2014.04.24

Jリーグは新人を育てられているのか? 日本の新人選手育成の現状と課題に迫る

 2014年もJリーグに約170名の新人、いわゆるルーキープレーヤーが加わった。今季からJ3も新設され、ルーキーが活躍する場も増加。日本サッカー界の育成は新たな局面を迎えていると言える。Jリーグが誕生し20年余りが経過したが、果たしてJリーグは「ちゃんと選手を育てられているのか」。Jリーグの選手育成の現状と課題について、『Jの新人』(東邦出版)の著者であるフリーライターの川端暁彦氏にインタビューを行った。

出場機会がなくてもトップにあげてしまう

――まず率直に伺います、Jリーグの育成がいろいろ言われていますが、オファーがあった高校生たちは、J1へ行ったほうがいいのか、J2へ行ったほうがいいのか、はたまた大学行きがいいのかっていうのは、どう思われますか?

川端 一概には言えません。もちろん、J1でいきなり出場できる実力のある選手は、J1に行くべきだとは思いますよ。でも、たとえ実力があっても、Jのユースの選手たちは、そもそも選択権がないという側面もあります。

――というのは?

川端 これはあくまで例え話ですが、ベガルタ仙台のユースで左サイドバックだった選手がトップに上がれる実力があったとします。けれど、その時の仙台の左サイドバックが正副共にハイレベルな選手がいるとしましょう。そうなると、その選手は昇格してもまず試合に出られない。仙台では試合に出られなくても、もしかしたらFC東京が左サイドバックを欲しがっていて「高卒ルーキーでもあいつならすぐ使える」と思っているかもしれない。たとえそうだとしても、現行のルールだと彼がFC東京へ行くことはまずないんですよ。

――これは、制度的に行けないんですか?

川端 制度的には行けなくもないです。ただ、ルール的にFC東京が仙台の頭越しに「ウチならスタメンで使うから来い」とは言えません。あくまで仙台の許可を得たケースに限定されますし、仙台が昇格させるとなれば、それまでですね。実態として、世代の有力な選手だからと、すでにポジションが埋まっていて使う予定や余地がない状況であっても、クラブが「とりあえずトップに上げてしまう」傾向がある。「高卒は3年見ます」なんてロジックが都合良く解釈されて、まるで構想外の選手がとりあえず昇格することがある。このケースだと、なかなか幸せになれないですよ。例えば、これはカテゴリーを横断する形ですが、近年は強豪クラブのアカデミーからJ2のクラブへという例も増えてきています。今季で言えば、神戸U-18から愛媛に行った表原玄太、横浜FMユースから山形にいった汰木康也などがいます。彼らはいずれも既に試合へ絡んでいますよね。それも「必要とされてのプロ入り」だからこそ、です。

ビッグクラブ入団と大企業就職は違う

――つまり、たとえトップにあがれても出場機会のほうが大事ということですよね。J1だからいいとか、大きいクラブだからいいというのではなくて。

川端 プロサッカー選手になるというのは、就職活動とは違うんです。プロは本質的には一人で生きていくもの。クラブに養ってもらうわけではありません。ブランド力のある大きなクラブに入ること自体が目的化していて、その後のことをちゃんとイメージしていない人が多いなというのは正直感じます。例えば、高校でやっていた選手の場合、「J2からしかオファーがない」と言っていた選手が「ついにJ1からオファーが来た、やったー」となって、J1の強いチームに入ったとします。周りも「いやぁ、おめでとう。J2からしかオファーがなかったのに、頑張ってJ1の内定を取ったね。よかった、よかった」と喜んでいる。でもそれって「中小企業しか内定取れなかった子が、なんとあの大企業から内定を取りました!」みたいな価値観になってしまっていませんか? それは違うと思うんです。これは大卒、高卒に限りません。学校の先生が持っている価値観なのかもしれないし、お父さん、お母さんの多くが持ってしまう価値観なのかもしれない。「より大きな企業に入ることが勝ち組」みたいな。でもビッグクラブでベンチ外の1年を過ごすなら、スモールクラブの主軸で戦ったほうが、選手としての未来はあるかもしれない。そういうシビアな考えでクラブを選ぶ選手もいますが、まだまだ少数派だと思います。

――なるほど。例えオファーがあってもプロとして先をちゃんと考えてチームを選ぶべきだと。でも今後は、J1のチームからオファーが来て入団したけど、一年目はすぐにJ2にレンタル移籍する前提というのがトレンドになったりするんじゃないでしょうか?

