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2013.12.22

世界の頂点を目指す日本のフットボールはどのようにフィジカルフィットネスデータを活用していくべきか

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フィジカルフィットネスの重要性、そして活用方法を語った名波氏 [写真]=兼子慎一郎

 世界有数のビッグクラブやナショナルチームをサポートし続けるアディダスは、現代のフットボールにおけるフィジカルフィットネスの強化を重要視し、プレーヤーのプレーデータ(フィジカルフィットネスデータ)を用いることが今後の主流になってくると考えている。そして、日本でもその重要性が浸透し、広く活用されることを願い、その指針となるフットボールメディアセミナー『データ×フィジカル ~データが日本フットボールを強くする~』を主催した。

 このセミナーでは、サッカー元日本代表の名波浩氏などフットボールにおける有識者、選手のプレー中の走行時間、ダッシュ回数などを計測し、数値(データ)化する『miCoach SPEED_CELL™』を導入して選手の強化にあたっているコーチ陣などが招かれ、「今後の日本フットボールの強化」について語られた。

 登壇者は以下の通り。その内容を引用し、上述のテーマを解き明かしていく。

名波浩氏(アディダス契約アドバイザー、サッカー解説者)
早川直樹氏(サッカー日本代表コンディショニングコーチ)
松橋力蔵氏(横浜F・マリノスユース監督)
高橋一隆氏(横浜F・マリノスユースフィジカルコーチ)
西部謙司氏(フットボールジャーナリスト)
野村明弘氏(フリーアナウンサー/司会進行)

フィジカルフィットネスの重要性

 昨シーズン、バイエルン・ミュンヘンがUEFAチャンピオンズリーグを制覇したことで、フィジカルフィットネスの重要性が改めて認識され始めている。準決勝第1戦で試合終盤に3-0とした場面、アルイェン・ロッベンがその日の最高速度である時速約30キロのダッシュで自陣ペナルティーエリア付近から約90メートルを駆け上がってゴールを決めた。これは一例に過ぎないが、ダッシュなどの強度の高い運動を繰り返し行えること、試合終盤でもその回数やスピードを維持できることがバイエルンのストロングポイントの一つであり、それはすなわち選手個々のフィジカルフィットネスが優れているということになる。現代の主流とされるパスサッカーを志向するクラブや国は多く、指導者はチームを強化するための戦術や技術面にフォーカスしがちだが、その一方でフィジカルが選手のパフォーマンスを大きく左右するという考えも注目されている。

 フットボールライターの西部氏も、「昨シーズンにドイツ勢が存在感を見せ、フィジカルが重要視されてきている。FWの選手も前線から守らなければ連動した守備が機能しなくなっているために、全体的な傾向として、スペシャルなものとしてのフィジカルだけではなく、フィジカルへの要求も様々になってきた」と語る。さらに名波氏も、「献身的とかハードワークといった部分で、ボールに対してファーストアクションを起こす選手と、その周りにいる選手の役割が非常に重要な時代になってきている。だから今は世界的なスーパースターと呼ばれるアタッカー陣であっても(守備のために)よく走るし、よく予測するし、いろんなものを90分の試合の中で感じ取ってプレーしている」と、現代フットボールにおいてフィジカルフィットネスを強化することが求められていると強調した。

 ではそもそも、フィジカルとは何を意味するのか。早川氏が説明する。「フットボール選手を形成する要素としては、技術や戦術面、体力面、それからメンタル面があるとされるが、日本の方にとって、『体力』と言うと、ひたすら走れるというイメージがあると思う。しかし『体力』には、持久力、スピード、筋力、柔軟性という4つの要素があり、それらが複雑に絡み合って『体力』を構成すると考えられている」。当然、そのベースが高いほど選手の能力が高いとされるが、早川氏はそのことに関して補足する。「実際の試合では、例えば暑いところでは同じ有酸素の能力があっても暑さに弱く体力がなくなってしまう選手がいたり、高地や湿度の高い地域、ピッチコンディションが悪い場所など、外的な要因が合わさってフィジカルの能力が決まってくる」。フィジカルにはあらゆる側面があり、選手は個々にそれらを強化していくことが求められている。

日本人選手に求められるフィジカルフィットネス

 日本人選手は体格面で海外の選手に劣るとされるが、フィジカルを武器に世界の舞台で対等に戦うことは可能だ。それは、西部氏の「海外においてフィジカルを語る際に、“差”というよりも“違い”という捉え方をしている」という言葉にも現れている。つまり、持久力やスプリント能力などはその選手の特徴の一つであり、そうした能力の違いがあったとしても、選手にはそれぞれ特徴に応じた役割があり、それを発揮できる場面がある。ではそれを踏まえた上で、日本人選手が磨いていくべきなのは、どういった部分なのだろうか。

 早川氏はこう語る。「海外の指導者と日本人選手の特徴の話をする中でまず挙げられるのは持久力。それと俊敏性があるということ。これは直線で40メートル、50メートル走るよりも、狭いスペースでの身のこなし方がいいという意味。そして持久力や高強度の運動能力、スピード、パワーなどのフィジカルを体力測定でチェックすると、フランス人選手などと比べ、持久力では数値が高く、パワーも実はあまり差が見られなかった。ただ一方で、スピードに関しては日本人選手の値は低く、パワーもまだまだ上げていける」。今後のトレーニングによって改善していく必要がある部分がスピードとパワーだと指摘する。

