FOLLOW US

『僕、日本代表が優勝したら手術受けるんだ!』レベルまで期待値を上げていく~フモフモ編集長の“壮行試合の正しい見送り方”~

2014.05.26

「決勝戦の日、渋谷のスクランブル交差点で待機することにしました」【写真】=Getty Images

fumofumo「決勝戦の日、渋谷のスクランブル交差点で待機することにしました」

 ワールドカップに向かう日本代表を送り出す大切な試合、キリンチャレンジカップ・キプロス戦が27日に埼玉スタジアムで行われます。「仮想ギリシャ」という位置づけで各メディアに採り上げられたこの一戦ですが、キプロスのFIFAランクが130位(2014年5月時点)であることなどから、本番へ向けての強化に不安がささやかれています。

 確かにキプロスは欧州予選を1勝7敗2分、グループEの最下位で敗退したチーム。ベスト16やそれ以上の結果を目指すなら勝って当然の相手ですし、勝ったからといって強さに自信を持てるほどでもありません。なるほど、「キプロスとやるくらいなら韓国とやったほうがいいのではないか」といった意見が有識者から出るのも理解できます。

 しかし、そんなときだからこそ、今一度僕らファンは「壮行試合」とはどういうものか、考えていく必要があるでしょう。

 まず、壮行試合に「強化」は必要ありません。強化の段階はすでにワールドカップ予選やコンフェデレーションズカップ、2013年の欧州遠征などで通りすぎています。登録メンバーを決めたあとなのですから、自分たちの特長や目指すサッカーは見極められていて然るべきですし、選考されたメンバーを見ても「今まで積み上げてきたもので戦える」という自信が感じられます。

 また、「内容」も必要ありません。内容が良くても悪くても、メンバーが変わらない以上、やれることは大きく変わりません。この1試合の様子だけで今まで積み上げてきたものを捨てるはずもなく、逆にそんな自信がない状態では困ります。

 いや、もっと言えば「勝利」さえ必要ありません。勝っても負けても、それが本番の結果に影響するわけではありません。しかも、「勝って良い気分で大会に臨めるかどうか」という点でも、その気分を決めるのは本大会直前に組まれるであろう練習試合のほう。最後の最後に行なわれるラストゲームこそが「気分」を左右する一戦です。それはキプロス戦ではありません。

 逆に壮行試合で絶対に避けなければいけないのは「けが」。その意味で、壮行試合の対戦相手にあえて能力を求めるなら、ただ1点、スポーツマンシップのみ。対戦相手に無用なけがをさせたり、無闇にヒートアップして荒いプレーを繰り出したり、揉め事を起こしたりしないこと。自分たちのチカラを誇示するのではなく、本大会出場国への敬意を持って戦ってくれるチーム。礼に始まり、礼に終わって、気持ちよく試合ができる相手。スポーツマンシップこそが重要なのです。

 では、何故そういう試合をわざわざ実施するのか。

 それは選手のためではなく、むしろファンのため。少しでもたくさんの人が代表チームと同じ場所に居合わせ、手を振り、声援を送る機会とするには試合形式がよいのです。試合形式なら6万人規模の会場を用意できますし、地上波での生中継もされますから。

 壮行試合とは選手が何かをする場ではなく、文字通り「ファンが代表チームを激励する」ための場。その意味で、試合がどうこうということではなく、どうすれば代表チームをドーンと盛り上げられるのか、どうすれば代表チームのやる気をさらに引き出すことができるのかという、ファン側の課題こそが意識されるべきではないでしょうか。

↓参考までにドーンと盛り上げるために個人的に意識したいことメモです!

●スターティングメンバー発表
・誰がスタメンでも大声援
・「大久保スタメン抜擢やー!!」というサプライズ感が気持ちに乗ると思ったより声が大きくなりがちなので、全員そのレベルに統一するよう底上げ
・今野泰幸さんあたりで若干伸びを欠く傾向を感じるので、特に意識して

●国歌独唱
・誰が出てきても大きな拍手とワクワク感で迎える
・声が裏返ったりしてもざわつかない、そういうことを期待しない
・人気バンドSEKAI NO OWARIさんが出てきた場合に、「名前縁起悪っ!」とか言わない
・サッカー日本代表応援ソング「夢を力に 2014」を歌うウカスカジーさんが出てきた場合に、慌ててスマホで検索しない

