2014.07.13

フモフモ編集長のワールドカップの終わり方~勝っても負けても、思い出があるから大丈夫~

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「4年後、またお会いしましょう!」

 「6分で4点取られたらブラジルでもああなる」という衝撃を受けた準決勝。「全員出場」という目的のために第3GKを思い出交代で投入された3位決定戦。試合途中で相手チームを応援し始め、それに飽きたら帰ってしまうブラジルサポーター。ダビド・ルイスを巨大なモップか何かでもあるように、全力で壁に叩きつけ始めたブラジルメディア。お葬式のようなスタジアム。「何じゃコレ……」という絶望感。ブラジルのみなさまには、心よりお悔み申し上げます。

 しかし、敗北は辛いことですが、このような「悔しい思い出」を胸に刻むことは、決して悪いことではありません。

 そもそも、ブラジルが今大会にあれほどのモチベーションをもって臨むことができたのは、1950年大会の「マラカナンの悲劇」があればこそ。開催国として悲願の初優勝を目指したブラジルが、引き分け以上で優勝という状況で敗れた伝説の一戦。約20万人の観衆を飲み込んだ巨大スタジアム・マラカナンは哀しみに包まれ、国民はこれを「史上最大の敗北」として記憶したと言います。

 その思い出が、マラカナンという決勝の舞台を用意させ(※結局ブラジル代表は使わず)、都合5回の優勝を経験していながらなお、今大会の優勝を特別なものとして大会に臨ませたのではないでしょうか。「マラカナンの悲劇」を払拭するのだ……という強い決意で。

 その意味では、今大会のブラジルは完璧に目標を達成しました。「マラカナンの悲劇」は狙いどおり払拭されました。どうでもいい過去になりました。マラカナンを遥かに上回る「ミネイロンの惨劇」によって上書き保存されたのです。過去の悲劇を清算し、より大きな惨劇を手にして今大会を終えることができた。何か、古本屋で本を売って、売ったお金で新しい本を買ったときのようではありませんか。ひとつのモノを処理し、その代わりに別のモノを入手するという圧倒的なお得感!

 ドイツ人の超ニコニコしたアノ顔。もう十分点差をつけたのに、最後まで手を抜かずにボコボコにしてきたアノ顔。アノ顔を思い出すたびに悔しさが甦り、モチベーションがわいてくる。今後の大会でドイツとぶつかることがあれば、それはただの試合ではなく、ブラジルにとって絶対に負けられないリベンジマッチとなるでしょう。さらに、もし13日の決勝戦でアルゼンチンが勝ってしまったなら。自国開催の大会で、よりにもよってアルゼンチンの優勝を目の前で見せられるという展開で、悔しさはさらに倍増することでしょう。

 次にブラジルが自国開催をするのはいつかわかりませんが、最低でも50年くらいは間が空くことでしょう。とすれば、今大会の悔しさは50年は払拭されないもの。「禍福はあざなえる縄のごとし」などと言います。巨大な悔しさは、巨大な喜びにつながっているかもしれないもの。50年切れることのない「やる気スイッチ」を今大会のブラジル代表は手にした……そう考えれば、決して悪い大会ではなかったと思うのです。

 ワールドカップは1回のみで終わるものではありません。

 映画で言えば続編に次ぐ続編が制作される人気シリーズのようなもの。ある作品での大勝利は次なる危機の予兆であり、ある作品での大敗北は次なる反撃への予兆。かつて戦った記憶は因縁となって次なる戦いにさらなる意味を与え、次回作を盛り上げてくれるのです。勝っても、負けても。

 今大会、グループリーグでのスペインVSオランダ戦もそうでした。前回大会の決勝と同じ顔合わせという一戦。前回敗れたオランダは、4年前の悔しさを晴らすかのようにゴールを奪いつづけました。無慈悲に、容赦なく。一方スペインは、シャビ・アロンソが「勝利への飢えを保てなかった」という発言をしていました。それは栄光に満ちた数年間の揺り戻しだったように思います。敗北が渇望につながり、栄光が飽きにつながっていく。これもまた「禍福はあざなえる縄のごとし」。

 オランダ代表は決勝を目指す道の途上で、2010年大会の決勝で敗れたスペイン、1978年大会の決勝で敗れたアルゼンチンと激突しました。もし、準決勝のPK戦に勝利していれば、1974年大会の決勝で敗れたドイツと激突する流れでした。3回分の悔しさを晴らすリベンジロード。そんな漫画のような展開を描くことができたのは、過去の因縁があればこそ。

 決勝戦のドイツVSアルゼンチン戦という顔合わせもそうです。1986年大会では、マラドーナを擁したアルゼンチンが当時の西ドイツを下して優勝。1990年大会では、今度は逆にドイツがマラドーナを封じて優勝。再び今大会は「メッシを擁するアルゼンチン」とドイツが激突する。過去の因縁が、物語に深みを与えてくれています。

 過去は未来につながっていきます。

 日本代表もブラジルさんほどではありませんが、今大会でいい悔しさを噛みしめ、次なる反撃への大きなモチベーションを手にしました。2分で2点取られる悪夢(6分で4点のブラジルさんにはかないませんが。エヘヘ)。コロンビアに4失点でボコボコにされたこと(ドイツ戦で7失点のブラジルさんにはかないませんが。エヘヘ)。最年長出場記録を狙った思い出交代をされたこと(「登録選手全員出場」という、わりとどうでもいい狙いで思い出交代をやられたブラジルさんにはかないませんが。エヘヘ)。この悔しさは、十分に価値あるものだったと思います。

 コートジボワール、ギリシャ、コロンビア。こうした国々といつかまた激突する機会があれば、2014年の記憶が因縁となって、試合の楽しみを増してくれるでしょう。次勝てば倍の喜びとなり、次もまた敗れるようなら次々回の激突における勝利の喜びを3倍にしてくれる。そうした相手が3つ増えたというのは、とても素晴らしいことだと思います。

 この思い出を大切にしていきましょう。

「ドーハの悲劇」と呼ばれた1994年大会の予選が、1998年大会の「ジョホールバルの歓喜」につながった。2006年大会の惨敗が、2010年大会での決勝トーナメント進出につながった。悪いことのあとには、ちゃんとフォローのイベントが発生してきた日本サッカー界です。次はたぶん、いいことが起きる順番です。よしんばいいことが起きなかったとしても、ブラジルさんのように64年間スルメのように悔しさを噛みしめたあと、味がなくなったスルメを吐き捨てて、また新しいスルメをくわえるのも悪くありません。

 今回勝った国も負けた国も、予選で敗れた国も、次につながる何かを手にしたはず。思い出を胸に刻んだはず。思い出を大切にしながら再び4年後に向かうから、4年間を重ねるごとにワールドカップはどんどん楽しくなる。伏線を張り巡らせ、さまざまな顔合わせ、さまざまなシチュエーションに大きな意味を感じられるようになっていく。勝利も敗北も、次の楽しみへのエネルギー。その意味で、今回よりも確実に楽しい4年後がやって来ることは、すでに確定しているのです。ワールドカップって楽しいものですね。悔しいのも悪くないですね。また4年後があるんですから。

 最後の決勝戦。その戦いと勝者の歓喜を見て、「羨望」というエネルギーを心に注入するのもお忘れなく。

 それでは、また4年後。今度はロシアで。