2014.07.01

好きなことを、貫き通して 土屋雅史(株式会社ジェイ・スポーツ 制作部プロデューサー)

J SPORTS 土屋雅史
J SPORTS 土屋雅史

「試合当日は、試合を90分間楽しむ」

 現在、株式会社ジェイ・スポーツでJリーグの試合中継担当プロデューサーを務めている土屋雅史さんは、毎節必ずどこかのスタジアムで、中継現場の責任者として指揮を執っている。日本でも屈指の中継技術を持つスタッフを率い、番組を制作する裏では、当日までの緻密な準備が成功の鍵を握る。試合を90分楽しむというのは、そんな土屋さんが仕事において掲げているモットーだ。サッカーを伝えるプロとして日々現場に立ち続けている土屋さんにとって、プロデューサーとは一体どんな仕事で、その魅力はどこにあるのだろうか。

ワールドカップのために自主留年

 土屋さんがサッカーと出会ったのは小学校の頃。漫画『キャプテン翼』に憧れてサッカーを始めるとメキメキと力をつけ、小学校と中学校では群馬県選抜に選ばれるほどの実力だった。さらに高校3年時には、地元の群馬県立高崎高校サッカー部の一員としてインターハイでベスト8の成績を収め、大会優秀選手にも選ばれた。

 その後、大学へ進学した土屋さんは卒業を控えた4年目にしてある決断を下す。何と、ワールドカップを観戦するためだけに、大学を自主留年したのだ。

「大学を卒業し、社会人になる年が2002年でした。2002年といえば、あのビッグイベントがあった年ですよね。当時からスポーツの仕事に就きたいとは思っていましたが、社会人1年目だと恐らくワールドカップを自由に見ることができないだろうと。しかも一生に一度あるかないかの日本開催。卒業はできたと思いますが、親に相当な無理を言って自主留年させてもらいました」

 家族ぐるみでワールドカップのチケット抽選に応募し、神戸で行われたロシア対チュニジアの一戦を生で観戦する幸運に恵まれた。ワールドカップを肌で体験したことで、あらためてサッカーを仕事にする決意を固めた。

「元々『Foot!』というサッカー情報番組が大好きで、ジェイ・スポーツに応募しました。学生時代は丸々2年分ぐらいの放送回を全て録画して何度も見直すぐらいのファンで、面接でもずっとその話ばかりでした(笑)。でも、当時の面接官がたまたまその番組のプロデューサーだったことも幸いし、入社することができたんです」

仲間を信頼し、試合を楽しむ

 入社後は憧れの『Foot!』の製作に8年間携わり、2011年7月からJリーグの試合中継担当プロデューサーとなった。ジェイ・スポーツが中継を担当する試合には必ず出向き、現場で指揮を執る。

「中継に関してはほとんど素人のような状態で、一番責任を取らなければいけないポストに就くことになりました。ただ、ここで自分が恵まれているなと思ったのが、現場のスタッフの方たちは日本でも屈指の技術と経験の持ち主、いわばプロ中のプロです。それまで僕は年間で現場とテレビ合わせて1000試合ぐらい観戦した年もあり、もっとこうしたら面白いのに、どうしてこういうことはできないのかな、と感じていたこともありました。ただ実際に現場に入ってみると、僕から言えることはほとんどありませんでしたね。むしろプロデューサーとしては、ディレクターやカメラマン、実況解説などの出演者の方たちを含めた人たちが、どれだけ気持ちよく仕事に取り組めるかの環境づくりが大切だと思いました。それが全てだと言っても良いくらいです」

 プロデューサーという立場ではありながらも、現場スタッフの技術と経験を尊重し信頼を置く。中継当日までに必要な準備を整え、トラブルや不備も未然に防ぐ。そうすることで、当日は無事に試合を見届けることができる。冒頭の「試合を90分間楽しむ」というモットーは、ここから生まれたものだ。

J SPORTS 土屋雅史

無観客試合の中継を担当

 そんな土屋さんが今年、日本サッカー史に残る一戦の中継を担当することとなった。2014年3月23日、J1第4節浦和レッズ対清水エスパルス。Jリーグ史上初の無観客試合だ。

「元々どのテレビ局がどの試合を中継するかというのは、シーズンが開幕する前にあらかじめ決まっているんです。浦和と清水の試合をジェイ・スポーツで中継することも開幕前から決まっていて、それが結果的に無観客試合となりました。偶然ですが、今シーズンの浦和のホームゲームをジェイ・スポーツで放送するのは今のところ、あの試合だけです」

 図らずも注目を集めることとなった無観客試合の中継で、土屋さんはある工夫を凝らした。中継用のカメラを、あえて観客席の中に設置したのだ。

「普段から信頼しているディレクターと相談して、カメラを2台増やしました。メインスタンドの、ペナルティーエリアの延長上のところです。オフサイドのシーンはもちろん、セットプレーやゴール前でのシビアな競り合いの映像が撮れ、実際の中継でも使いました。普段であればお客さんの邪魔になって置けない場所なので、あの試合でしか撮れない映像ですね」

好きなことを仕事にする幸せ

 サッカーに関わる仕事の中の一つとして、土屋さんは今の仕事に強いこだわりを持っている。試合の中継は一瞬一瞬が常に勝負で、そこで撮ったものしか表には出ない。失敗は許されず、決してやり直しも利かない。しかもそれを一人ではなく、チームで作っていく。そんな緊張感の中で切り取った「一瞬」を映像として残していけることが、テレビに携わる何よりの魅力であり、面白さだと言う。

「これだけ緊張感のある仕事を楽しめているのは、やっぱりサッカーが好きだから。よく、自分の好きなことを仕事にしない方がいいと言いますが、僕はそうは思わない。好きだからこそ我慢できることや乗り越えられること、続けられることもたくさんあります。それこそ昔、自分が憧れていた選手に試合の解説をお願いして一緒に仕事することだってあります。皆さんももし、何か一つ好きなことがあったら、それを貫き通して、仕事にできるまで頑張ってほしいです」

 サッカーへの情熱を貫き通し、自身の「好き」を仕事としている土屋さんの表情からは終始、充実感が溢れ出ていた。今日もどこかのスタジアムで試合を中継し、目の前の一瞬を視聴者に伝えているはずだ。

文=小林良宏(サッカーキング・アカデミー
写真=高山政志(サッカーキング・アカデミー

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を、「カメラマン科」の受講生が撮影を担当しました。
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