●試合本編
・勝っても負けてもグダグダでもシャンとしてても大声援
・対戦相手が無駄にヒートアップしないよう和やかムードで

●長谷部キャプテン挨拶
・とりあえず大声援
・何かイイこと言う準備をしているかもしれないので、イイこと言ったらしっかり反応
・「心を整えて、本番に臨みます!」などの持ちギャグを披露した場合は爆笑にご協力をお願いします

●ザッケローニ監督挨拶
・何言ってるかわからなくても大声援
・通訳さんの言葉を待つのではなく、監督が一言話すごとに大声援
・最後は「ガンバリマス」などの日本語で締めると予想されるので、しっかり反応
・「ヨザク」などの想定外のコメントがあっても、その場で理解しようとせず、大声援を送ったのちに落ち着いて検索する

 ただし、大声援・大拍手でスタジアムを満たせば、それで終わりということではありません。そうした激励はすべて、選手をやる気にさせてこそのもの。しかし、今の日本代表の主力は声援に慣れています。所属チームでは欧州チャンピオンズリーグなどの大舞台も経験し、ちょっとやそっとでは意にも介さない。もちろんブーイングしたところで、反発心からやる気を引き出せるようなこともなく、柳に風と受け流す強さも備えています。

 そもそも「優勝」を公言するほど高い意識と強い自信を持っている選手から、さらにやる気を引き出すのは並大抵のことではありません。そんなとき意識したいのが、選手がよく言う「応援してくれる人の期待に応えたい」という言葉。優勝者インタビューなどで、「期待に応えたい」という気持ちがモチベーションになったと語る選手はとても多いもの。メダルを期待されるからメダルを獲らねばという想いが強くなり、世界一を期待されるから世界一にならねばという想いが強くなる。応援してくれる人の「期待」が選手のやる気を引き出していくのです。

 ならば、今ファン側が意識すべきなのは選手たち自身の想定を上回る期待感をぶつけていくことではないでしょうか。「グループリーグ突破」であるとか「前回大会以上」とかの目標は、「優勝」すれば当然達成される部分。織り込み済みの目標を、今さらぶつけても仕方ありません。選手たちが抱いている「優勝するぞ」「優勝したい」のレベルを超える期待感をぶつけ、「優勝しないと期待に応えられない」というところまで追い込んでいくこと。「オイオイ、この人たち完全に信じちゃってるぞ」「ブラジル人だって自国の優勝こんなに信じてないって」「期待値高すぎだろ…」と選手たちに思わせるまでに……

――大会への意気込みを問われ「一戦一戦を大事に…」的な目標を口にすると、何故か微妙な空気になるスタンド。別の選手が「優勝狙います」と言うと、やっとそこそこの盛り上がりを見せる。サポーターが口々に叫ぶ激励によーく耳をすますと「決勝戦の宿とチケットを確保したぞ!」「逆にグループステージは忙しくて行けないんだよ!」「家族で決勝戦だけ見に行きます!」などの声。スポンサーのキリン社は「現地に優勝祝賀会用のビール送っておきますね」と迅速な手配を進め、地元から駆けつけた後援者は「準決勝以降はパブリック・ビューイングを行なう予定です」「優勝パレードの日付が決まりました」「あなたの活躍を讃える銅像を制作しておりまして、もう完成しました」などと優勝前提のプランをニコニコしながら報告する。前のめりすぎるファンの意気込みに、「あれ、みんな優勝狙ってる?」「逆に、優勝しか狙ってない?」と低めの目標設定をしていた選手には動揺が広がっていく。

 ロッカールームに戻ると、そこには一通の手紙が。

「憧れの日本代表のみなさんへ 僕はサッカーが大好きです。でも、サッカーをすることができません。僕は病気なので、外で遊べないのです。お医者さんは手術をすれば治るよと言います。僕は手術を受けようと思います。手術はとても怖いです。だから、日本代表のように強くなりたいです。お医者さんにお願いして、手術をワールドカップ決勝戦の日にしてもらいました。強い日本代表を見たら、僕も病気に勝てると思います。ガンバレ日本代表!」

 その手紙を回し読む選手たちが抱く「うわ、みんな優勝しか考えてない…」という確信。優勝しなかった場合、この人たちはどうなってしまうのだろうという不安。どんなヒドイ成績でも銅像は建立されてしまうのだろうかという懸念。少年の手術が上手くいかなかったときは自分たちのせいなのだろうかという責任問題。その想いが、選手たちのさらなるやる気を引き出し、「優勝しないと帰れない」という段階へ目標を再設定させていく――。

 そんな壮行試合にできたなら、対戦相手がどこであっても、意義あるものになるのではないでしょうか。

文・フモフモ編集長 写真・Getty Images

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO