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悲願、初の高校選手権制覇へ…前橋育英の名将・山田耕介監督に聞く選手育成術

2014.12.19

 4度のベスト4を経験しながらも、全国高校サッカー選手権大会の決勝の芝を未だ踏むことができていない名門、前橋育英高等学校。2年ぶり18回目の出場となる今大会では、世代別の日本代表でもある主将の鈴木徳真や渡邊凌磨らを擁し、悲願の初優勝を目指す。

 同校を率いるのは、現在はヘルタ・ベルリンでプレーする日本代表MF細貝萌らを育てた名将、山田耕介監督。大会直前、その山田監督に高校世代の育成法や選手権についてなどを聞いた。

[ワールドサッカーキング2015年1月号付録 サッカーキング・フリー フォー・プレーヤーズ掲載]

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―――長らく前橋育英を率いていますが、「前育らしさ」とは何だと思われますか?

山田監督 選手の個性を引き出す、伸ばすことですかね。僕の指導方針として、個性を伸ばすという意識が根本としてあります。

―――前橋育英が標榜するサッカーとは、どんなサッカーでしょうか?

山田監督 しっかりポゼッションをするというのが大前提としてあります。そのために選手は最低限の技術を備えないといけない。そうでないと世界で通用するプレーヤーは生まれないですから。コンパクトなサッカーを実践するために、「ボールを止めて、蹴れる」は必須の能力です。ただし、サッカーはポゼッションがすべてではありません。それに加えて、ダイレクトプレーを織り交ぜないといけない。ポゼッションサッカーを実践するにも、ダイレクトプレーを加えるにも、まずはちゃんとボールが蹴れないといけません。

―――前橋育英は、山口素弘氏や細貝萌選手を始め、多くのJリーガーを輩出しています。秘訣はどんなところにあるのでしょうか?

山田監督 やはり選手の個性を伸ばすということです。素弘には素弘の良さが、萌には萌の良さがあった。それを前面に引き出してあげる手助けをしただけです。彼らは決して身体能力は高くなかったですが、理解力が高かったですね。

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―――普段はどのような練習メニューを行っているのでしょうか?

山田監督 基礎練習を大切にしています。ボールワーク、3対3から始まって、それから週のキーワードに沿った練習メニューを行う。

―――毎週練習のキーワードを設定するのですか?

山田監督 そうですね。週末の試合を分析して、修正点を洗い出します。中盤のディフェンスが甘かったら、プレッシングの練習を行う。ボールの移動中のアクションにミスが多い場合は、そのアクションを繰り返し行っています。MTM(Match-Training-Matchの略称。試合を経て課題を見つけ、その課題をトレーニングする。再度、課題を意識しながら試合をするという、指導方法の一つ)ですね。

―――ボールを使ったトレーニングメニューが多いのでしょうか?

山田監督 火曜日は基本的に10キロの素走りをやらせています。能力によって設定タイムを設けて、1キロを3分20秒、30秒、40秒とそれぞれのタイムで走り切るようにさせる。やはり走れないと戦えないので。

―――他校と比べて、変わったメニューは採り入れていますか?

山田監督 変わったメニューはないと思いますよ。本当に当たり前のことをやらせています。

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―――練習中の選手を見る時には、特にどんなことに注目していますか?

山田監督 やっぱり一瞬でしょうね。指導者は瞬間を見逃したらいけません。例えば、皆川(佑介)の胸トラップとか。あの技術を見逃していたら、彼は普通の選手だったかもしれない。トレーニングでなかなかできていないプレーが、やっとできるようになったという時に、すぐに「あのプレーが良かった。すごいじゃん」と選手に伝えます。まあ、滅多にないですけどね(笑)。

―――普段できていなかったプレーを、新たに習得した時が大事だと。

山田監督 そのタイミングが大切なんです。それが継続してできてしまえば、選手たちは一皮も二皮もむけるんですよね。それを見逃して、そのままにしておくと選手の成長は止まってしまう。指導者は選手たちに成長を実感させることが重要です。子供たちは自分で成長したことに気づいていない。それを気づかせることは、絶対に意味のあることです。

―――かつて細貝選手をボランチへコンバートされましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

山田監督 萌はパスコースを読む力や、ボール奪取能力に優れていた。それにあの頃は、萌の他にコントロールタワーになれる選手が2人いた。当時の彼は「僕はゲームを組み立てて、中心になりたい」と言ってましたね。でも僕が「お前のプレーはそうじゃない。萌、お前の次の展開を読む力は、誰も持っていない力なんだ」と伝えたんです。

―――細貝選手本人はコンバートをどう受け止めていたのでしょうか?

山田監督 賢い選手でしたから、大丈夫でした。すぐに切り替えて、しっかりと取り組んでくれました。

―――プロで通用する選手を育て上げるために、特に意識していることはありますか?

