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[リーダー対談]長谷川健太(ガンバ大阪)×中村和雄(秋田ノーザンハピネッツ・ヘッドコーチ/バスケット) 「怒るだけではやっぱりダメ。そのぶん時間を要して人間関係を作らないと」

2013.10.17

写真=静岡朝日テレビ

 10月8日にガンバ大阪の監督、長谷川健太氏の著書『一流のリーダーたちから学ぶ勝利の哲学 今すぐ実践したい指導の流儀』が発売された。著者とスポーツ界&教育界の名将たち7名による対談集で、一流の指導論や組織論、マネジメント論を気楽に学ぶことができる本書から、中村和雄氏(秋田ノーザンハピネッツ・ヘッドコーチ/バスケット)との対談の一部を紹介する。

長谷川 バスケットはbjリーグと日本リーグに分かれていますよね。全く知らない人間が言うのは申し訳ないんですが、そこは一つにしたほうがいいのかな、と。傍から見て、それでいいのかなという気がします。

中村 間違いなくそうですね。FIBA(国際バスケットボール連盟)から指導も来ているんです。日本みたいに小さい国で、そんなに強くないところで2つに分かれているのはおかしい、一つにすればいいって。だけど、なかなか……。JBL(日本バスケットボールリーグ)は企業チームというイメージがあります。一方でbjリーグはプロリーグで、一つの会社として収益を上げていこうという姿勢がある。当然、年俸も違う。会社からもらうお金のほうが高い。

長谷川 JBLのほうが高いんですか。

中村 はい、高いんです。それでね、面白いバスケットをやろうとすると、やっぱりアメリカ人、外国人が多いほうが面白いんです。日本人だけだと、やはり魅せるバスケットができない。だから外国人はbjのほうが多い。そういったことも含めて、すべてが違います。グッズを売るにしても、ハーフタイムの演出にしても、ゲーム前にしても。bjはお客さんのために音楽を流したりする。バスケットはバスケットで、その空間は他のことでも楽しませようというのがbjなんですよ。JBLは、やっぱり純粋な状態、バスケットだけでやっているという感じがあります。僕は、3年前にJBLからbjに移ったんですよ。ヨーロッパにバスケットを勉強に行ったとき、サッカー場がそのまま体育館に来たような素晴らしい雰囲気でやっているのを見て、あっ、これだって。ああ、アメリカとはまた違う感じがあると分かったんです。それで日本に戻ってきて、それまでは見たことがなかったbjのファイナルを見たら、近いわけですよ。

長谷川 そうだったんですね。

中村 だから、bjに移りたいと前のOSGフェニックス(現在の浜松・東三河フェニックス)のオーナーに言ったんです。すぐにOKじゃなかったんだけど、やっぱりここで逃がしたらもうダメだと思って、もし移れないなら辞めると言いました。僕だけが会社を辞めてbjに行きますと。そうしたらオーナーがbjについていろいろ調べて、発展性はbjのほうがあるんじゃないかということで踏み切ったんですよね。あの判断は正解だったと思います。いま、非常にいい状態でやれていると思いますから。

長谷川 いまはやっぱり、bjリーグのほうが人気があるんですか?

中村 そうですね。会社全体で盛り上げようとする姿勢、集客とかスポンサー集めとか、あとはいろいろなパフォーマンスをするとか、bjはもう必死なんですよね。食うために必死。だから、考えるわけです。bjとJBLが一緒になって、互いのいいところだけを取り合ってやれば相当いい状態になると思うんですよ。僕は統一賛成派なんですが……。

長谷川 やっぱり、反対勢力もたくさんあるということですか。

中村 互いに譲らないわけですよ。選手のバジェット(予算)にしてもJBLのほうが高いわけで、そこは譲らない。あとは、外国人枠に関してもJBLは譲らない。間を取って2人と言っても、主張し合ってうまくいかない(注:JBLは契約2人まで、コートに立てるのは1人。bjは契約が無制限、コートに立てるのは3人+アジア枠1人)。いまは何が何でも一緒になるという気持ちがない状態で話し合っている感じがするんです。まあ僕は協会の内部に入ってないんで、一緒にならないのかなと非常に残念な思いで見ています。

長谷川 まだ少ししかお話していないんですが、非常に熱さを感じるんですね。そこで中村監督の信念をお伺いしたいと思いまして。その熱さがそのまま信念、バスケットをメジャーにしたいというのが信念なのかなと思いながら、お話を聞いていたんですが。