川端 そうなって欲しいですね。オファーはJ1だけど、プレイするチームはJ2みたいな……。僕は単純に「クラブは余計に選手を抱えないほうがいい」ということだと思っています。

――「Jの新人」の中には“かわいい子には旅をさせろ”という言葉が出てきます。獲得したばかりの選手をいきなり他チームにレンタルするというドライな決断ができるクラブは少ないですよね?

川端 まだドライになりきれているクラブは少ない、クラブが選手を信じていないなって感じます。

――具体的に「選手を信じてない」というのはどういう意味でしょうか?

川端 色々あると思うんですが、例えば「この子あのチームに行って大丈夫かな?」みたいな、過保護的な部分と、もうひとつはあるのは「借りパク」に対してビビリ過ぎていること。実際“借りパク”はあるんです。貸したはいいけど、そのまま持っていかれてしまう。実質タダに近い金額で持っていかれることもある。逆にJ2やJ3は、そこが狙いどこじゃないですか。「良い選手を借りて、そのままもらっちゃえ」という。

――酷い話ですが、もし、使えなかったら返せばいいですもんね。

川端 J1と契約直後にJ2即レンタルが難しいというのは、やっぱりそういうリスクがあるから。でも何人かに一人が借りパクされていくリスクがあっても、そういう決断に踏み切ってもいいんじゃないかと思うんです。何人かに一人は逞しくなって帰ってくることもありますし、「可愛い子なので自分のところでしまっておいたら腐らせました」というよりはずっといいでしょう。

――レンタルに出した後もこまめに「見てるぞ」とか、「ケアしてるぞ」という愛情をもって接していればそういうことになる可能性も低くできそうですよね。

川端 そういう可能性はあるけれど、そう単純ではないとも思います。どこでもチーム事情があるし、本人の意向もあります。そもそも個人の判断として「戻ってくることが良いこと」とは限らない。J2で活躍して、クラブに戻って来たけどダメだったという例だっていくらでもありますから。

――まだ戻すには早いだろうと思うケースもたくさんありますよね。

川端 戻すタイミングはとても難しいんですよね。クラブや監督にしてみれば「あのポジションのバックアップがほしいからあいつを戻そう」という考え方はあって当然。それはクラブの論理。個人の論理を優先するのではなくて、クラブは冷徹に考えるのは当たり前ですからね。それが編成の難しさでもあります。監督としては「とりあえず計算出来るバックアップにはなるんだから戻せ」と言うに決まっている。でも、そこで強化部は先のことを考えて「いやいや、確かにバックアップにはなるけど、主軸として頑張らせるにはもう1年貸しといたほうがいい」という判断をどこかでしなきゃいけないときもあります。強化部は監督が辞めた後の、もっと先のことを考えるのが仕事ですからね。

――判断をしなくてもいいというのは具体的に?

川端 強化部がバックアッパーとして必要と考え、まずは今シーズンを戦うことが大事だという判断を下すのは、それはそれでありじゃないですか。同時に選手側も「いや、これはなんか調子いいこと言っているけど、単にバックアッパーとして戻そうとしているだけなんじゃないか」という疑いを持つことが大事ですよね。

――確かにそうですね。

川端 クラブはバックアッパーとしてしか考えていなくても、口では「重要な戦力として考えている」くらいのことは言いますよ。そこは選手一人ひとりが、プロとして、個人として、クラブと向き合わないといけない部分は絶対にある。

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高校生にこそ代理人が必要?

