2012.11.12

“有言実行の男”オスカルが世界一の称号に挑む

オスカル
Text by Kaoru TERASAWA

「1カ月で順応して、トップチームでレギュラーの座を確保してみせる。自分の実力に自信があるんだ」

 今夏、ブラジルからやってきた弱冠20歳の若者は、チェルシーと契約した後の8月中旬、平然とこう言い放った。ともすれば高慢にも聞こえる物言いだが、これは決して大言壮語ではなかった。

 それが証明されたのは、この発言から1カ月後の9月19日、イタリア王者ユヴェントスと対戦したチャンピオンズリーグ開幕戦だった。移籍後初めて先発でピッチに立ったオスカルは、試合開始31分、エデン・アザールの横パスを受けると、ペナルティーエリアの外から迷わず右足を一閃。相手DFに当たってコースが変わったボールは、そのままゴールネットに吸い込まれた。

 さらに、圧巻だったのはその2分後のプレー。ペナルティーアーク付近でゴールに背を向けながら縦パスを受けたオスカルは、振り向きざまに再び右足を振り抜いた。ボールは美しい軌道を描き、ゴール右上に突き刺さる。名手ジャンルイージ・ブッフォンが伸ばした手も届かない、文句なしのビューティフルゴールだった。鮮烈なデビューゴールを決めたこの日以降、オスカルはチェルシーのトップ下のポジションを不動のものとした。彼は有言実行を果たしたのだ。

 10代前半でブラジルの名門サンパウロのユースに引き抜かれ、わずか17歳でトップチームに昇格。2010年に加入したインテルナシオナウで才能が花開き、一躍ヨーロッパからも注目される有望株になった。20歳になった直後の2011年9月にはブラジルのA代表にデビュー。今夏にはU-23代表の10番を背負い、ロンドン・オリンピックで銀メダルを獲得している。

 サンパウロ出身という出自から“カカーの再来”と呼ばれることが多いが、実際には繊細なテクニックを持つプレーメーカーという表現が正しい。ブラジル代表のマノ・メネゼス監督は、「チェルシーのファンはインテリジェンス溢れる選手を見ることができる。彼は試合の流れを読み、チームのためにどんな問題も解決できる選手」と賞賛を惜しまない。

 知的で頭が切れる司令塔。しかし、それだけで終わるようなら王国の至宝とは呼ばれていない。彼が持つもう一つの武器。それは高い得点能力だ。

「ブラジル時代はシーズン20ゴールが普通のことだった。チェルシーでも、シーズン10~20ゴールはキープしたいね。近距離のシュートよりもロングシュートが得意なんだ。誰かがボールを渡してくれれば十分なのさ」

 このセリフもまた、大言壮語でないことは、もうお分かりだろう。前述のユヴェントス戦での2ゴールはもちろん、オスカルはU-20ワールドカップ決勝という大舞台でハットトリックを決め、チームを優勝に導いた経験を持つ。

 チェルシーでは、英雄ディディエ・ドログバから背番号11を受け継いだ。偉大なる前任者とはポジションも、プレースタイルも、キャラクターも違う。だが、オスカルが持つ大一番での勝負強さは、サポーターから絶大な支持を得たドログバに通じるところがないだろうか。

 観衆を沸かせ、そのハートをがっちりつかむオスカルの才能は、クラブ・ワールドカップという大舞台でもいかんなく発揮されるに違いない。