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[2013-14アーセナル、私はこう見る!]西岡明彦「戦力面の収穫と課題。来シーズンが本当の勝負」

2014.04.15

[ワールドサッカーキング1405号掲載]
メズート・エジルとマチュー・フラミニの獲得はアーセナルの選手層に大きなプラスをもたらした。だが、その戦力面は今なお大きな課題でもある。

新戦力がもたらしたポジティブな雰囲気

 今シーズン、特に前半戦は内容も結果もとても良かったですよね。これまでのアーセナルは内容が良くても結果が伴わなかったり、面白いサッカーはするけど「セットプレーやカウンター一発で負けた」というような、もったいない試合が多かった。そこが改善されたと思います。もちろん、リヴァプール戦やチェルシー戦のように負けるべくして負けた試合も幾つかあるんですが、それを引きずって連敗することもなくなった。そういう安定感というか、タフさが身についてきたのかなという印象はありますね。

 戦力面も、ここ何年かは主力にケガ人が出たら取り返しがつかないという状況でしたが、今シーズンは選手層が厚くなった。それが一番の変化かなと思います。スタジアム建設のローン返済などがあってお金を使うことを控えていたアーセン・ヴェンゲル監督が、ついにお金を使って(メズート)エジルを獲得した。それが無駄な投資ではなく、とても効果的な補強になったのは大きかった。

 エジルのデビュー戦はインパクトがありましたよね。あの試合を機に「今年は何か違うぞ」と、クラブ周辺がパッと明るくなった。「ついに本物が来た」、「コイツと一緒ならやれるんじゃないか」という雰囲気になり、ポジション争いも熾烈になって「自分たちもやらなきゃ」という感じで(サンティ)カソルラや(トマーシュ)ロシツキらが奮起した。そういう相乗効果もあったと思います。

 もう一人の新戦力、(マチュー)フラミニの加入も大きかったですね。プレーの面でチームを変えたエジルに対して、フラミニは精神的にチームを変える役割を果たした。近年のアーセナルが勝てなかった理由は、選手層の問題はもちろんですが、かつての(パトリック)ヴィエラのようなキャプテンシーを備えた選手がいなかったからだと思うんです。そういう中でフラミニは試合中に吠えたり、大袈裟に身振り手振りを交えてチームに喝を入れている。こういうタイプは周囲から反感を買うこともあるけど、フラミニの場合はそういう役割を嫌味なくできた。チームでの自分の立場をしっかり把握した上でやっているから「何でお前に言われなきゃいけないんだ」という空気にはならない。そういう部分でフラミニの存在価値はとても大きかったんじゃないでしょうか。

来シーズンこそは「目標は優勝」と言える

 先程も言いましたが、今シーズンは選手層が厚くなった。(セオ)ウォルコットがいなくても(アーロン)ラムジーがワイドをやったり、ラムジーや(ジャック)ウィルシャーを欠いても、(アレックス)オックスレイド・チェンバレンが中央でプレーしたり……。ケガ人が出てもこれだけ結果を残せたというのは大きな成長だと思います。それは以前のアーセナルではあり得なかった。

 その中で「チームとして戦おう」とリーダーシップを取っているのがフラミニだと思いますし、シーズン終盤のプレッシャーが掛かる試合で、“まとめ役”がいるというのは心強いですよね。彼が2008年にクラブを出ていった経緯を考えると、本来なら古巣復帰はあり得なかった。契約を更新せず、フリーで出ていくというのはクラブから見れば裏切り行為ですから。そういう経緯があったにもかかわらず、戻って来たということは、本人に相当な覚悟があったと思うんですよ。それは再契約を決断したヴェンゲル監督も一緒。フラミニの復帰には2人の相当な覚悟があったと思います。そういう心意気があったからこそ、あそこまで献身的にプレーができているのかなと。

 ただし、戦力的にはまだ足りない。戦力面は今シーズン、大きく改善されたポイントではあるんですが、ライバルと比べるとまだまだ足りない。プレミアで戦えるトップレベルの選手をAランクとするならチェルシーやマンチェスター・シティにはAランクの選手が15~16人はいる。一方のアーセナルはせいぜい10~11人程度。そういう戦力差はどうしてもある。

 今シーズンのリーグ優勝は難しくなりましたけど、恐らくはトップ4でフィニッシュしますよね。そして多分、FAカップのタイトルも取っている。近年の中では良いシーズンなんですよ。そこにエジル級とは言わないまでも、それに近い選手を加えることができたら、いよいよ真の意味でプレミアリーグのタイトルを争うシーズンになるのかなという気はしてます。何人か効果的な補強ができれば十分にやれると思いますし、その準備もしているはずです。

 的確な補強をして、しっかりメンバーを編成する。そうすれば来シーズンは、久しぶりに胸を張って「目標は優勝」と言えるシーズンになるんじゃないでしょうか。

西岡明彦|1970年3月1日生まれ、愛知県出身。広島ホームテレビのアナウンサーを経て、98年夏に英国ロンドンに渡ってイングランド・フットボールの虜に。帰国後はスポーツコメンテーターとしてプレミアリーグやJリーグの実況を担当。

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