――「Jの新人」では高卒発掘の代理人がもっといたらいいという提案をされています。現状、それが難しい理由として、代理人というものがそもそも“悪の存在”として見られてしまっている部分がありますよね。

川端 それはあるでしょうね。ただ、世界的にみて代理人がやっているのは、移籍交渉でクラブを出し抜くということだけではない。まだ見ぬタレントを見つけてきてクラブに売るという仕事こそ、彼らが世界のサッカーで必要とされる理由です。まだ、日本の代理人はそういう役割をなかなか果たせていない。それは日本の代理人が悪いという話ではなくて、そもそもそういった役割が代理人に期待されていないという現実もあります。まさに本にも書いたことですが、J2、さらに新しくできたJ3のクラブは決して豊かではない。だから、資金的に専任のスカウトを置けない。育成の指導者と兼任してやっているようなところもある。資金的に専任でスカウトを置くのが難しいから、誰か外側で請け負ってくれればもうちょっとスムーズにいくんじゃないかと思うんです。もう一つ言えるのは、資金的に恵まれていない弱いチームこそ、編成的な意味でルーキーの需要はあるはずなんですよ。

――と言うのは?

川端 例えば、18歳の高校3年生でいいCBがいます。正直、J1では通用しない。でもJ3なら即戦力の可能性がある。そこで、「そういえば、あのJ3のあのクラブがCB手薄で困っていたな」というときに、この2つを結びつける何かがあればいいんだけど、現状はほぼないでしょう。そうなると、その子は特にどこからもオファーをもらえず、「高校でサッカー辞めて料理人になります」みたいなことになる。それは凄く勿体ないことやっているんじゃないかと。なので、その真ん中に立つ仕事、それは別に代理人である必要はないんですが、代理人的な振る舞いをする人は潜在的な需要、必要性があるんじゃないかと思います。

――今は全くいないというわけではないですよね。

川端 いないことはないです。コネ社会の中で、「なんとかさん、ちょっとこの子を繋いでよ」みたいな狭い関係性の中でだけだと思いますよ。「新卒」という文化が日本にはありますが、新卒を発掘する仕事をやっているのはお金がある大きなクラブだけなんですよね。色んな会場に行っても、大きなクラブのスカウトたちはみんないるんですが、その大きなクラブは、実はそこまで戦力としてルーキーを必要としていないという矛盾がある。つまり、ルーキーがすぐに戦力としてやれるクラブのスカウトはその場にいないんですよ。その場どころか、クラブにそもそもスカウトがいない(笑)。

――それはお金がないとはいえ、機会損失ですよね。

川端 でも、多少無理してでも、しっかりしたスカウトを置いて頑張っているところは、やっぱり結果が出ますよね。

――例えばどこがあげられますか?

川端 例えば、松本山雅と湘南ベルマーレですね。逆をいくのはセレクション型のチームです。一発セレクションでワーッと選手を集めて、一日、あるいは数日だけ見て「この選手はいける気がする」と博打的に獲るやり方だった。博打型でやると、適当に頭数を獲って数打ちゃ当たるしかないんですよ。例えば大卒を6、7人獲りました、と。「その内1人当たればいいよね」という感じ。そうじゃなくて、「この選手が欲しい!」、「この選手なら絶対ウチのサッカーに合う」と言って連れてくるのが本来あるべき姿。例えば水戸なんて昔はこの典型でしたけれど、塩谷司なんかは引っ張ってきた選手。彼は柱谷さんのコネクションあってこそだけれど、「ちゃんとスカウトして見極めて連れてきたほうがいいんじゃないか」という一例にはなると思います。

今野泰幸は拾えても本田圭佑は拾えない?


無名の高校生だった今野泰幸を見出したの岡田武史氏の目利きだった

――そうなると、スカウトには目利きとしての力が必要になってきますよね。

川端 いや、目利きなんてどうせ限界があります。例えば岡田武史さんが無名の高校生だった今野泰幸を見出したのは目利きです。でも、本田圭佑をみて獲得しないことを決めたのは、目利きじゃなかったかもしれない。この一例だけでも難しいとわかると思います。どんな目利きでも間違うというか、そういうものなんですよ。

