写真=Getty Images 文=川本梅花
「破壊せよ」、そして日本代表を「再生せよ」
ワールドカップ・アジア2次予選、日本代表はシンガポール代表と戦って0-0の引き分けに終わった。シンガポールにとって日本との引き分けは、心理的に勝利に等しいものだろう。なぜならば、最初から引き分けを狙った戦術で臨み、我慢に我慢を重ねて守りきって、「引き分け」という目標を成し遂げたからである。
自らの欲望を制した者
シンガポール代表は、[4-1-4-1]のシステムを敷いてくる。守備の際には、ミッドフィルダーの5人がディフェンダーの4人の前に横一線に並んで2ラインを作る。このときに、ミッドフィルダーとディフェンダーの間(ギャップ)を狭める。日本がボールを味方のディフェンダーに下げると、シンガポールのディフェンダーは、ペナルティアークの先端まで頑張ってラインを上げる。日本がビルドアップを開始して柴崎岳や長谷部誠にボールが入ると、日本のフォワードの動きを見ながら最終ラインを整える。ペナルティアーク先端とペナルティマークの間を行ったり来たりしながらラインコントロールする。日本がボールを下げると必ず最終ラインを上げる。シンガポールは、ディフェンダーとミッドフィルダーの2ラインをコンパクトに保って、紀律的でありさらに必死になって守備をしていた。前半、日本のフォワードにオフサイドが多かったのは、日本がディフェンスの裏を狙った攻撃を多用したのと、それに対するシンガポールのラインコントロールがあったからである。
もしも、シンガポールに力強いフォワードがいたならば、日本のボールを奪ってのカウンターから得点を奪えるチャンスがあったかもしれない。見ていて日本の守備はとてもルーズだった。しかし、守備に追われた選手たちに攻撃する体力もなく、ひとりで突破できるフォワードなどチームにはいない。それならば、欲をださずに守れるだけ守ろうという戦い方をした。つまり、自分たちの実力を知っているからこそ、献身的に守り抜こうと戦いぬいたのであろう。
「私は、敵を倒した者より、
自分の欲望を克服した者の方を、
より勇者と見る。
自らに勝つことこそ、
最も難しい勝利だからだ」。
この言葉は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの箴言である。まさにシンガポール代表は、古代の哲学者の言葉を実践したのであった。
ジュネーヴ大学大学院文学部言語学科終了。青森県出身。『サッカープロフェッショナル超分析術』『サッカープロフェッショナル超観戦術』(カンゼン)『大宮アルディージャの反逆』『俺にはサッカーがある』( 出版芸術社)。『サッカー批評』(双葉社)「田中順也TJ リスボンからの風」を連載中。Web「サッカーキング」でコラムを執筆。
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