中村 そうですね。要するに勝ちたい、何が何でも勝ちたい。どんなことがあっても勝ちたい。だから、練習でもゲームでも選手を罵倒する。勝っても内容が悪ければダメ、許せない。この前、セミファイナルで新潟とやって勝ったんですよ。でも、ロッカールームに戻ってきたある選手をパフォーマンスが悪いとかなり怒った。そうしたら1人のアメリカ人選手が、ずっと僕のほうを見てるんですよ。「何だよ、なんか文句あんのかよ」と言ったら、「いや、ない。ただ、今日は勝ったんだよね」と言ってきて。それで、「コーチの顔とか言動を見てると、まるで負けたチームみたいだ」って。だけど、試合には勝ったけど悪いものは悪い。

長谷川 なるほど。

中村 僕の原点は、ずっと同じ。とにかく急いで戻って、ひざを曲げて、ハンズアップして相手をにらむ。だから、記録に現れないところでみんなで頑張ろうというのが原点。ベンチの選手ものけぞってるんじゃなくて、前につんのめってくるような状態であるべきだと。だからとにかく僕にとっての美しさというのはそうなんだと。美しいバスケットをしたい。美しさというのは、記録に現れないところの頑張りなんだと言っています。だから、そういうことをやらない選手がいると怒る。目ざとくいきますよ。いま子供を怒れない大人も多いけど、大人を怒れない大人も多い。ベンチにいる監督やコーチでも、ベテランとか外国人を怒れない監督のほうが多い気がするんです。僕は、そのまんま。すると、なぜお前に怒られなきゃいけないんだって怒りますよ、外国人選手が。でも、悪いことを悪いと言える監督でありたい。こういうのが一匹くらいいてもいいかなと、いつも思ってるんですよね。

長谷川 すごく話が分かるというか、なかなか外国人選手に言えない監督というのは、Jリーグのなかにも多いと思うんですね。でも、そこで本当に自分の信念を持って、きちっと伝えることができるかどうかというのは、やっぱりチームを束ねていくうえでは非常に大切なことなのかなと思います。

中村 そうですね。ただ、怒るだけではやっぱりダメで。そのぶん時間を要して人間関係を作らないと。僕なんかは怒った選手とそのあとに一緒に焼肉をしょっちゅう食いに行って、焼肉屋の女将さんから「あなたも年を考えなさいよ。これだけ焼肉食べにきたら身体に悪いですよ」と言われるぐらいで(笑)。選手たちと一線を引いて食事をしないというやり方もあるけど、僕は食事をしているときに本音が出ると思っている。だから食事をしながら、うまくコミュニケーションを取れればと思っています。

長谷川 私は、どちらかと言うと一線を引くタイプで、なかなかそういうことができなくて。最後、エスパルスの監督を辞めると決まってからは、何度か選手を呼んで食事をしましたが、やっぱり、いま中村監督が言われたようなことは必要なのかなと思いました。

中村 長谷川さんが清水の監督を辞めるとき、そんなに悪い成績でもないのに辞めるのかって、ちょっと思ったんですよ。長谷川さんも、やっぱり熱いじゃないですか。ゴールを取ったりしたときの喜び方を見ても。それからテレビの解説を見ても、非常に分かりやすい。ああこの人一番分かりやすいよと思っていて、それで今日こういう対談があるということで、家内と2人で興味を持って、ああ、あの人だ、あの人だって。あの人としゃべるのはいいなって感じがあったんですよ。僕がいま言った分かりやすさとか熱さとか、やっぱり共通点がある気がするんですよね。

長谷川健太(はせがわ・けんた)
1965年、静岡県生まれ。ガンバ大阪監督。清水東高等学校、筑波大学、日産自動車でプレーし、Jリーグの創設に合わせて1991年に清水エスパルスに加入。決定力の高いFWとして1999年まで活躍した。J1通算207試合45得点、日本代表27試合4得点。現役引退後、浜松大学サッカー部(現・常葉大学浜松キャンパス)のサッカー部を指揮、2004年に日本サッカー協会S級指導者ライセンスを取得し、2005年から2010年まで清水の監督を務めた。サッカー解説者を経て、2013年にG大阪の監督として現場復帰を果たしている。
中村和雄(なかむら・かずお)
1940年、秋田県生まれ。bjリーグ、秋田ノーザンハピネッツ・ヘッドコーチ。1966年に赴任した私立鶴鳴女子高等学校(現在の長崎女子高等学校)で3度の全国優勝を達成。共同石油監督、秋田経済法科大学監督、浜松・東三河フェニックス監督を経て現職。女子ナショナルチームのヘッドコーチも長く務めた。浜松・東三河フェニックスを指揮した2009-2010シーズン、2010-2011シーズンには、連覇を果たし2年連続で最優秀コーチに輝いている。

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