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マンUでの25周年、名将ファーガソンの「不変のスタイル」と「進化へのチャレンジ」

2011.11.04

文/翻訳協力=ジム・フラートン/田島 大

■伝統のサイド攻撃とルーニーの特殊な役割

 四半世紀にわたり、マンチェスター・ユナイテッドの監督として指揮を執り続けるアレックス・ファーガソン。多くの名手とともに幾多のタイトルを手に入れてきたファーガソンだが、彼のチームには普遍的な特徴がある。

 まず、ファーガソンは基本的に4バックを好み、2トップを採用する場合は1人が下がり目に位置し、MF的に振る舞う。そして、もう一つの特徴はウイングの重用だ。ライアン・ギグス、アンドレイ・カンチェルスキス、デイヴィッド・ベッカム、クリスティアーノ・ロナウド……。“赤い悪魔”の攻撃の多くはサイドから生まれてきた。

 恐らく、ユナイテッドはプレミアリーグで最もサイドアタッカーの選択肢が豊富なチームだ。アストン・ヴィラから加入し、チームにテクニックと得点力をもたらしたアシュリー・ヤングの他にも、両足でゴールを狙えるナニ、スピードとクロス精度が自慢のアントニオ・バレンシアがいる。対戦相手のサイドバックにとって、ユナイテッドほど脅威に感じるチームはないはずだ。

 1990年代にアーセナルの最終ラインの一角を担い、現在はBBCで解説者を務めるリー・ディクソンは、「今でもユナイテッドの攻撃の大半はサイドから生まれている」と断言する。「サー・アレックスは4ー4ー2を好み、ウイングはスピードを生かして突破を図る。典型的な得点パターンは速攻の形からサイドにボールを預け、2トップの一方がニアポストでクロスに合わせてフィニッシュに至るものだ」と。

 もちろん、ユナイテッドの攻撃はサイドだけにとどまらない。もう一つの攻撃パターンは、ウェイン・ルーニーが少し下がってボールを受けた時に始まる。マークを引き連れながら、あるいはマークを振り払って中盤に下がったルーニーは、即座にターンして前を向き、前線に正確なパスを供給する。これが相手にとっては実に守りにくい。ルーニーが動くことで、DFは彼本人と彼が空けたスペースを同時にケアしなければならなくなる上に、パートナーを務めるハビエル・エルナンデスも素早い動きで瞬間的にマークを振り切ることができるからだ。

 ディミタール・ベルバトフやダニー・ウェルベックがベンチを温めるほど、前線の選択肢が豊富なこともユナイテッドの強み。第二、第三の矢を持つユナイテッドは、多少の戦術ミスや人選ミスがあっても、10月のリヴァプール戦のように選手交代だけで修正ができてしまう。

 1点をリードされたユナイテッドは、抜本的な変更を施すことなく、ルーニー、エルナンデス、ナニという3枚のカードを切ることで同点に追いついてみせた。ルーニーをトップ下に置き、ウェルベック、エルナンデス、ナニを前線に並べる4ー2ー3ー1の布陣にスイッチしたユナイテッドは、攻撃の枚数が増え、自然と全体のポジショニングが高くなった。ゴール自体はセットプレーから生まれたものだが、多くのチャンスを作り出したことは事実。極めてシンプルだが、攻撃の枚数を増やすこと、これがユナイテッドにとっての“プランB”と言える。

■攻撃面の意識改革が守備の破綻を招く

 一方、守備面での今シーズンの特徴はリオ・ファーディナンドとネマニャ・ヴィディッチが故障がちで、ジョニー・エヴァンスやフィル・ジョーンズが多くの試合で起用されている点だ。新加入のジョーンズは最終ラインから果敢に攻め上がるタイプのDFで、エリア付近までドリブルで持ち上がることも少なくない。前述のリヴァプール戦では、ファーガソン監督はジョーンズをセントラルMFとして起用。ここにユナイテッドの戦術の幅の広さを見て取ることができる。

 もっとも、守備面についてはポジティブなことばかりではない。ディクソンは、マンチェスター・シティ戦で浮き彫りになった弱点を次のように指摘する。

「今シーズンは守備が彼らの弱みだ。クリス・スモーリングやジョーンズはうまくやっているが、ヴィディッチ不在の穴は予想以上に大きい。ユナイテッドは例年にないほど最終ラインが無防備になっている。チーム全体の意識が攻撃に傾き、かつてのロイ・キーンのように最終ラインを補佐するフィルター役もいない。今シーズンのプレミアで最もセーブ数が多いのはダビド・デ・ヘアだという。これは驚くべきデータだ」

 ユナイテッドは、昨シーズンのチャンピオンズリーグでバルセロナのスタイルを肌で味わい、意識的に高い位置でのプレスにチャレンジしている。万が一、ボールを失った際は素早くボールを奪い返すためにハードワークを惜しまない。その意識はルーニーを筆頭にチーム全体に浸透している。

 しかし、守から攻への切り替えが早いユナイテッドも、攻から守への切り替えはまだうまくいっていないようだ。守備面を考慮すれば、豊富な運動量でディフェンスにも貢献できるパク・チソンを起用するなど、ウイングの選択も重要になってくるだろう。

 昨シーズンのバルサ戦で“手痛いレッスン”を受けたユナイテッドは、新たなスタイルを見いだすべく動き出した。しかし、若返りを図ったチームは構成メンバーも変わったばかり。彼らが真の意味でユナイテッドの選手に成長するにも、チームが新たなスタイルを完成させるにも、もう少しだけ時間が必要かもしれない。

◇エース、ルーニーの存在感
・万能のルーニーにポジションのこだわりなし「MFでも要求されれば応える」
・ルーニー「ゴールを奪うのはいつだって最高の気分」

◇新たなライバル、マンCに大敗も
・マンC、王者マンUから6得点で衝撃的なダービー勝利を飾る
・マンCに歴史的大敗のマンU、ファーガソン監督「人生最悪の敗戦」

◇ファーガソン監督は世代交代を推進
・マンの好発進、老将ファーガソンが押し進める巧妙な世代交代策とは
・レジェンドの幻影と戦う早熟の天才GK、デ・ヘアはマンUの新守護神となるか

【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(@SoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではCover&Cover Interviewページを担当。

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