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地元の方々への感謝を胸に、J1へ 星大輔(FC町田ゼルビア/株式会社ゼルビア 営業・ホームタウン推進課 課長)

2015.10.16
星大輔

「今の所属選手たちを、満員のスタジアムでプレーさせてあげたいといつも思っています」

 そう語るのは、J3リーグFC町田ゼルビアで営業・ホームタウン推進課課長を務める星大輔さんだ。星さんは、主に地元企業に向けたスポンサー獲得の営業活動と、学校や地域イベント等に足を運んでチームのPRを行うホームタウン活動の両輪に日々、従事されている。

 現役時代に多くのクラブを渡り歩いてキャリアを重ね、引退後はフロントの立場からクラブを裏方として支える星さんに、今の思いを語っていただいた。

故郷への凱旋と引退

 星さんは地元の南大谷キャッツでサッカーを始め、FC町田を経て、ユース時代に名門・横浜マリノス(当時)ユースへ加入。そのままトップチームに昇格し、FC東京、大宮アルディージャ、モンテディオ山形、京都サンガ、栃木SCと多くのクラブで活躍した。そして現役生活も晩年に差し掛かる30歳の時、大きな転機となるオファーが届く。

「僕を育ててくれた町田。当時はまだJFLだったんですが、『町田にJリーグクラブを作りたいから、ぜひ帰ってきてくれ』とオファーを頂いて、もう迷うことなく帰って来ましたね。その時は、生まれ育ったこの町田市に恩返ししたいという気持ちがとても強かったです」

 2010年、自身のキャリアで最後のクラブになるだろうと覚悟を決めて町田に加入。その年のホーム開幕戦(JFL前期第2節)で移籍後初ゴールを記録する。地元ファンに大きなインパクトを与える凱旋ゴールだった。

「JFLでもたくさんのお客さんが入ることに驚きましたね。その試合は、家族、両親、親戚、友人たちも『大輔が町田に帰ってきたぞ!』ってたくさん見に来てくれて、そこでゴールを決められたのは本当にうれしかったです」

 そして、翌2011年シーズン。町田は開幕から快進撃を続け、クラブの悲願であったJ2昇格を達成する。その歴史的瞬間を見届け、星さんは現役生活にピリオドを打った。

「J2昇格が決定した時は、『このために町田に帰って来たんだ』と、目標達成できたことがうれしかったです。僕が子供の頃、この町にJリーグクラブはなかったわけですから。その瞬間に立ち会えたことがうれしくて。あと、昇格が決定したその試合でゴールを決めることができたんです。実はそれが僕にとっての引退試合でもあったので、ゴール決めた瞬間はもう頭が真っ白でした。時間が経ち、落ち着きを取り戻して初めて、町田にJリーグができた喜びに浸ることができました」

 実際のところ、Jリーグのエンブレムをつけた町田のユニフォームで戦いたいという気持ちもあった。しかし、自身のコンディションと心のバランスが崩れていく中で、現役を続けるのは厳しいと判断し、引退を決意したのである。

地元サポーターへの感謝の気持ちがすべて

 引退後、セカンドキャリアとしてクラブから最初に提案されたのは、ユースの指導者だった。しかし、星さんの考えは違うところにあった。

「最後のシーズンは、ケガの影響から体のケアと日々のトレーニング、週末の試合までにどうやってコンディションを整えるかで頭がいっぱいでした。なかなか頭の整理ができていないそのタイミングでオファーを頂いたんですね。サッカー選手って、みんなそうなんですけど子供の頃からサッカーしかしていないんです。だから、他の世界も見てみたいっていう気持ちが強かった。極端な話、サッカー界から一度離れて一般企業に行こうかと思っていたくらいです。そんな話をしたところ、『フロントでやってくれないか?』っていうオファーを頂いたんです」

 慣れ親しんだユニフォームからスーツへと“戦闘服”を変え、「営業・ホームタウン推進課」という肩書の下、星さんのセカンドキャリアは開幕した。最初の頃は苦労も多かったという。

「言葉遣いも無茶苦茶だったと思いますね。語尾が『っすね〜』と体育会系のノリでしたから。市内の駅での試合告知チラシ配りや、会社での事務的な作業は、自分が選んだ道だったとはいえ『これ俺じゃなくてもいいよな?』って思ったこともありました」

 地道にフロントとしてのキャリアを積み上げ、4年目となった今年は「課長」の肩書がつくまでになった。そんな現在の具体的な業務とは。

「ホームタウン活動は、地域のお祭りやイベントに出演して選手紹介をしたり、マスコットのゼルビーと告知チラシを配布したりと、チームのPR活動が主です。学童のサッカースクールなどを合わせると、年間で300回くらいは町に出ています。市民の80〜90パーセントがゼルビアを認知している中で、そこからどうやってスタジアムに足を運んでいただくかがクラブの今の大きな課題ですね。現在は動員数も平均3500人くらい(編集部注:本拠地野津田競技場の収容人数は1万328人)なので、満員にはまだまだなんです」

 本拠地の東京都町田市は、全国でも有数のサッカーどころとして知られている。Jリーグの試合は一般的に週末開催だが、町田市民はそのタイミングで友人とのサッカーの試合を組む人や子供のサッカースクールに赴く保護者などが多く、なかなかスタジアム観戦に興味が行かないという。また、スタジアムが郊外のため、アクセス面も大きな障壁になっているようだ。

星大輔

「営業活動では、既存のスポンサー各社との交流に加え、新規獲得の活動も頻繁に行っています。J3カテゴリーなので興味を持っていただけないですとか、相手の社内事情だとかで難しいところはあります。良いタイミングを待ったり、既存のスポンサーから紹介いただいたりしています。協賛金を頂いている上に新規営業活動にもご協力いただいているので、今のスポンサー各社には感謝の思いしかありません」

 日々の営業活動では、星さん独自の武器もあるという。

「名刺に現役時代の経歴を入れているんです。これを見ると、僕を知らない方でも『この現役時代って何?』って会話のきっかけが生まれて、いろいろな話ができるんです。よく『元選手の営業がいるから、今度会ってやってよ』とご紹介いただいて、優しくしていただけます(笑)」

 日々の業務の中で感じるのは、クラブを支えてくれている地元の方々への感謝だという。

「地元の皆さんに本当に支えられていると実感しています。先ほどお話したチラシ配りにしても、『何で俺がやらなきゃいけないんだ』なんて当初は思っていましたが、ボランティアの方々が一生懸命に声を出して配っている姿を見て、自分の考えが恥ずかしくなることもありました。現役の頃はそういう地道な活動をしていることを知らなくて、引退してから見えてきたことで、意識が大きく変わりました。選手たちにも教育の一環として、時間があればこういう場に連れてきて、サポーターの思いを伝えてあげたい。それも僕の仕事の一つだと考えています」

J1のビッグクラブを倒せるチームへ

 最後に、星さんが考える10年後の町田の姿を語っていただいた。

「やはり、10年後はJ1にいたいですね。クラブの規模は小さいかもしれないですけど、僕の古巣である横浜F・マリノスやFC東京といったビッグクラブを倒したいです。この小さな町に地域密着している小さな小さなサッカークラブですけども、将来はこのクラブがJ1のビッククラブと対戦して勝利する、そんなチームを作っていきますので、ぜひスタジアムに足を運んで応援してください!」

 星さんは今日も、クラブの明るい未来に向かって走っている。

インタビュー・文=野口一生(サッカーキング・アカデミー
写真=赤石珠央(サッカーキング・アカデミー

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を担当、「カメラマン科」の受講生が写真を撮影しました。
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