2015.06.20

内戦で絶たれた元シリアサッカーユース代表選手の夢…真実を映しだしたドキュメンタリー映画が8月公開

 ワールドカップ・ロシア大会アジア2次予選が始まった。日本はグループEだがこのグループには特別な思いを抱えて出場している選手たちがいる。シリアの選手たちだ。シリアでは2011年から「アラブの春」をきっかけに内戦が続いている。もし、内戦がなければ10月の日本との代表戦のピッチに立っていたかもしれない若者を紹介したい。

シリア内戦で絶たれてしまった元シリアサッカーユース代表の夢

「アラブの春」が吹き荒れるまで、当時19歳だったバセットはアジアで2番目と評されたこともあるほど将来を待望されたシリアサッカーユース代表のゴールキーパーだった。将来はプロサッカー選手を目指していたが、中東全体が「アラブの春」の渦に飲み込まれていく中、バセットはシリアの民主化を求めて、故郷ホムスの民主化デモのリーダーになっていく。しかし、バセットたちの平和的なデモに対して、政府軍は容赦ない攻撃によって170人もの人々を殺害する。これの事件をきかっけにバセットと仲間たちは武器を持ち、戦い始めることになる。ゴールキーパーから、スナイパーに。そしてやがてバセットは、武装闘争グループのリーダーへと転身していく……。

「戦争は若者の人生を奪っていくことを伝えたい」

 2012年5月、カナダのトロントで開催されていたHot Docs カナディアン国際ドキュメンタリー映画祭でドイツの名物映画・テレビ番組プロデューサーハンス・ロバート・アイゼンハウアーさんがこう熱く語っていたそうだ。

 ハンス・ロバートさんが当時企画していた映画こそ、8月1日から劇場公開となるバセットが主人公のドキュメンタリー映画、『それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』だ。

「シリアでは19歳のキラキラとした青春の時間が戦争によって奪われているんだ」

 人生を懸けるほどの想いで語りかけて来たというハンス・ロバート。その場に居合わせた関係者からその時の様子を聞くことが出来た。

 この映画はこれまでに観たどんな映画よりも衝撃を受けたかもしれない。シリア出身のタラール・デルキ監督がバセットと行動を共にしながら撮影しており、銃弾が飛び交いバタバタと人が撃たれていく。バセットも足を撃たれ、サッカー選手としての復帰は絶望的になってしまう。これは、フィクション映画ではなく真実を映しだしたドキュメンタリー。嘘であって欲しいと思うほど酷い現実だ。

10月のシリア戦、普段の対戦とは違う眼差しでも視て欲しい

 バセットのようにプロサッカー選手になることすら出来なかった若者がいる。4年も内戦が続き、殺害された選手もいる。今ではIS(イスラム国)が出現し、混迷を深めるばかりのシリア。そんな内戦を乗り越えて、シリアの選手達はW杯出場を目指している。選手一人ひとりが、語りきれないほどの思いを抱えての出場に違いない。どうか、シリア戦が行われる10月、そんな彼らの人生にも思いを馳せて欲しいと思う。そして、チャンスがあれば8月から公開となる、ドキュメンタリー映画、『それでも僕は帰る ~シリア 若者たちが求め続けたふるさと~』をご覧頂きたい。

寄稿者:ユナイテッドピープル 代表 関根健次