マンチェスターの街を二分する注目のビッグゲーム、マンチェスター・ダービーが3月25日に開催される。J SPORTSのプレミアリーグ中継などでおなじみの実況アナウンサー、西岡明彦さんに、現地での実況の思い出、そして注目の大一番について展望を語ってもらった。

――西岡さんはマンチェスター・ダービーを現地で中継されたことがありますよね。実際に現地で体感した試合当日の街の雰囲気や、スタジアムの雰囲気についてお聞かせください。
西岡明彦 実を言うと、僕たちはホテルからスタジアムに直行して、キックオフの3、4時間前からメディアブースで待機していた。だから、スタジアムの外がどれだけ盛り上がっていたのかを見ることができなかったんです。もちろん、試合そのものは大いに盛り上がりましたけど、街の様子がこうだった、という記憶はあまりないんですよ。試合後に街へ食事に出た時も、地元の人たちは意外なほど落ち着いていて、街中で大騒ぎするような感じでもなかった。地元の人たちにとってはダービーも日常の一部なのかなという印象を持ちましたね。盛り上がっていたのは旅行者。同じホテル泊まっていた人たちは、朝食の時からユニフォームを着て楽しそうにしてました。
――ダービーを実況する際、普段の試合と比べて意識するものはありますか?
西岡明彦 どの試合も同じアプローチでやっているつもりなので、仕事そのものに違いはないと思います。ただ、もしかしたらダービーマッチの前は、調べものというか、準備の時間が若干長いというのはあるかもしれない。普段の試合ではクラブの歴史を語る時間というのはほとんどないですけど、ダービーでは両チームの歴史とか、過去の記録をもう一度見直すとか、「過去にこういうことがありました」というのを紹介できるように用意するかもしれない。
――では、お仕事を抜きにして、いちサッカーファンとしてダービーを見る時の自分流の楽しみ方みたいなものはありますか?
西岡明彦 シーズンの流れとか、昨シーズンの対戦でどんなことがあったとか、そういうのを意識します。例えば、先日のユナイテッド対リヴァプール戦なら(パトリス)エヴラと(ルイス)スアレスは試合前に握手するのか、目を合わせるのか、なんて考えながら。過去の因縁とか、監督の仕草とか、そういう細かい部分を純粋に楽しみながら見る感じですね。
――マンチェスター・ダービーについて伺います。近年のマンチェスター・ダービーで特に印象に残っている試合はありますか?
西岡明彦 やっぱり、(ウェイン)ルーニーがオーバーヘッドを決めた(2010-11シーズンの)試合ですね。それから、僕と粕谷(秀樹)さんで現地から中継した2012年のシティホームの試合。(ロビン)ファン・ペルシーが終了間際にFKで決勝点を決めたやつも印象深いです。あとは、ユナイテッドの130周年を記念して両チームがクラシックユニフォームを着て戦った試合。ユナイテッドの記念試合だったのにオールド・トラッフォードでシティが勝ってしまうという。空気が読めなくてゴメンなさい、みたいな(笑)。それもよく覚えてます。
――今、お話に出た2012年のダービーについて、何か現地での思い出があれば教えてください。
西岡明彦 とにかく寒かった記憶があります。仕事で現地に行く場合、大抵はシーズン終盤の4月とか5月なんですけど、あの試合は12月でした。しかも、あの時はブースの問題とか色々とあって直前まで中継できるか分からなかったんですよ。「現地に行っても放送できないかもしれない」と言われて、とりあえずダメ元で行ってみようという感じだった(笑)。幸い、無事に中継できましたけど。
――今シーズンの最初の対戦ではシティが4-1で完勝しました。その試合を改めて振り返ってください。
西岡明彦 かなりワンサイドの内容で、シティがあと2、3点取っていてもおかしくなかったですよね。ユナイテッドはルーニーがFKで1点返すのがやっとだった。シティは今も良いですけど、この頃のほうが印象は強かった。それまでどちらかと言うとカウンター主体だったチームが、(マヌエル)ペジェグリーニ監督が来て攻撃のバリエーションが増えてきたな、という感じで。昨シーズンはあまり出番がなかった(アレクサンダル)コラロフとか(エディン)ジェコとか、そういう選手たちをうまく使っているな、というのもあったし、この選手が出た時はこういうサッカー、この選手が出たらこういうスタイルという感じで、選手起用にうまさを感じましたね。(セルヒオ)アグエロがケガをしても、そこまで急激にチーム力が落ちなかったのも、そういううまさにあるのかなと。
――対するユナイテッドはどうでしょう?
西岡明彦 今のユナイテッドは正直、何がしたいのか分からない部分がある。もちろん、目指すものはあるんでしょうけど、ちょっと分からない。
――そうしたチーム状況も踏まえ、今回の対戦のポイントを挙げてください。
西岡明彦 チーム状況を踏まえると、シティはアウェーだろうと容赦なく勝ちにいくはずです。優勝争いをしているし、今のユナイテッド相手にドロー狙いという発想はないのかなと。一方のユナイテッドは、安易に勝ちにいくと先日のリヴァプール戦のようにひどい目に遭う可能性がある。(アレックス)ファーガソン監督の時のような「内容が悪くても結果が出せるチーム」ではなくなってしまった感じなので。「負けなければいい」、「シティ相手にドローなら悪くない」という感じになってしまいそうな気がしてます。リヴァプールにやられたばかりだから、メンバー選考なんかも消極的になる可能性がありますよね。
――ルーニーはマンチェスター・ダービーで通算11ゴールを記録しています。ユナイテッドにとっては良いデータですが。
西岡明彦 正直、データは当てにならないと思います。前回の対戦でルーニーが1点を返せたのは、あの時のユナイテッドにはまだプライドがあったから。今はそういうものがあまり感じられないし、恐らく先行されたら厳しい。リヴァプール戦でも0-3の状況で最後にリオ・ファーディナンドを入れた。DFに退場者が出たので仕方ない面はありますけど、ピッチにいた選手は「あれ? そこ?」みたいな感じを受けたんじゃないかと。「ああ、そうなんだ」って。ファーガソンの時代にはあり得なかったことですよね。
――今回のダービーの結果が両チームに与える影響は小さくないと思います。まずはユナイテッドが勝った場合、両チームにどんな影響があると考えますか?
西岡明彦 ユナイテッドが勝った場合、とりあえず(デイヴィッド)モイーズの首はつながるかもしれません。ただ、今のユナイテッドが内容でも上回って勝つというのはなかなかイメージできない。勝つとしても、セットプレーとか、ラッキーな形での勝利になるのかなと。ダービーで勝ったからといってユナイテッドの状況が劇的に好転するというのは考えにくいですね。逆に優勝争いをしているシティは痛い。「もったいないことをした」という論調になると思います。
――シティが勝った場合については。
西岡明彦 ユナイテッドの評判は現時点でもかなり下がってしまったけど、そういうネガティブな評価が決定的なものになってしまう可能性が高いですね。
――それでは最後にスコア予想をお願いします。
西岡明彦 うーん……0-1か、0-2ぐらいだと思います。いや、ユナイテッドがホームで無得点というのもアレなので1-2にしておきましょう。1-2でシティの勝利。これでお願いします。