――目利きも得意なジャンルがあるかと思います。

川端 そうですね。好みがあるのも当然。じゃあ、どうすればいいのかというと、個人的には目利きの数を増やすことしかないと思っています。例えば、岡田武史さんがみたら、今野のような人材は発掘できる。でも、本田圭佑のような人材は発掘できない。一方で、ネルシーニョさんは本田圭佑を一目見たら「すぐに契約書持ってこい」となった。でも、ネルシーニョさんはもしかすると今野を発掘できないかもしれない。じゃあ、どうするべきなのか? 「2つの目利きを持ったハイブリッドなスーパーマンがいればいいじゃない」という話じゃなくて、両方いればいいという話。これはさきほどの代理人の話にも通じると思いますが、見る側の頭数と嗜好の多様性があれば、より多くの個性を発掘できる可能性が広がります。岡田さんとネルシーニョさんで欲しがる選手は違うでしょう。J1の大きなクラブが欲しがる選手とJ2の小さなクラブが欲しがる選手も違うでしょう。そういう多様性を担保すべきだと思います。だからこそ、Jリーグのクラブには、もっとスカウト活動に力を入れて欲しい。もしかしたら、水戸のスカウトが発掘できなかった塩谷級のタレントが存在するかもしれないじゃないですか。それはもしかすると長崎のスカウトが見ていれば引っ張れたかもしれない。そういう可能性を広げてほしい。

――いい目利きが必要という簡単な話ではないんですね。

川端 「岡田武史は本田圭佑見つけられないなんて見る目ないよね。日本には目利きがいないな」なんて単純な話ではないと思うんです。もちろん論外に無能な人はいるかもしれませんが、大抵のケースはそうじゃないと思います。いろいろな人の目ががあれば、漏れるリスクがなくなっていく。

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数百万で未来の代表クラスがゴロゴロしている日本


キャリア当初、評価が低かった元ドイツ代表GKカーン

――クラブが代理人を選ぶときは、色んな目利きとお付き合いすることが大事ということですね。

川端 いや、クラブに合った代理人がいるなら、それでいいかもしれない。そこはクラブの判断。ただ、日本サッカー全体としては質より数だと思います。質はもちろん上がっていくことに越したことはないんだけれど、絶対に限界はある。それこそ、世界を見てもそうじゃないですか。カフーが12回もプロテストに落ちましたみたいな話もある。オリバー・カーンが全然評価されていなかったとか。

――どうしても、ザルの目から漏れてくるわけですね。

川端 そう。あの話を聞いて「ブラジルやドイツには目利きがいないんだ」って、そうじゃないでしょう。一部の人にしか評価されない、そんな選手でもどこかに引っ掛かるような網を広げていくことが大事。発掘とは、そういうものなんだと思います。だからテストする機会を増やすしかないでよね。要するに見る目の数と回数を増やしていくしかない。

――よく聞くのは、ブラジルでは、セレクションをとにかく何回もやると。

川端 そうですね。極端な話を言えば、その何度もやるセレクションで選ぶ側の人を変えていけば変な選手を見付けられるかもしれない。

――1回しかやらないとその日に来られないという選手もいますよね。

川端 そういうこともあるし、たまたま調子が悪いだけかもしれない。あるいは、たまたま調子が良かっただけの選手が受かっちゃうかもしれない(笑)。そもそも我慢して自前のスカウトを置いたら意外とおいしいと思うんですよ。だってこの国は、数百万円で将来の日本代表選手がゴロゴロしているんですから。

晩熟型が埋もれている日本サッカーの現状

――高校3年生で急激に伸びてくる選手。いわゆる晩熟型の選手が、今は埋もれやすいということを「Jの新人」で問題提起されていますね。今、日本のサッカー界はこれの改善に向けて何か大きな動きはあるんでしょうか?

川端 いや、特にないと思います。

――ではどうしていくべきというのはありますか?

川端 それはまさに自分が主張している「もっとスカウトを充実させよう」ということとリンクしていると思います。「この選手プロでもやれるじゃないのか」というのが3年生になって出てきたりするんですけど、今は「そもそも探されていない」と思います。

――探そうとしていないんですか?

川端 探そうとしていないですね。本来その需要を持っているクラブが探そうとしてない。探せばいいのにと思いますよ。

――では、代理人が晩熟型選手を埋もれさせないものとして機能する可能性はあるでしょうか?

川端 将来的には。現状だと難しいでしょう。

――埋もれさせないために他に何かアイデアはありますか?