 その必要性は、横浜F・マリノスユースの監督を務める松橋氏も感じているという。「2013年1月にカタールの国際大会に出場し世界的な有名クラブの下部組織と対戦したが、身長や体の厚み、足や腕の太さなど、うちのチームもそんなに身長が低いわけではないが、そうした体格差を感じた。その一方で、試合でのフィジカルコンタクトで劣っていたかというとそうではなかったが、スピードという部分では突破力がある選手も、そのスピードを生かせていなかった」。そして松橋氏は、海外の選手のスピードとパワーに脅威を感じたと明かした。

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セミナーで登壇した、(左から順に)高橋一隆氏、松橋力蔵氏、名波浩氏、早川直樹氏、西部謙司氏 [写真]=兼子慎一郎

日本を強くするためのデータの活用法

 早川氏が、「海外の一部のビッグクラブでは、選手に毎日心肺計やGPSを付けて(選手の心拍数や走行距離などの)計測を行ない、次の試合に向けてどんな強度のトレーニングを組めばいいのかを落とし込んでいる」と言うように、海外のトレーニングの現場では、一部の強豪クラブを中心にトレーニングにフィジカルフィットネスデータが用いられているという。日本ではまだそうしたデータを活用するクラブが多くはない現状があるが、そうした中で、 横浜F・マリノスユースでは、いち早くデータを取り入れて選手の強化を行っている。

 横浜F・マリノスユースのフィジカルコーチを務める高橋氏は、選手のプレーを評価するツールの一つとして、試合中の走行時間や距離、ダッシュ回数などを計測し、データ化する『miCoach SPEED_CELL™』を採用している。その方法は、リーグ戦やカップ戦などでピックアップした数人の選手に渡し、試合後に回収してその選手が実際にどれくらい走っていたかを資料にまとめ、選手にフィードバックするという使い方だ。高橋氏は導入してみての実感を語る。「adidas CUP 2013 第37回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会では決勝戦で延長戦まで戦い、一番走った選手の走行距離は14キロ程度、スプリント本数では96本を記録した。これによって、数字だけで見れば世界のトップ選手と変わらないレベルで動けていることを知ることができた。また、トレーニングにおいても、(走行距離や時間など)選手の活動量があるかが分かることで、トレーニングメニューを考える際の目安になる」

 そして松橋氏が、「フィジカルコーチから報告を受けたデータと試合の映像を見て、選手がどれくらい動いているのかをリアリティーを追求しながら見ていく」と言うように、データを活用した強化はフィジカルコーチと監督との連係も大事な要素だ。「例えば、もっと連続して高強度のスプリントをこの時間帯でできればより得点の確率を上げられるとか、選手はどうして最後のシーンで強度の高いスプリントができなかったのかといったことを考え、それを改善できるようなメニューを組んでいる」。その際、松橋氏が重要視しているのが、「ビジョン&ハードワーク」。データを意識してハードワークすることは必要だが、「なぜそれをするのか」というビジョンを明確にしておくことがトレーニングの効果を高めることにつながるということだ。

日本はデータを取り入れた強化の道を進む

 早川氏はデータの客観性にメリットを感じている。「データがあることで圧倒的に選手とは話がしやすくなる。数字がないと、『それは早川さんの感覚でしょ』と言われてしまうが、データがあればその選手だけのトレーニングを提案できるし、独自のメニューがあることは選手にとってもすごくモチベーションが上がる」。名波氏もそれに同調する。「チームとして足りない部分を補うという意味で、フィジカルフィットネスがデータ化されるのは非常にいいこと。例えば走れていないチームは走らなければいけないし、これは非常に分かりやすい。それにボールを奪うか奪わないかという五分五分の状況で自分たちのボールにできるかどうかは選手にとって死活問題であり、そうした球際のプレーを突き詰めるためにもこういうフィジカルフィットネスをデータ化して選手に伝え、それを選手がすぐに吸収できるというのは素晴らしい」。

 ただし注意すべきは、データと実際のプレーのどちらかだけでは選手の力量を計れないということだ。名波氏は指摘する。「例えばシャビはチームで一番走行距離が長いが、それはフリーランニングをたくさんしているという意味ではない。彼のプレースタイルとして、必ずボールに関わりながらプレーするうちにチームでトップの数字を出している。つまり彼のプレースタイルによって生まれた数字であって、よく走っているということとは意味合いが違ってくる」。データ上の数字だけではなく、試合の映像や選手のプレースタイルを踏まえて判断することが重要であり、その上でチームや個人のトレーニングに落とし込んでいくという考え方が必要となるのだ。

 今後、指導の現場での定着が期待される、フィジカルフィットネスデータを用いたトレーニング。名波氏は導入のきっかけを提案する。「アディダスが試みたことによってデータ化されたトップカテゴリーやユース年代のプレーヤーの平均値と、自分たちのデータがどう異なるのかを知ることから始めるといい」。そのツールとなるのが、『miCoach SPEED_CELL™』のデータをトレーニングに活用すべく開発されたウェブサイト『フィジラボ powered by miCoach』だ。現在、海外の強豪チームや、国内でも横浜F・マリノス、横浜F・マリノスユースや夏の全国高校サッカー大会で決勝進出を果たした流通経済大学付属柏高校など、多くの強豪校でもすでに『miCoach SPEED_CELL™』を通してデータの活用を進めている。この先のフットボール界で、データを活用したトレーニングが広く一般的になっていくことは間違いないだろう。

 そして名波氏は、最後に将来の日本を背負って立つ子どもたちへの期待を口にする。「子どもたちがデータと映像を見ながらそのプレーを比較し、自分はこっちのスタイルだ、俺はこっちのスタイルだというように自分の中でプレースタイルを確立していってほしい」。トレーニングの現場でフィジカルフィットネスデータが広く活用されていくことで、日本のフットボールはまた一歩、世界と対等に戦うための道を進んでいく。

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