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パレスチナ戦でのMVPはアンカー役の長谷部誠~AFCアジアカップ2015日本対パレスチナ戦を見て~

2015.01.14

Shin-ichiro KANEKO

 2015年1月12日、日本代表はグループDの初戦でパレスチナと対戦した。最新(1月8日付)のFIFAランキングでは、286ポイントで110位のパレスチナが、563ポイントで54位の日本に勝利するのは、実際上、FIFAランキングの差から見ても難しい。

 現実には、日本がパレスチナからどれくらい得点を奪って、チームの構成力をアップするための試合ができるかどうかに、この試合のポイントがあった。

 そこで、試合で見られた3点をピックアップして、次の16日に行われるイラク戦を観戦するための視点を示したい。

視点1=ボールを外に追い込んで守備をする


Photo by Shin-ichiro KANEKO

 試合が始まって15秒に、パレスチナの背番号10番イスマイル・アルアムールが右サイドでボールをもつ。そのときに、日本の左SBの長友佑都と左インサイドハーフの香川真司が、2人でタッチラインにアルアムールを追い込んでいく。アルアムールは行き場を失って前線にボールを蹴り出す。ボールは森重真人に渡る。

 この場面を見れば、相手のサイドの選手がボールを持ったら、日本の選手は、タッチライン沿いにボールを2人から3人で追い込んでいきプレッシャーを与えることがわかる。

 同じような場面は、逆サイドでも行われた。背番号7番のアシュラフ・ヌーマンがサイドでボールを持つと、右SBの酒井高徳と右FWの本田圭佑がタッチラインに追い込んで、2人で協力してボールを奪った。

 守備の約束事として、相手をタッチライン沿いの外に追い込んで数人でボールを奪うのか、それとも相手をピッチの中に追い込んで数人でボールを奪うのかがある。日本の場合、相手がボールを持ったらタッチライン沿いの外に追い込み、数人でボールを奪うというやり方がなされた。

視点2=中盤はディレイで守備をする

 試合の中で長谷部誠が、ボールを持った相手選手にプレスに行かずに、相手の前に立って進路を防いでプレーを遅らせていた。その間に前線に上がっていた長友が、すばやく自分のポジションに戻っていこうとする場面が何度もあった。

 長谷部が行ったプレーをディレイという。

 ディレイとは、ボールを持った相手選手の勢いを止めるために、ボールに対してプレスに行かずに、ボールを持つ相手選手の前に立って動きを遅らせるやり方を言う。

 攻撃から守備への切り替えのとき、時間を稼いで不利な状況を脱することを目的にした守備のやり方である。

 ディレイに関して、オランダ1級ライセンスをもつ林雅人がこのような話をしてくれたことがあった。林は現在、タイプロリーグ2部リーグのソンクラーユナイテッドFCの監督を務める。

 ライセンスの講習会の際に、守備の局面で「相手の勢いを止めるにはどうすればいいのか?」というテーマが議題になった。あるオランダ人の受講者は「選手全員が下がって守備をすればいい」と答えた。それに対して講師が、「それでボールの勢いは止められるのか?」と話して次のような説明をしたという。

「相手の勢いを止めるには、まず防ぐということを考えるしかない。だから、下がっているだけではダメだ。味方が攻めていてボールを奪われて守りへと切り替えるとき、全員が下がるのではなく、ボールの近くにいる選手はその場にステイして相手の勢いを止める。ここでは止めるだけでいい。前にプレスにいくと相手に躱される確率が高くなるので、相手の前に立ちはだかることにする。その間に、味方の残りの選手全員が瞬時に下がってブロックを敷く」

 アンカー役の長谷部を1人置けば、長谷部の両脇が空くことになる。そこに相手選手が入り込んで攻撃を仕かける。あるいは、日本の両SBが攻撃参加して前に上がったときに、SBの後ろを狙われる。こうした攻撃から守るために、ディレイして相手の攻撃を遅らせて、その間に全員がスタートポジションに戻っていく。

 日本は、中盤での守備に関して、ディレイというやり方がなされていた。

視点3=バランス重視のポジショニング

 日本は攻守・守攻に渡って、選手のポジショニングにバランスのよさがあった。先制点となった遠藤保仁の得点は、日本の攻撃のやり方と岡崎慎司のポジショニングにある。(GKサレーを含めたパレスチナの守備力にも問題がある)

 まず、日本がビルドアップするとき、CBの吉田麻也と森重の2人は、大きく左右に開いてポジションを移動する。2人のCBの間には大きな空間ができる。そこにアンカーの長谷部が下りてきてDFが3人になる。

 真ん中にいる長谷部がボールを持ってドリブルして前線に駆け上がる。3トップの内、両サイドにいる乾貴士と本田圭佑はタッチラインに張ってワイドに構える。両SBの長友と酒井高徳が高い位置をとって攻撃参加する。これがビルドアップ開始時の各選手のポジションニングになる。

 先制点の際の状況を振り返ってみよう。
 パレスチナ戦では、SBの16番ジャービルがほとんど攻撃参加しないで、本田についていた。本田は、状況を見てピッチの中央寄りにポジションを移動した。SBの酒井は、ヌーマンを見ることと長友とのバランスを気にしながら、リスクマネージメントを考えてプレーする。

 SBの長友が前線に上がる。パレスチナのDFは長友と香川につく。乾がボールを持つと、パレスチナのCH2人が前に立つ。しかし、どちらの選手もプレスに行かない。遠藤が中央を駆け上がって乾にボールを要求する。このときに、岡崎が相手の2人のCBの間に走り込む。当然、CBは岡崎についていく。そうすると、遠藤の前方は、がら空きになってGK1人とゴールしか目の前にない。

 2人のCBの間からスタートする長谷部のビルドアップ。タッチラインを利用して上がっていく長友。ピッチの中よりにポジションを移動する本田。スペースを空けるために相手のCBをつり出す岡崎。

 遠藤のゴールは、このような連係されたポジショニングから生まれた。

 16日のイラクは、日本選手に対して相当プレッシャーをかけてプレーしてくるから、パレスチナ戦のような試合展開は望めない。しかし、バランス重視のポジショニングをとって、各選手がプレーできれば負けることはないと思う。

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