川端 あるとすれば、極端な話になりますが、J2の仲の良いクラブが手を組んでクラブ合同で1人スカウトを雇う。“代理人”という形にすると受け入れがたいというのは分かります。合同で雇ったスカウトに情報を出させて、それぞれクラブの要望や需要を伝えて、全国行脚をさせる。この場合、競合したらどうするという問題はありますが。あとはサッカー協会かなという気はします。

――川端さんはそういう時あまりお上に頼るスタンスじゃない方ですよね。

川端 そうですね、基本的に僕は「官」がやり過ぎると「民」が育たないという思想の持ち主だとは思います。ただ、高校3年生の発掘はもう少し考えた方がいいんじゃないかと。

――制度的なもので、まだどうにかなる部分もあると?

川端 ナショナルトレセンが昔U-17だったのがU-16になって、国体がU-18だったのがU-16になった。“早期発掘・早期教育”というのが今の日本サッカー協会の大きな狙いなんですが……。結局、晩熟が漏れているんじゃないのかという疑問があります。スカウトも整備できていない状況ですからね、もうちょっと晩熟型の選手をフォローアップする意識はあってもいいのではないかと思うんですよ。

――特に、高校生ですよね。

川端 今野なんかが典型ですよね。ああいう選手がいるんですよ。早期発掘の趣旨は分かるんですが、その後も考えましょうよ、という話。長澤和輝(ケルン)みたいに高3でグッとくるのはやっぱりいるんですよ。

――早めにすべてを発掘しきるのは無理ということですよね。

川端 必ず漏れてくるものだと思います。例えば帝京第三からベルマーレに入った亀川諒史。今は、手倉森ジャパンの候補にもなっていますが、彼は「高校卒業したら料理人になる」って言っていたんですよ。

――スラムダンクでいう魚住ですね。

川端 そう、魚住。でも、亀川をベルマーレのスカウトが発掘したおかげで、いま彼は手倉森ジャパンの候補選手になっている。ベルマーレのスカウトがたまたま発掘しただけで、実は他にもそういう選手がいたんじゃないのかな。もうサッカーから離れてしまった中に陽の目を見るべきタレントがいたのでは……というのが、僕の中ですごく燻ってます。

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晩熟型はワールドクラス?


清水入り直後、岡崎慎司は「FWの8番手」とも言われていた

――「Jの新人」でも指摘されているように晩熟型選手は日本から欧州のトップレベルに移籍して活躍している例が多いですよね。長友佑都、本田圭佑、長谷部誠、岡崎慎司と現在の代表の主力選手たちです。どうして晩熟型はそこまで伸びていくんでしょうか。

川端 色々理由はあると思うんですが、一つは常に同世代に対して劣っているなり、下に見られる中でやってきているので早いうちに天狗にならないことが大きい。まさに本田圭佑は典型だと思うんですが、リバウンドメンタリティ、反骨心が育つんですよね。あとは単純に身体的に晩熟だと、身体で勝負ができない期間が長いので、自然と技術だったり駆け引きだったりの部分が育ちやすい。

――つまり、頭を使うと?

川端 そうですね。逆に早熟の子はどうしても体で同年代の相手を圧倒できるからそればかりになってしまうというのもあります。晩熟型だと同世代と戦っていても、実質年上と競り続けているようなものですから、自然とそういう効果がある。

――早熟の選手を飛び級させるというのはどうですか?

川端 早熟の子を飛び級させると、「特別」になってしまう。それは十代の少年にとってすごく難しくて、デリケートな問題。晩熟の選手は、同世代で身体だけが実質年上のような選手と競り続けるので天狗にならない効果がある。

――飛び級も決していいことばかりではないんですね。

川端 本人だけでなく、どうしても周りも勘違いする。そうなるとまた本人の意識も変わってしまう部分はある。同じ学年のチームメイトから「あいつは別格」みたいな見られ方をしてしまいますから。それと年上に混じってばかりだと、リーダーシップや責任感を持たせづらいですしね。難度高いですよ、飛び級での育成は。もちろん、性格次第でそれがすごく上手くいく場合もあるんですが、「飛び級させれば育つ」なんてことはない。飛び級は「育成に正解はない」という言葉の典型みたいなものだと思っています。

Jリーグは高卒を育てられていないのか?

