帰っていたのだ。

 ミルナーとシルバが中央に流れることで、シティはピッチ中央で常に数的優位な状況を作っていた。ユナイテッドはシティの流動的な動きを捉えることができなかったわけだが、前述のヒンチクリフは言う。「ユナイテッドの最終ラインは、マリオ・バロテッリ以外にマークする相手がいない時間帯もあった。両サイドの選手がポジションチェンジを繰り返し、アグエロも低い位置まで下がることが多かったからだ。DFは相手に動き回られることを嫌う。ユナイテッドの両サイドバックは、定位置を守るべきなのか、相手を追い掛けて中央に絞るべきなのか完全に困惑していた。それもこれも、ミルナー、シルバ、アグエロの動きによるものだ」と。

■中盤のキープ力が生み出す様々な相乗効果

 ギャレス・バリーとヤヤ・トゥレは主に最終ラインを保護する役目を担うが、ヒンチクリフは彼らMF陣のキープ力こそDFにとって何より心強いものだと考えている。

「シティの最終ラインにはスピードもパワーもある。ただ、ヤヤ・トゥレ、シルバ、ミルナー、サミル・ナスリといった中盤の選手がほとんどボールを失わないおかげで、DFに掛かるプレッシャーが軽減されていることも事実だ」

 中盤の高いキープ力は、同時にサイドバックの果敢な攻撃参加を促す。チャンピオンズリーグのビジャレアル戦では、パブロ・サバレタのオーバーラップが終了間際のアグエロの決勝点を生んだ。ユナイテッド戦ではマイカ・リチャーズが右サイドで高いポジションを取り、裏に走り込んでチームの3点目を呼び込んだ。「サイドバックが攻撃参加すると、相手守備陣は左右に引き伸ばされる。ユナイテッド戦でのリチャーズはまるでウイングのようだった。それは中盤の選手の類いまれなキープ力に起因している。もし私がサイドバックで、目の前にシルバやナスリがいたら、いつもより20メートルは高い位置を取るだろう。彼らは決してボールを失わないからね」

 巨額の資金を投じるシティに対してどんなに批判的な人間でも、今シーズンのシルバには感嘆するはずだ。彼は間違いなく、プレミアリーグの序盤戦で最もエキサイティングな選手である。9月のエヴァートン戦ではデイヴィッド・モイーズ監督がジャック・ロドウェルにシルバのマンマークを命じたが、それでもシティが苦しめられたのは68分までだった。バロテッリの先制点が決まり、エヴァートンが前に出ざるを得なくなると、中盤でスペースを得たシルバはいとも簡単にミルナーの追加点をお膳立てしてみせた。試合後、モイーズは控え室の前でシルバに握手を求めた。英紙『ガーディアン』は、シルバがシティを「剛から柔」へと変えたと記し、ユナイテッドにとってのエリック・カントナのような存在になると称賛している。

 最後にヒンチクリフはこう締めくくっている。「シティは知性と柔軟性を兼ね備える。彼らにはプランAどころか、BもCもないと思う。選手たちは試合展開や相手の弱点を瞬時に読み取り、自分たちで打開策を見つけることができるのだからね」

 連係と個人技を織りまぜた変幻自在の攻撃サッカーを武器に、シティがマンチェスターの“主役”に躍り出ようとしている。

◇攻撃の主役は?
・マンCを躍進をけん引する“陰の主役”シルバ「最高の状態」
・マンC、アグエロの劇的決勝弾でビジャレアルを下しCL初勝利
・マンチェスターの新たな王者、アグエロ「ダービーの勝者がこの町を制する」

◇話題に事欠かないバロテッリ
・神童か悪童か、なぜいつも“彼”なのか。天才マリオ・バロテッリの履歴書
・巨大バロテッリ像が燃やされる!? 花火騒動で英国伝統行事の主役に
・バロテッリを見守るマンチーニ監督「マリオは“予測不可能”なんだ」

◇テベスの問題は?
・マンチーニがテベスを受け入れへ「謝罪すれば元通りの関係に」
・テベスへの罰金が約1億2000万円から半減…選手協会が支持
・マラドーナ、渦中のテベスに同情「プレーできないのは辛いこと」

【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(@SoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではCover&Cover Interviewページを担当。

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