2015.06.04

UEFAチャンピオンズリーグ決勝戦で注目すべきポイント―バルセロナ編

Photo by Getty Images

 スペインのリーガ・エスパニョーラを勝点94で優勝したバルセロナ。スペイン国王杯でもアスレティック・ビルバオに3-1で勝利して優勝したバルセロナ。6月6日に行われる今シーズン最大のサッカーイベントであるUEFAチャンピオンズリーグ決勝戦で勝利して、リーガ、国王杯、CLと3冠を達成しそうなバルセロナ。終盤を迎えた今季の欧州サッカー界の景色は、バルセロナのサッカーの話題で染まることになるだろう。きっと誰もがそう感じることになるに違いない。しかし、たった一人の人間だけが、結果と現実の乖離に打ち砕かれることになるかもしれない。

 彼の名はルイス・エンリケ。選手時代はバルセロナの中心選手であって、古巣に監督として戻ってきた彼は、たとえチームが3冠を達成しても、心の中にぽっかりと開いた空洞を誰も埋めることはできないだろう。

ルイス・エンリケ監督の孤独と君主するリオネル・メッシの存在

 2015年1月4日、バルセロナはアウェのエスタディオ・デ・アノエタに乗り込んでレアル・ソシエダと対戦した。試合は1-0でバルセロナが敗れる。失点はオウンゴールだったが、試合のペースがバルセロナになびかないとみた監督のエンリケは、前半ベンチに置いていたリオネル・メッシを慌てて後半からピッチに送り出す。しかし、自陣深くに退いて全員で守るソシエダの守備を崩せずにバルセロナは敗北した。

 この試合のスターティングメンバーを見れば、エンリケ監督がやろうとしていたチームの方針がわかる。1995年生まれで20歳のムニール・エル・ハダディがスタメンに名前を連ねる。さらに、新加入のジェレミ・マシューがセンターバックを務めるなど、選手をローテーションで使っていき、若手や控えの選手を起用してチームに活力を与える。そうした方針が明確に監督の頭の中にはあったのだろう。しかし、1月4日のソシエダ戦の敗戦以後、選手のローテーション起用は鳴りを潜めて、固定化式選手起用に収まっていく。そのきっかけが、ソシエダ戦のロッカールームでの監督とメッシの激しい口論にあったことは自明の理だ。起用法や戦術に関して納得のいかなかったメッシは、エンリケに意見をぶつける。監督であるエンリケは、もちろん周りの選手への自分の影響力を考慮して、物言うメッシを厳しく抑え込む。この出来事で、エンリケとメッシの関係は修復不可能になった。

 監督は、絶対的権威によって選手に完全なる指令を行使できる。一般的、監督に物言う選手は試合に使われずに干されていく。しかし、バルセロナに限って言えば、そんなことはまったくない。特にメッシに限っては、という保留がつく事象だ。エンリケにとっての監督は、一人の選手よりも発言力がなく権威たる冠は幻想の産物でしかなった。そうした現実を知らされるのは、ソシエダ戦の翌日であった。公開練習が行われる場所にメッシは現れない。無断欠席したメッシは何のおとがめもなく次節のアチレティコ・マドリード戦に先発出場した。

 スペインメディア報道によれば、規律違反に怒った監督はメッシに何らかの処分を下そうとしたが、会長をはじめ一部の選手に止められて実行できなかったと伝える。バルセロナでのメッシは、監督が本来もつだろう威厳を超越した存在として君臨している現実に、このときエンリケは気づいたのだ。

 バルセロナで君臨するメッシの存在の大きさは、今にはじまったことではない。バイエルン監督のジョゼップ・グアルディオラがバルセロナの監督だった2009年にズラタン・イブラヒモビッチ(パリサンジェルマン所属)がフォワードを務めていたときだった。システムは[4-3-3]で右ウイングにメッシが置かれている。イブラヒモビッチはチームの得点王でシステム上も機能していた。しかし、練習中にメッシは監督のグアルディオラに真ん中のポジションでプレーしたいと嘆願する。監督もすぐに同意してシステムを[4-5-1]に変えた。イブラヒモビッチがセンターフォワードとなって、トップ下にメッシがポジショニングする。ボールは常にメッシに集まって、イブラヒモビッチがゲームから消えるようになっていった。もちろん、このやり方に納得のいかないイブラヒモビッチはグアルディオラに抗議したが、監督はメッシの発言を守る立場をとる。結局、イブラヒモビッチはバルセロナを去ることになった。

 バルセロナでのメッシの存在がエンリケ監督を孤独な世界へと押し込んでいったことは確かなことだろう。しかし、皮肉にもエンリケが孤独を感じれば感じるほどにチームは結果を残していくようになる。

川本梅花
ジュネーヴ大学大学院文学部言語学科終了。青森県出身。『サッカープロフェッショナル超分析術』『サッカープロフェッショナル超観戦術』(カンゼン)『大宮アルディージャの反逆』『俺にはサッカーがある』( 出版芸術社)。『サッカー批評』(双葉社)「田中順也TJ リスボンからの風」を連載中。Web「サッカーキング」でコラムを執筆。
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