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Vol.1 自分に足りないものを見つけて

2011.10.25

文・構成=増島みどり

 Jリーグ、日本代表(男女とも)の監督になるために必要となる、通称「S級ライセンス」(日本サッカー協会公認S級コーチ)を取得するための2011年講習会が、8月下旬から始まっている。1996年以降続いてきた現行の講習会に(95年までは2週間の集中講義のみで取得可能)、16年目の今年、ちょっとした「異変」が起きた。参加者22人の平均年齢が40歳と、過去もっとも若い指導者たちに世代交代したからだ。

 日本代表として67試合に出場し、98年フランス大会では、日本代表を初のW杯に導いたメンバーとして日本サッカーをけん引してきたレフティもまた、その中の一人となった。国内2度の短期講習から始まり、11週に及ぶ集中講義、指導実践、インターシップと来夏まで続く講座に参加する名波浩(38)を同時進行で取材しながら、08年の引退以来、再びピッチに立つ日を目指す新たなチャレンジを追う。

 もっとも今回は、サッカーのキャリアにおいておそらく初めて、「左足」を武器とはしないチャレンジ、である。

今年の講習会は、初めて平均年齢が40歳を切ったそうですね。どんな雰囲気でしょう?

名波 年齢が若いということだけではなくて、ひとつのチームとして、とてもいい雰囲気で進んでいると思う。ゾノ(前園真聖)、オグ(小倉隆史)、俊秀(斎藤)たちのように代表経験者や、Jリーグでの実績を持った選手、大学の監督さんや地域のクラブやジュニアの指導者と顔ぶれも多彩で楽しいね。サッカーも生活も共にする中で、それぞれが持っているキャラクターもあるし、サッカーに対する考え方も違っていたり、また環境やカテゴリーが違うのに共通点があったり、こうしたことを発見しながらコミニケーションを取ることは、講座そのものと同じように本当に勉強になる。

一般的に、カリキュラムはあまり知られることがありませんが、授業はハードですね。第一回の短期集中講習会の、平均的な一日は、7時の朝食から始まり、9時から3時間の指導実践、昼食を挟むだけで、午後は2時間ものゲーム分析発表に講義で5時間、夕食後も10時までグループディスカッションと、休む間もない。

名波 それでも時間が足りないくらい、お互いに議論を続けることもある。ほかにも講義でサッカーとは関係のない、例えば、最初のディベート(異なる意見で討論する)授業では「原発は是か非か」というテーマ設定され、色々な資料を準備したり、今までなら全くといっていいほど接点のなかった関係者へのリサーチや、インタビューも必要になってくる。企業で行われている研修や自己啓発のプログラムなども入ってくるし、今まで経験したことのない新しい刺激を受けている。

フィジカルで厳しい合宿なら慣れているでしょうけれど。

名波 もちろん実技実習も多くある。最初の頃、「顔合わせの親睦もかねて」と言われて紅白戦をやったら、親睦どころか途中から勝負にこだわり、みんなムキになっちゃった。オグ、ゾノや、プレーイングマネジャーの俊秀もいて平均年齢が若いというのは、そんなところに出ているかもしれないね。とにかく、にぎやかで楽しいから。でも唯一、英会話の授業では、誰も話せないからシーンとなっちゃって、「オー、NO!」くらいしか言葉が出なかった。

光景が目に浮かびます。ここまでで印象的な講義はありますか?

名波 「トレーディングゲーム」は、とても面白いものだった。文字通り、トレード(取引)をするんだけれど、フィリピン、ラオス、イギリス、アメリカ、日本、中国、インドと7ケ国に、その国の大きさや特徴によって配分された、はさみや鉛筆削りを使いながら、○、△、□といった形を作って、それを市場に出す。互いに取引をしながら資金を増やしていく模擬経済活動のゲームで、最終的に7ケ国が競う。自分は中国に入って取引をしたんだけれど、5時間も頭を使い考え続ける集中力、交渉能力、判断力も、決断力も試されるので、サッカーのゲームとは全く違った次元でエンジョイできるものだった。

紙は資源で、はさみなどは技術、○や△の紙が生産物という見立てで、最後はもっとも資金を獲得した国が勝つんですね。

名波 これまで自分のサッカー選手としての顔をどう作るかについては十分に考えてきたと思う。でもこれからは、指導者として、自分でも未知の顔を作っていく最中で、ある意味、自分に足りないものを日々発見するような作業をしているように感じる。長い現役生活で培ったサッカー経験値は確かに高いのかもしれないけれど、一方で、このトレーディングゲームなど新しい経験から、ライブ(進行中の)での決断の瞬発力はどうだろう、発想力はあるんだろうか、とか、マネージメント能力は?と色々と足りないものを考えさせられる。それが楽しい。

サッカーへの新たなアプローチでしょうか。

名波 同じ受講者たちから学ぶものもとても大きい。キャリアも違うし、今の仕事の立場も違う。それぞれのサッカー観や意見はどれもクオリティが高くて刺激的だ。

芸術的なパス1本で試合を動かすとか、コミニケーションを取るというのとは別次元での「試合」でしょうか。

名波 裏付けであるとか、理論的なアプローチであるとか、子どもの頃からずっと一緒だったサッカーの別の魅力、プレーで具現化してきたものとはまた違った奥深さというものを改めて味わっていると思う。

 集中講義は、10月下旬からラストの追い込みに入り、プレゼンテーションなどのプログラムも組み込まれている。

[増島みどり]五輪、野球、サッカーを担当したスポーツ紙をへて、97年からフリーのスポーツライターに。ジーコ監督時も含め、W杯、予選、国際大会で日本代表に長く帯 同し、夏・冬五輪種目など広く競技、選手を取材する。著作多数。スポーツの速報や選手ブログを集める「ザ・スタジアム」を主宰。http://thestadium.jp/

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