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気鋭の青年監督ロベルト・マルティネスが語る“香川評”「シンジにウチに来るよう伝えてくれ! 」

2014.03.14

LIVERPOOL, ENGLAND - MARCH 01: xxxxx of Everton xxxx xxxxx of West Ham during the Barclays Premier League match between Everton and West Ham at Goodison Park on March 1, 2014 in Liverpool, England. (Photo by Paul Thomas/Getty Images) *** Local caption *** xxxxxx

ワールドサッカーキング2014年4月号掲載]
気鋭の青年監督が語る“香川評”プレミアリーグで確かな評価を得る40歳の青年監督、エヴァートンのロベルト・マルティネスに話を聞く機会を得た。かつて宮市亮を指導した気鋭の指揮官は香川真司を絶賛した。

文=森 昌利 写真=ゲッティ イメージズ

「I like Kagawa, Yes!」

 それがロベルト・マルティネスの第一声だった。

 昨夏にエヴァートンの監督に就任し、1年目ながらスペイン人らしいアイデアを持ち込んでチームを躍進させた40歳の青年監督は、香川真司をどう思うかと尋ねられ、冒頭のように答えた。最後につけ加えた「イエス」という言葉は、「好き」を更に肯定する表現であり、「もちろん好きだ」、「好きに決まっている」といった意味合いになる。そして「自分のチームに所属していない選手についてコメントするのは難しいが……」と前置きしながらも、香川の能力を絶賛した。

 マルティネスがウィガンの監督だった昨シーズン、私は宮市亮を追って何度も彼と顔を合わせていた。基本的にポジティブな性格で、大きな茶色の瞳をくるくる回しながら情熱的に話し掛けてくる。サッカーが本当に好きでたまらないという気持ちを、ラテン人らしい陽気さとともに伝えてくる人物だ。

 そうした人好きのする性格の反面、監督としての評価は非常に高い。実際、2011- 12シーズン終了後には、リヴァプールが監督就任をオファーしている。しかし当時38歳の青年監督は、リヴァプールの提示条件が「全権を委ねる」ものではなかったことでウィガンの監督にとどまったという。指揮官としての権限を制限されるからといって、ビッグクラブからの誘いを惜しげもなく断るのは難しい。このエピソードからも、マルティネスがサッカーに関して一本筋の通った哲学を持っていることが分かる。

 リヴァプールの誘いを蹴った直後の昨シーズン、ウィガンはプレミアリーグからの降格を余儀なくされたものの、FAカップでタイトル獲得の偉業を達成。マルティネスは満を持してエヴァートンに引き抜かれた。

香川はワールドクラス特に技術は素晴らしい

 マルティネスに会ったのは2月4日、14-15シーズンからエヴァートンのユニフォームサプライヤーとなるアンブロのマンチェスター本社だった。

 まず初めに聞いたのは、1月の移籍マーケットでクラブが本田圭佑の獲得に動いたかどうか。CSKAモスクワのエフゲニ・ギネル会長の言葉どおり「エヴァートンからもオファーがあった」のか、その真相を確かめるためだ。

 しかしこの質問に関してはそっけなく「ノー」と一言。その一方で、「今回のイタリア移籍は彼の全盛期を捧げるもの。その創造性をミランでも発揮できるはずだ」と話し、今後の活躍に期待した。

 香川に関する質問をぶつけたのはこの直後。するとマルティネスの表情は目に見えて緩み、冒頭で紹介した答えが返ってきたのだ。

 私は追い打ちを掛けるように聞いた。「きっとあなた好みの選手だろうと思っていた。あなたの目指すスタイルなら、香川も本領を発揮できるのでは?」と。

 ここからは、マルティネスの言葉をそのまま連ねる。「多分、私のスタイルとの相性はいいだろうね。香川は現在欧州で経験を積んでいる日本人の中心にいる選手。日本代表の才能溢れる世代でも最も象徴的な選手だ。イングランドだけでなくドイツでの経験もあって、日本人の中では最も名の知れた選手。自分のチームに所属していない選手についてコメントするのは難しいし、私のチームの選手について他の監督が何かを言うのも好まないが、プレーを見れば彼がワールドクラスの選手、ワールドクラスの才能の持ち主だということはすぐに分かる。だからこそ、(マンチェスター)ユナイテッドは多額の移籍金を払って獲得したわけだ。特に技術は素晴らしい。世界でもトップクラスのスキルを持っている」

 マルティネスの言葉は弾んでいた。特に「ワールドクラスの選手、ワールドクラスの才能の持ち主」というフレーズを語る際は実に流れるような口調だった。それだけでマルティネスの香川に対する評価の高さが伝わってくる。

 ちなみにイングランドで「ワールドクラス」という表現は「世界のどのサッカー、どのチームに入っても通用する」という意味で捉えられ、選手にとっては最高の褒め言葉になる。

不遇の時を過ごしても揺るがない香川の評価

 しかし、1月25日のフアン・マタ加入以来、マンチェスター・Uでの香川の不遇は続いている。香川と非常に似たタイプの小柄なスペイン代表を獲得したデイヴィッド・モイーズ監督は、その後の4試合で香川を二度もベンチ外へ追いやり、1秒たりとも出場機会を与えていない。

 しかし、現在の欧州サッカー界で屈指の名将と評価されるドルトムントのユルゲン・クロップ監督がラブコールを送り続けるように、マルティネスも香川を「ワールドクラス」と呼んで、現在の不遇を全く気にする素振りを見せない。昨シーズン、トップ下で起用されない香川の処遇についてクロップが「心が張り裂ける。本当に涙が溢れた」と語ったように、香川が本来の力を発揮する舞台が与えられていないと見ている部分もあるのだろう。クロップやマルティネスに限らず、「もしも自分なら香川をこう使う」という明確なイメージを持つ監督は決して少なくないのではないか。

 最後にもう一押し。「もし可能なら、香川を獲得するつもりはあるか?」と聞いた。もちろん、マルティネスは即答しなかった。「そうは言っても今の彼はビッグクラブにいるからね。そう簡単に(ユナイテッドのレギュラー獲得を)諦められないだろう」と話した。

 しかし、別れ際に握手を交わすと、マルティネスは右目で軽くウインクしながらこう言った。「Tell him to join us」(彼にウチに来るように伝えてくれ)

 いたずらっ子のような無邪気な表情だったが、その言葉は香川に「エヴァートンというオプションもあるぞ」と伝える意図があったと思う。

 日本のファンにとって、現在の不遇は非常に気を揉むところではある。しかし、今回のマルティネスの話でも明らかなように、欧州の有力監督たちは今なお香川を評価している。ドルトムントで確立した揺るぎない評価は、簡単に失われるものではない。

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