2015.06.08

97分間の闘いの中で何があったのか?/チャンピオンズリーグ決勝レビュー


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時間経過に沿ってチャンピオンズリーグ決勝戦を分析する

はじめに

 2015年6月6日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ決勝戦は、3-1でバルセロナが勝利した。バルセロナは、圧倒的な強さを見せつけて栄冠を勝ち取ったように見られる。

 実際は、本当にそうなのだろうか?

 前・後半の闘いはアディショナルタイムを入れて97分間だった。両チームの選手が死闘を繰り広げた97分間のピッチの中では、どのような攻防が為されていたのだろう。

 筆者は、試合後に97分間の攻防を具体的に細かく記述したい気分に駆られた。そのためには、時間経過に沿ってプレーを解説することがベストなのではないかと考えた。何分何秒から何分何秒までのプレーを時間軸に辿って具体的に書き記す。見るべきポイントを挙げて指摘する。読者は録画した(あるいはWeb上にある)試合を、このテキストの記述に従って追順していくことで、97分間に何があったのかをうかがうことができる。こうした試みが、吉と出るかどうかわからないが、実験的なやり方に付き合ってくれればありがたい。

 では、分析を始めることにしよう。

試合開始前 0分

●フリーになれそうな選手を見つけ出せ!

 キックオフの笛が鳴らされる前に、両チームの選手はセンターラインを挟んで、それぞれのフォーメーションとシステムの形を維持して立っている。

 バルセロナは、[4-3-3]のフォーメーションで、システムは中盤が逆三角形になっている。逆三角形の底にはセルヒオ・ブスケツがいて、左にアンドレス・イニエスタ、右にイヴァン・ラキティッチが構える。いつものポジショニングと選手の顔ぶれだ。

 ユヴェントスは、[4-3-1-2]で、あるいは[4-4-2] のフォーメーションだとも言える。システムは中盤がダイヤモンド型になっている。ダイヤモンド型の底にアンドレア・ピルロがいて、右にクラウディオ・マルキジオ、左にパウル・ポグバ、トップ下にはアルトゥロ・ビダルが構える。こちらも、いつものシステムでおなじみのスターティングメンバーである。

 バルセロナの[4-3-3]とユヴェントスの[4-3-1-2]のシステムを組み合わせると、次のことが分かってくる。バルセロナの両サイドバックがフリーになれるかもしれないということ。ユヴェントスが何も対策をしてこなければ、左ジョルディ・アルバと右ダニエウ・アウヴェスがフリーになれる可能性が見えてくる。

 ユヴェントスは、ダイヤモンド型の底にいるアンドレア・ピルロがフリーになるかもしれない。ここで「かもしれない」と言っているのは、相手が何らかの対処をしてこなければ、その選手がフリーになれるという意味で「かもしれない」と留保して述べている。

 試合が始まる前に両チームのシステムを組み合わせてわかったことは大きく2点あった。

[1]バルセロナの両サイドバックのジョルディ・アルバとダニエウ・アウヴェスがフリーになれるかもしれない。
[2]ユヴェントスのセンターハーフのアンドレア・ピルロがフリーになれるかもしれない。

 まず、この2点を頭の中に入れて試合を見ていこう。

3分10秒から3分24秒までの出来事

2.先制点を与えたのは誰のプレーが原因なのか?

 バルセロナが先制点を得る場面を見てみる。

 アウヴェスがボールをもつ。彼の近くにはメッシがいる。ラキティッチはメッシを追い越して前線にいきペナルティエリアのラインの前に移動する。ちょうどルイス・スアレスの横に並ぶポジションだ。ユヴェントスは守備の際(バルセロナにボールをもたれている際)、4人のディフェンダーと4人のミッドフィルダーがそれぞれ横一線になって2ラインを作ってブロックを敷く。攻撃の際はダイヤモンド型になるシステムは、守備の際にはトップ下のビダルが下りてきてピルロの横に並ぶ。[4-4-2]のシステムはそれぞれフラットになって守備をする。

 そのとき、バルセロナがボールを持っているならば、ユヴェントスの選手は、全体の陣形を保ったままボールサイドにスライドしていく。つまり、バルセロナの右サイドにボールがあれば、ユヴェントス側からすれば左サイドに全体の布陣を移動させる。ここでは「一方のサイドは捨てる」というやり方をとる。そうするとバルセロナの逆サイドにいる選手は、最初に述べた通りにもともとシステム上フリーになれるので、プレッシャーがかからない状態でいられることになる。

 ボールを持つメッシの前にはカルロス・テベスが立っている。ヘタにメッシに近づくとドリブルでかわされるのでプレスにいけない。アルトゥロ・ビダルは、フラットに並んでいる中盤のポジションを離れて、前に出てメッシの進行を阻もうとする。メッシはすぐに、逆サイドへボールを蹴り込む。これはサイドチェンジなのだが、バルセロナ側から見て、右サイドに重心を置くユヴェントスの選手を左サイドに移動させるというサイドチェンジではない。この試合で何度も見られるようになるが、メッシからサイドに出されるチェンジボールは、得点と直結するものだ。

 メッシからのパスをフリーのアルバが受けて、ダイレクトでペナルティエリアにいるネイマールに送る。ネイマールは、キープしながらペナルティエリアの外に出る。このときに、ネイマールの近くにスティーヴン・リヒトシュタイナーがいた。右センターバックのアンドレア・バルザリがネイマールについていく。ネイマールが最初にボールをもらった場所はフリースペースとなる。そこにアンドレス・イニエスタが入っていく。

 前線に上がっていたラキティッチが、ペナルティエリアの真ん中にやってくる。イニエスタにボールをくれるように手招きする。ラキティッチは左足からダイレクトでシュートを決める。これが、バルセロナの先制点が生まれる流れである。

 イニエスタがフリースペースに入ってボールに触れたとき、ペナルティエリアの中にユヴェントスの選手が8人いる。バルセロナの選手は4人だ。つまり、8対4でユヴェントスの数的優位だった。それにも関わらず先制点を許した。第一の原因は、メッシにサイドチェンジを許したことが挙げられる。第二に、バルザリがネイマールについて行ったことで、ディフェンダー4人でブロックを作って守っていたラインを崩して、逆にフリースペースを作ってしまったことにある。

 メッシにはもっと厳しくプレッシャーを与えないといけない。後半になってやっていたように、ボールを上げさせないでバックパスをさせるように仕向けることが大切だ。さらに、バルザリがネイマールについていかなくても、リヒトシュタイナーがいたのだから不必要なプレーだったと思われる。

川本梅花
ジュネーヴ大学大学院文学部言語学科終了。青森県出身。『サッカープロフェッショナル超分析術』『サッカープロフェッショナル超観戦術』(カンゼン)『大宮アルディージャの反逆』『俺にはサッカーがある』( 出版芸術社)。『サッカー批評』(双葉社)「田中順也TJ リスボンからの風」を連載中。Web「サッカーキング」でコラムを執筆。
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