――「Jの新人」の中に『Jリーグは高卒を育てられないというのは一面の真理でしかない』という記述がありました。

川端 実際、多くの高卒が育っていますからね。そんなにJリーグの育成って失敗していないですよ。そこはみんな決めつけ過ぎてしまっていると思いますね。今の日本代表見ても高卒の選手ばかりですよね。あるいはJリーグのベストイレブンを見てもらってもいい。「全然高卒が育っていない」ということはないじゃないですか。

――むしろ、高卒ばかりですね。

川端 そこは色々な思惑をもった人たちの歪みの中にあるんじゃないかと思います。確かにつぶれてしまった選手もいっぱいいる。でも、つぶれた選手がいっぱいいるからだめなんでしょうか? 全員が大成するはずだった? 「もっと上手くやれるだろ」というのはわかります。でも「高卒でJリーグに行くなんて馬鹿のすることだ、大学経由のほうがいいに決まっている」というロジックには全く賛同できませんね。

――通用するんならプロに行くべきですよね。

川端 いや、これが恐らく一番難しいところで、通用しなくても行くべきだったりもするんですよ。典型は、岡崎慎司。岡崎は滝川第二を卒業して清水に入ったんですが散々でした。そもそも通用しないという声も多かった。当時はFWの8番手という言われ方もしていた。実際サイドバックをやらされていましたから。人数合わせでサテライトのゲームで「今日サイドバック足りないから岡崎にやらせとこう」みたいな。そういう枠の選手で清水に入っちゃった。でも今は日本サッカー史上屈指の点取り屋ですから。

――代表で一番の要と言ってもいいですよね。

川端 そうですね。岡崎になれず、通用しなくてつぶれていった選手もいっぱいいますよね。つぶれていった選手を見て、「通用しなそうなら行くべきじゃない」。これは一つのロジックではあります。だって選手が不幸になるかもしれないんだから、そのチャレンジはやめとけよと止めたい。これは親心です。でも、挑戦しようという若者がいたからこそ、「お前無理だよ」と言われながらも挑戦することを選んだ岡崎みたいな選手がいて、現実に活躍しているということがあります。


長谷部誠は祖父の一言でプロ入りを決意した

――確かにそうですね。

川端 だから、「出られそうにないならプロには行くべきではない」とか「ちょっとあの子は通用しないから行くべきではない」と、一概には言えない。めちゃくちゃ高い壁にぶつかってもがき苦しんで、その壁を突き破っちゃうやつって、確かにいるんですよ。実際そういう選手が一番上までいったりもする。長谷部誠も学校の先生から「何かの間違いだからやめとけ」と言われたそうです(笑)。ご両親も猛反対。でも、おじいちゃんから「行って来い」と言われて、「僕は行きます」となって、今があるわけです。もちろん親心として“親ポジション”の人たちが止めるのが悪いとは思わない。むしろ絶対止めるべきだと思う。でも、「それでも俺はやるんだ」という選手がいたら、背中を押してあげたほうがいいんじゃないかなとも思うんです。やっぱり若者のチャレンジを最後は応援してあげようよと。

――どこまで本気なのかというのが大事ですね。

川端 どこまで本気なのかを試した上で、本当に本気ならいい。2年で首になりましたってことになるかもしれない。それなら、別に二浪したと思って頑張るというのもありですよね。実際首になってから、大学に入り直す選手は少なくないですよ。それは、もちろん実家に経済的余裕があるかどうかといった問題は出てきますが、個人的にはそれもありじゃないかと。

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大学の4年間は長過ぎるのか?


