[ワールドサッカーキング2014年1月号掲載]
正守護神の座を失い、ベンチから試合を見続ける今も、レアル・マドリーに対する愛情と敬意を失うことはない。10歳でクラブに加入して22年。イケル・カシージャスは、“マドリディスモ”の誇りを胸に戦い続ける。

インタビュー・文=ホセ・フェリックス・ディアス Interview and text by Jose Felix Diaz
翻訳=高山 港 Translation by Minato TAKAYAMA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images
イケル・カシージャスは今、レアル・マドリーでの22年のキャリアにおいて、最も複雑な時期を過ごしている。今シーズンのリーガのピッチで彼の姿は見ることはない。長い間、“マドリーの守護神”と呼ばれてきた男が、ベンチから試合を眺めているのだ。
この現状はマドリディスタの目にも異常な光景として映っている。「俺たちの守護神に一体何が起こっているのか?」、ファンは疑問を投げ掛ける。「カシージャスは近い将来、マドリーを出て行くのでは?」といううわさも飛び交っている。彼は今、ピッチの外でマドリーの話題の中心にいるのだ。
このような状況下、ロス・ブランコスのキャプテンは、自身の置かれた状況と今後の成り行きについてこう語っている。「とにかく、シーズン終了まで様子を見よう。シーズン後にどんな状況にあるのか、それを見極めてから自分の身の振り方を考えるつもりだ。その時に状況が良くなっていることを願っている。そうなれば、僕は今後もマドリーの選手としてプレーし続けられるのだから」
10歳からクラブに在籍し、R・マドリーのすべてを知るカシージャスは、誰よりもこのクラブを愛している。
勝利こそがマドリーの“遺伝子”なんだ
――君は長年、レアル・マドリーというクラブを内部から見てきた。この十数年でクラブはどう変わった?
カシージャス マドリーはクラブとしての規模を常に拡大させてきた。以前と比べて、とにかく「どでかい」クラブになったという実感がある。昔のマドリーはもっと家族的だったし、ファンにとってより身近な存在だったよ。でも、フロレンティーノ・ペレスの会長就任を機にクラブの方向性は大きく変わった。会長はそれまでは想像もできないようなレベルでクラブを拡大させたんだ。「マドリーが巨大化する」ということは彼が会長に就任した時点である程度予想されていた。でも、これほど巨大になるとは誰も想像してなかったんじゃないかな。
――じゃあ、逆に変わらない部分はある?
カシージャス 勝利を追及する姿勢だね。これは僕がクラブに入った頃から全く変わってない。いや、クラブが巨大化してチームへの要求は更に大きくなったと言える。マドリーには常に勝利が要求されているんだ。多くの人が「勝てなくては意味がない」と考えるようになった。勝利こそがマドリーの“遺伝子”なんだよ。僕たちは全員がそれを理解している。「勝たなければ意味がない」と思っているのさ。
――君はこれまで多くのスーパースターとプレーしてきた。その中で最も偉大な選手を一人挙げろと言われたら?
カシージャス 難しい質問だな。本当に多くのスーパースターと一緒にプレーしてきたからね。フェルナンド・イエロ、ラウール(ゴンサレス)、ルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、クリスチアーノ(ロナウド)……名前を挙げたらそれこそ切りがない。でも、あえて一人だけ挙げるならクリスチアーノを選ぶよ。現在のチームメートでもあるし、何といってもあの得点能力はずば抜けている。ただ、やっぱり一人に絞るのは難しいね。一般的な評価はそれほどじゃなくても、実際には偉大だった選手がたくさんいる。例えば、僕にとってフェルナンド・レドンドは偉大な選手だった。人間的にも素晴らしいと言っておきたい。彼はチームメートの良さを引き出すことにかけてはナンバーワンだった。みんなが彼と一緒にプレーすることを望んでいたよ。
――つまらない試合をして勝利することと、スペクタクルなサッカーで負けること、君はどちらを選択する?
カシージャス それも難しい質問だ。プロサッカー選手にとって勝利が最も重要であることは間違いない。「勝利のために何をするか」という考え方がすべての出発点だからね。ただ、ファンの要求は常に大きい。入場料を払ってスタジアムに来ている彼らは、楽しいゲームを見たいと思っているんだ。一つだけ言えるとすれば、ガチガチに守るより、ボールをポゼッションして攻撃的なサッカーを展開したほうが、勝つ可能性は高くなるということさ。負けを恐れていては勝ち点3を取ることは難しいし、ファンもそれを望んでいない。となると、当然、攻撃的なサッカーをすべきだ。何より、スペクタクルなサッカーをしたほうが選手も楽しめるからね。
強いマドリーが戻ってきたという感じ
――これまでペレス会長が行ってきた政策をどう思う?