山田監督 サッカーは足でプレーする競技ですが、プロになるためにはやっぱり頭とハートですよ。足元の技術がうまい選手はいっぱいいますから。そこからは考える力が大事になる。アクションできて、シンキングできる選手でなければいけない。僕らも選手たちが自分で考えて行動に移せるように、引き出そうとはしています。「考えろ、考えろ」と。「サッカーに明確な答えはないから、自分の考えをもっと言おう。そして行動しよう」と常々伝えています。

―――ハートの部分というのは?

山田監督 僕はよく「元気、本気、根気」と言っています。まず、元気でなくてはいけない。そして、プロになりたいのならば、サッカーに対して本気にならないといけない。「本当に僕はプロ選手を目指したい」とか、「本当に僕はこういうサッカー選手になりたい」と本気で思うこと。本気にならないと夢は実現しないでしょ。そして根気強く続けることですね。優れた選手でも、途中であきらめてしまう子供は多いです。子供たちが本気になるから、こっちも本気でやらなくてはいけない。プロ選手に育った選手たちは、みんなそうでした。

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―――監督が考える「良い選手」の条件とは何でしょうか?

山田監督 うまい選手とかテクニックがある選手は大勢いるじゃないですか。しかし、良い選手はあまり多くない。ではどこが良い選手なのかと言うと、その場の状況に応じて最高の判断ができる選手。要はクリエイティブな選手ですよね。状況判断がいい選手というのは、周りがよく見えていて、ドリブルなのか、パスなのか、シュートなのか、その中で何が良い選択かを分かっている選手です。あまり多くはないですけど、そうでないと世界では通用しない。フィジカル的に日本の選手は厳しいところがある。だからよく見て、適切に判断するということが必要になってくる。選択肢は自分で考えればいい。でも、何でその選択肢を選んだかというのが大事になってくる。

―――監督が接しているのは、16歳から18歳の高校生です。高校生世代のサッカー指導者として、心掛けていること、大切にしていることは何でしょうか?

山田監督 やっぱり、彼らは子供です。だから僕らは、子供を大人にしなくちゃいけない。理不尽なことはこの社会でいっぱいある。理屈ばかりを言っていてはいけないんです。高校生という時期は立派な大人になるための準備段階ですよね。だからサッカー以外の指導が多くなっているかもしれません(笑)。「そこは我慢しろ」とか、「歯を食いしばりながらがんばれ」とか。それを乗り越えてたくましくなっていくんだと思います。

―――サッカーに関して、新しい情報を仕入れるために、どのようにアンテナを張っていますか?

山田監督 高校世代の指導者仲間と情報交換をしています。サッカー協会にも行くし、今年はドイツに行きました。来年はアメリカ遠征にも行く。海外の指導者とは、その国の主流なサッカーについてなどを話しています。やはり指導者はグローバルな視点を持たなければいけません。世界が今こういうサッカーを展開しているから、逆算してこれをやろうと。そういう考え方を持たないと、指導にはならないじゃないですか。僕は「スタンダードはグローバルだ」といつも言っています。基準はあくまでも世界。昔はよく笑われていましたけど(笑)。時代の流れによって、練習メニューも年々変わっていきます。

―――高校に在籍する3年間で、子供たちにどういうことを学んでもらいたいですか?

山田監督 やっぱり人間性ですね。寮生活ではみんなで朝起きて、ご飯を作って、点呼を取って。

―――選手がご飯を作るんですか?

山田監督 土日は食堂が休みなので、選手たちが作るんですよ。100人くらいは寮生活をしています。中学の時にはご飯なんか作ったことがないような子供たちが、先輩のご飯も作る。そうすると、3年間でお父さんやお母さんに感謝するようになって卒業していきます。人間として成長していくことが大事なんですよ。

―――今年のチームは、どんな特徴を持っていると感じますか?

山田監督 個の力が突出しているわけではない。ただ、チームとしてはまとまっています。

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―――全国高校サッカー選手権を通じて、選手たちにはどんなことを期待しますか?

山田監督 選手権までの最後の1カ月によって、チームは大きく変わります。全国大会の出場を決めて満足するのは出場チームの半分ぐらい。本当にベスト8以上を狙うのが3分の1ぐらい。本当に優勝を狙うチームは、5校から10校ぐらい。そこにたどり着くために努力していきたい。僕は今までに何回も失敗しています。インターハイで日本一になった2009年度は、選手権もいけると思っていた。でも、初戦で負けた。本当に難しいです。

―――最後に、プロを目指している若い選手に向けて、メッセージをお願いします。

山田監督 先ほども言いましたが、頭とハートを鍛えなくてはいけないと思います。サッカーをやり続けるためには、いろんな誘惑を断らないといけない。そこには葛藤があると思います。当然周囲の人たちが応援してくれて、そこには責任が発生する。頭とハートがしっかりしていないと、やり切れないと思います。一番大切なのは人格。僕らはそういう人を作らないといけない。人作りが僕らの仕事だと思います。完璧な人なんていない。僕はよく「クソガキ」と言います。怒られちゃうけど、ガキはガキです。彼らはこれから大人になっていく。でも立派な大人になるためには、僕らの言う理不尽なこともちゃんと聞いてほしいですね(笑)。

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