2014年、明治大学から磐田に入団した小川大貴(左)、名古屋に入団した矢田旭(右)

――現在、大学サッカーの制度が整っていて非常に環境がいい。でも、一方で後にプロとして行きていくなら4年間は長すぎるという懸念もあります。4年間丸々というのではなく、もう少し柔軟性を持たせられないかと思うんですが。

川端 そうですね。それは自分も前から思っているところです。プロで通用しそうなレベルの選手でも、大学に行くと1年生のときは伸びる印象がある。大学に入って周りのレベルとその選手が釣り合うのが大きい。でも大学3年、4年になってくるとその子が突き抜けてしまう。そうなると天井効果で、技術的な上積みが期待できなくなるんですね。長友佑都とか那須大亮とか、あるいは古くは三浦淳宏とか、大学途中でJリーグに入るというのが少なからずありました。

――大学サッカーでプレーしながら、Jリーグに出場できる特別指定枠がありますが、それをもっと有効に使うことはできないんですかね。

川端 特別指定も難しいですよね。入団とワンセットにならないと試合で起用するのが難しい。去年の大分の松田力みたいに、完全に助っ人外国人的な使われ方の特別指定もありだと思いますが、例外的な扱いでしょう。

――特別指定が増えたほうがJリーグの経験をつめて、それはポジティブなことなんじゃないでしょうか?

川端 でも、逆の立場になって考えるとどうでしょう。あなたが大学サッカー部の監督です。毎週末リーグ戦があるのに、毎週末Jリーグに持っていかれちゃいます。それで試合に負け続けたら、あなたは首になるかもしれない。

――確かに大学側からするとそうですね。Jリーグだから持っていっていいのかという話になりますね。

川端 例えばその選手が、特待生だとしたら「そのお金はどうするんですか?」という話にもなる。大学側の言い分としては当たり前ですよね。サッカー部にものすごく大きな投資をしている大学もあります。コーチや監督にお金をかけて、グラウンド整備にもお金かけて遠征費にもお金かけてみたいな。それでも、特別指定に持っていかれて、試合に負けちゃった、2部に降格しちゃった、みたいなことになると大学側はつらいですよね。それでもOKと言える度量があるなら素晴らしいこと。あったらいいなとは思うけど、「あるべきだ」と上から目線で言うのはどうかな、と。選手は、Jリーグに出られるなら出たい。でもそれだけでは、大学側がどうなのよという話になります。推薦枠を巡る他の部活動との綱引きもあったりしますから。

――選手はJリーグに出たいではずすよね。

川端 例えば、昔の例で言うと徳永悠平が大学3年のときは、FC東京でほぼフル稼働していた。でも。大学4年になったら「ちゃんと大学に貢献しろ」という話になりJリーグには行かなかった。結局最後はああいう綱引きなっちゃう。長友はスポーツ推薦じゃなくて、指定校推薦だったから途中でサッカー部を離れることができた。でも、そんなにあるケースじゃない。そう都合よくはいかないですよ。

大卒ルーキーの選択

――大卒はどうなんですか? 大卒はビッグクラブを選ぶべきか、出場機会を選ぶべきか。

川端 正直、大卒に関してはまず出場機会だと思う。

――それは高校とは決定的に違うと?

川端 彼らには時間がない。時間がないからまず、Jリーグという市場の中で自分の価値を示す。つまり試合に出るという過程を踏まないと、首になった後、次に繋がらなくなる。それは自分の競技レベルを上げていくという意味でも、単純にキャリア設計としても、大卒に関しては絶対に試合に出られるクラブを選ぶべきだと思う。

――大学卒がJリーグで目立っている印象もありますが。

川端 それは活躍している選手だけ見ているからそう見えるだけですよ。大学では活躍していたのに、プロに入ったら出番がないという選手は、実際多いですよ。何でこのクラブを選んでしまったのかなというケースも含めて。

――もうちょっと下のクラブだったらやれるのにっていうことですか。

川端 そうですね。今はどこのクラブもお金がないから、480万円のバックアップは求めているんですよ。そうなると、大卒ルーキーをバックアッパー……つまり補欠として穫りにいく。もちろん即戦力のケースもあるけど、そうじゃないケースもすごく目につく。

――Jの新人の見出しで『480万のバックアッパー』というのを見たときは、エグい話だなと感じました。

川端 エグいけど、それは経営の現実でしょう。同じレベルの1500万円の選手と480万円の選手のどっちをとりますかと聞かれたら、クラブとしては480万円でしょう。それは全然間違ってない。市場原理を制度で縛って働かなくしているんだから、必然にそうなる。だから大学生側は、「クラブ側にはクラブ側のロジックがあってお前を誘っているんだぞ」ということを、もうちょっとわかっておいたほうがいいんじゃないかと思います。

