2014.04.12

世界最高峰の試合を言葉で彩る 柄沢晃弘(WOWOWアナウンサー)

柄沢晃弘

柄沢晃弘

 ピッチ上で次々に起こる華麗なプレーに言葉を添える。

 WOWOWでリーガ・エスパニョーラの実況として活躍するアナウンサーの柄沢晃弘さんは、その豊富な知識とボキャブラリーで、視聴者にサッカーの新しい視点を与えてくれる存在だ。

 柄沢さんは青山学院大学を卒業後、アナウンサーとしてTBSに入社する。当時、野球を中心にさまざまなスポーツ中継を担当していたが、「思うところがあり」30歳の誕生日を機に退職。現在、WOWOWの専属アナウンサーとして、1992年から今日までの20年以上にわたり海外サッカーの魅力を日本のサッカーファンに伝え続けている。

「アナウンサーになっていないなんて考えられない」という柄沢さんは、アナウンサーを目指したきっかけをこう振り返る。

「子供の頃からアナウンサーになろうと思っていたんです。僕は1961年生まれで、小学生の時に札幌オリンピックがあって。先生が授業を中断して、スキー70m級ジャンプ(現在のノーマルヒル)で日の丸飛行隊がメダルを独占したのをテレビで見せてくれたんです」

 その時、鮮烈にスポーツの感動を覚えたという。幼少期の体験が、柄沢さんを真っすぐにスポーツ実況の道へと導いた。

「とにかくしゃべり手になりたくて。中学も高校も大学も、放送委員会や放送部、研究会に所属していました。友人ができて、他校の人と知り合っていく中で、自分よりうまい人がいればもっと頑張ろうと思いましたね」

 当初から柄沢さんはスポーツのアナウンサーを志していたという。そこには良きライバルともいえる同級生や先輩と切磋琢磨することで得た成長があった。

 サッカーの実況という仕事のきっかけを得たのは、意外にも柄沢さんがアメリカにいた時だった。

「1991年の10月頃ですね。WOWOWが開局してまだ2年目で、当時主力のコンテンツがイタリア・セリエAの中継だったんです。ちょうどその頃TBSを退職し、アメリカに留学していました。しかし明らかに軸は学校になくて、野球やバスケットボールをよく見ていたんです。そんな時、WOWOWのアナウンサーが足りないので人を探していると、アメリカまでご連絡を頂いて。僕らの世代ではサッカーのテレビ中継はまだメジャーではなくて、今と比べれば情報量も少なかった。そんな折にヨーロッパのトップチームの実況ができると聞いて、これはいいぞ、と。それで92年5月からサッカーに携わるようになったんです」

 欧州リーグを実況するという新たなジャンルへの挑戦。結果的に、そこから現在までが1本の線で真っすぐにつながった。

柄沢晃弘

スペインのサッカーは美しい

 欧州には、ドイツ、イングランド、オランダ、フランスと、ごく近い距離で高いレベルを誇るリーグが多く存在するが、スペインならではの特色はあるのだろうか。

「バルサに象徴されるように、スペインのサッカーは美しい。おおって思わず乗り出してしまいます。ドイツならドイツ、イングランドならイングランド、各国にはそれぞれ特徴があって面白いですよね。イングランドには大柄な選手が多く、速さや強さ、男らしさが全面に出ている。リーガはそれとは全く違って、美しいボール回しで相手を崩す高い技術がある。日本人が参考にできる要素がいっぱいあると思うんです」

 スペイン国内のみならず、他国の選手にとっても魅力的なリーグだ。個性豊かな外国人選手の存在がリーグの個性をさらに引き立たせている。

「リーガには、テクニックに自信のある人がブラジルやアルゼンチンから集まりやすい環境がある。やはり自分の持ち味を生かせると思うんでしょうね」

 サッカー強豪国がひしめく南米には、スペイン語を公用語とする国が多い。言葉の壁が少ないことが、南米からスペインを移籍先に選ぶ要因の一つであることは想像に難くない。

 リーガ・エスパニョーラの1部リーグには20チームが所属するが、バルセロナとレアル・マドリーの2強を除いたその他の18チームを指す「オトラリーガ」という言葉がスペインにはある。長い歴史の中で、多様な民族、風土、言語を持ったそれぞれの土地が育てたクラブは独自の成長を遂げ、そのカラーの豊かさが自国のリーグを盛り上げてきた。

「その他18チームは別のリーグのようだったのに、今シーズンはアトレティコ・マドリーの快進撃で完全に上位の3チームが抜けている。そのすぐ下にいる、アスレティック・ビルバオ、レアル・ソシエダ、ビジャレアルといったチームも気が抜けない。今シーズン、ビルバオはホームでレアルに勝ったし、バルセロナにも引き分けた。キャラが立っているチームが、バルセロナやレアルに良さを生かしつつ抵抗していく感じが今シーズンはよく出ています。ここ数年の2強プラス18チームという構図が崩れてきているという面白さがありますね」

 ここまでの熱戦を振り返る柄沢さんは、視聴者と同じように混戦模様のシーズンを楽しんでいる。

「ほぼサッカーばかり見ている人生になっていますね。50%は仕事のために、あとの50%は好きだから見ています」

今のアトレティコは見ていて気持ちいい

 一つ勝ち点を落とすと、目まぐるしく順位が変わる。ここ数年の中でもとりわけリーガ・エスパニョーラならではのエキサイティングな部分が色濃く出ている今シーズン、残りの見どころは。

「アトレティコがどれだけやるか、ですね。監督のシメオネはものすごく実績があるわけではないのに、明確に自分のカラーを打ち出している。中盤の運動量や個々の頑張りを引き出して、これをやれば勝てるってみんなが信じている。見ていて気持ちいいです」

 2003年、ディエゴ・シメオネがまだ現役でアトレティコ・マドリーにいた頃、柄沢さんは彼と出会っている。

「現地からマドリード・ダービーの中継をした時、練習場に取材に行ったことがあるんです。そうしたら、通常選手の方から話しかけてくることはめったにないんですけれども、シメオネが僕らを見て、『ハポン?』(日本人かい?)と言ったんです。『そうだよ』って片言同士ですけど少し話しました。シメオネは強面だし、キャラクター的にもベッカムにケガをさせたり挑発したりと悪役のイメージが強かったので、それはすごく印象的でしたね」

 それから約10年あまり。アトレティコ・マドリーの指揮官になって結果を残しているシメオネの、目ざましい活躍に注目している。

 札幌オリンピックで得た鮮烈な体験からスタートし、着実に積み重ねた技術と冷静な視点を持ちながら、今週末もリーガ・エスパニョーラを伝え続けている。そんな柄沢さんが、こっそりといずれかのチームを応援してしまう瞬間はないのだろうか。

「もともと、どこのチームが好きという前にスポーツそのものが好きなんです。最後の最後に大逆転が起こったり、人間ドラマがあったり。そこがスポーツの面白いところですよね」

 現地からの最新情報を交えながら、経験に裏打ちされた解説者のコメントを引き出し、ピッチ上の出来事をくまなく伝える。すこぶる忙しい実況というポジションは、視聴者が試合をより深く楽しむための案内役だ。

 柄沢さんが紡ぎ出す、無数の言葉で彩られるリーガ・エスパニョーラはいつも、底なしの魅力にあふれている。

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インタビュー・文=佐竹亜理(サッカーキング・アカデミー
写真=高山政志(サッカーキング・アカデミー

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を、「カメラマン科」の受講生が撮影を担当しました。
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