カシージャス 完璧な仕事をしてきたと思うよ。彼が会長になったことで、クラブはより高いレベルに到達した。これまで以上に世界にアピールできるクラブになったんだ。もちろん、ペレスが就任する以前からマドリーは多くのタイトルを手にしていたし、偉大な歴史を築いていた。でも、ペレスの政策でマドリーがより有名なクラブになったことは間違いないよ。会長は数多くのスーパースターを獲得した。同時に、マドリーを応援する人の数も世界中で倍増した。そういう点でも偉大な会長だと思っている。
――フィーゴ、ジダン、ロナウド、デイヴィッド・ベッカム、カカー、C・ロナウド、ギャレス・ベイル……大金を支払ってスターを獲得してきたことについては?
カシージャス 彼は会長に就任してすぐにあることを明言した。「世界最高の選手はレアル・マドリーでプレーすべきだ」というメッセージさ。そして彼はその言葉どおり、世界中のトッププレーヤーをマドリーに呼び寄せた。フィーゴに始まって、ジダン、ロナウド、ベッカム、カカー、クリスチアーノ……そして、この夏はベイルを連れて来た。会長が獲得してきたのは、そのほとんどがバロンドール受賞者であり、多くの個人賞を手にしてきた選手ばかりだ。
――まさに“ガラクティコス”と呼べる顔触れだね。
カシージャス そうだね。でも、マドリーが単にガラクティコスの集まりだと言われるのには納得できないね。クラブにはカンテラ出身選手やスペイン人選手を重視するという考え方も存在している。特に今シーズンはその考えが重視されているということを忘れてはいけない。
――君自身もクラブの生え抜きだ。スター選手が集まるクラブの中で、カンテラーノの重要性をどう捉えている?
カシージャス 僕は10歳の時にマドリーの下部組織に入った。僕の夢はマドリーのトップチームでプレーすることだった。そして、そのチャンスは意外と早く巡って来た。僕は若くしてマドリーのゴールマウスを守ることになったんだ。その頃のマドリーにもハイレベルな選手はたくさんいた。イエロ、ラウール、(マノーロ)サンチス、レドンド……レドンドはアルゼンチン人だけど、チームの中心はあくまでもスペイン国籍の選手が担っていたんだ。その後、多くの外国人選手が加わり、世界最高のチームができ上がったけど、それ以前のチームもチャンピオンズリーグを2度も勝ち取っていた。強いチームだったことは間違いない。僕らスペイン人選手の功績だって、十分に評価に値するものだと思うけどね。
――この夏はベイルやイスコ、アシエル・イジャラメンディらが新たにチームの一員となった。彼らはマドリーにふさわしい選手だと思う?
カシージャス 彼らの能力に関しては疑っていない。もちろん、マドリーにふさわしい選手だと思っているよ。イスコは開幕早々からチームの戦力になった。現在の能力、そして高い将来性を見ても、間違いなくマドリーの未来を背負っていく選手だよ。イジャラメンディはケガで出遅れてしまったけど、チームに攻守のバランスをもたらすことができる貴重な選手さ。彼も近い将来、大きな戦力になってくれるはずだよ。
――ベイルについては?
カシージャス 彼にとってこの夏は混乱の連続だったと思う。移籍金のことを含め、あまりにも注目を浴びすぎていた感がある。落ち着いて新シーズンに向かう余裕なんてなかったんじゃないかな。それに移籍市場が閉まる間際に入団が決まったというのも不利な要素だった。ただ、ここに来て、彼も本来のプレーを見せ始めている。後半戦は大活躍してくれると信じているよ。
――じゃあ逆に、新加入組に足りないもの、今後マドリーの選手として身につけなければならないものは?
カシージャス まずはチームの雰囲気になじむことが先決だよ。それはマドリーに限った話じゃない。新たな環境にできるだけ早く順応することが大事なんだ。ただ、ファンやメディアには「なじむための時間を与えてやってほしい」と言っておきたい。もちろん、チーム自体にも時間が必要だ。今のチームは昨シーズンとだいぶ変わっている。メンバー構成だけでなく、監督やコーチングスタッフも変わったからね。当然、時間が必要なのは監督も一緒だ。もっとも、新チームは良い形で仕上がってきている。特にこの数試合はすごくいいサッカーをやっているよね。強いマドリーが戻ってきたという感じだ。
10歳でクラブに加入してから22年が経った今も、クラブへの敬意と愛情を抱き続けるカシージャスだが、昨シーズン途中からはレギュラーの座を失い、厳しい戦いが続いている。ベンチを温める日々を過ごす主将が現在の心境を明かす……。インタビューの続きは、12月12日(木)発売のワールドサッカーキング2014年1月号でチェック!