――経営的立場でみれば、そう考えるのが当然だと思います。「エグい」と言ったのは、C契約の年俸480万円という天井があることも含んでいます。

川端 そうですね、今は新人獲得で自由競争を禁止していますから。例えば、ある上位クラブがバックアッパーに出せるのが480万円だとして、主力に出せるのは1500万円だとします。上位クラブは480万円でバックアッパーとしてオファーを出す。でも、別のクラブがその選手に主力として1500万円のオファーを出す。そうなったら、選手がどちらを選ぶか。そういう競り合いが本来あるべき自由競争。そういう競争原理が働けばいいのだけれど今は働いていない。結局、どこもみんな一律で480万円のオファーとなると、1番すごそうなクラブに入りたくなるじゃないですか。クラブの期待値に目に見える差がないから当然ですよね。金額は一緒でも、実際は期待値に大きな差がある。例えば15位のクラブが本当にこの選手欲しいと思っていて、だからなけなしの金集めて2000万円とか言い出すかもしれない。そうなるとそのクラブの期待値が見えますよね。今はそれができなくてみんな同じ金額だから、口だけ都合のいいことを言うし、それがスカウトの仕事だってことになっていて、当たり前になっている。それはスカウトが悪いとかそういう安っぽい話ではありません。そりゃそうですよ、だってお金で差をつけられないんですから。

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新人獲得制度を見直す時期に来ている

――誠意、熱意みたいなものでアピールするしかないと。

川端 熱意、誠意も結局、余裕のあるスカウトだけができること。お金がなくてスカウトが1人しかいないクラブは、熱意も誠意も示しづらい。「大学選抜の海外遠征にまで全部密着して熱意と誠意を示しました」って、それは何人もスカウトがいて、更にお金があるからできること。

――それってスカウトじゃなくて、ストークですよね。

川端 どのくらい密着したかなんて戦力として本当に欲しいかどうかという期待度とイコールではないですよ。現状、制度的にそういう歪みがあるというのは感じますよね。契約制度を見直す時期に来ているとは思います。さらに現行の様々な制度ができた当初は想定されていなかったJ3ができたことで、余計にわけがわからなくなっちゃってもいます。

――確かに。

川端 たとえばJ3では、特別指定選手制度が適用されなかったんですよ。J3だと大学でバリバリやっているクラスの選手ならみんなレギュラーになれるでしょう。そうなると、J3が崩壊してしまう。極端な話、特別指定選手をズラッと並べても昇格争いができてしまうんですよ(笑)。だから、特別指定選手制度が適応されなかったという。

――最後のまとめになりますが、今後のJの新人、ルーキーについて一言もらえますか。

川端 ライセンス制度の導入もあって単純に余分なお金が使えなくなったこともあるんですが、クラブ側の意識は少しずつ変わってきてはいます。昔のように意味もなく新人を大量に囲い込むようなケースは少なくなりました。一方で、選ばれる側、ルーキー側の意識はもっと変わってほしいと思います。Jリーグに入るということは「就職活動」、「就社活動」とは本質的に違うものなのだということは理解しておかないと痛い目にあうぞということです。新人の中には、ゆるい覚悟で入ってきてしまう選手が多いのは気になります。特に本来はプロ前提で教育を受けてきたはずのJリーグのアカデミーの選手たちの中に、悪い意味で「ユースの延長線上」になってしまう選手たちがいるのは、これはもう指導の問題ではないかと思うんです。彼らは首になってからシビアな現実に気付きますが、それだと遅い。プロ入りはゴールじゃなくて入口。それは忘れないでほしい。その上で、大きなリスクを覚悟してJリーグという舞台に挑戦してきた選手たちに対しての敬意を、僕ら見守る側の人間が忘れてはいけないと思います。

Jの新人
単行本: 224ページ
出版社: 東邦出版 (2014/3/7)
本書ではJリーグに毎年加入する“新人”を通して、現在のJリーグの現在地と可能性について深く掘り下げている。“決して甘くないプロの現実”を直視し、Jリーグの発展のためには避けては通れない課題を問題提起した意欲作。