
「奈良クラブのバスがサポーターに囲まれている」
アルテリーヴォ和歌山に3ー1で勝利して、いい雰囲気のロッカールームに情報が飛び込んできた。
そんなはずはないと駆け寄ると思いがけない光景が目に入った。
サポーターが笑顔でバスを綺麗に拭いてくれていた。
奈良クラブの選手が呟いた。
「去年のアミティエに引き分けて、全社予選に出れなかった時以来やな」

全国社会人選手権(全社)の予選には関西1部リーグから5チームが出られる。8チーム中で、前期の上位5チームが権利を得る。
去年の奈良クラブは14試合で3勝しかできなかったことが物語るように、不振を極めた。
話は俺が加入する前の6月に遡る。
全社予選出場のために勝利が絶対条件だったアミティエSC戦。相手が1人退場になって一方的に押していたけど、1点が遠く1ー1で引き分けて、全社予選の出場権を逃した。
J3やJFLを目標にスタートしたはずが、全国はおろか、関西リーグで散々たる結果。選手やスタッフの不協和音や、サポーターの鬱憤も頂点に達していた。

試合後にサポーターの元に行くと、普段は温かい奈良クラブのサポーターも、きつい言葉を投げかけてきた。選手はサポーターの言葉を受け止める。不甲斐ない自分を責める。自分に自信を失くし、消極的なプレーになっていき、チームから躍動感が失われる。
帰り支度を終え、帰ろうとするとサポーターがバスを囲んでいたという。
その時の情景をMF桜井直哉に聞いた。
「遠くから見て、バスの周りにサポーターが囲んでいるのは分かったけど、何をしているのか分かりませんでした。それで近くに行ったら、スポンジで磨いてくれていたんだと分かった。あらかた磨き終えていて、『綺麗にしといたよ』と……。大事な試合で結果を出せなかった僕たちに何かグチめいたことを言うのでなく、バスを綺麗にしてくれたのは、メッセージだと感じた。気持ちを切り替えて、新たな気持ちで挑んでほしいと」
今回のバス囲み洗車をツイートすると、1000以上のリツイートがあった。メッセージを読むと、感心してくれているんだけど、『町クラブだからできるんだろうな』、『Jクラブでは難しい』という声もあった。
でも、奈良クラブはJリーグに上がり続けても、バスを囲んで洗車をしてもらえる距離感を保ち続けたい。


関西リーグで優勝して、地域リーグに進出する権利を手にした。
全国社会人サッカー選手権大会は全国の5000もの社会人チームの頂点を決める大会。
サッカー人生で最初で最後になるかもしれない大会として、優勝して地域決勝に向けて弾みをつけたい。
毎日試合をこなす5連戦がどんなものなのか、いい意味でも悪い意味でも自分の身を持って経験をしてくる。
9月27日~10月1日までの5日間。日本一過酷な大会を楽しんでくるわ。