クラブ、選手の様々な思惑が交錯した夏の移籍マーケットが8月31日をもって閉幕した。夢の成就、再起への誓い、裏切り行為……移籍成立の陰には様々なドラマがあったが新天地を求めた選手に共通するのは、この1年が“勝負のシーズン”であるということだ。彼らは自身が思い描く活躍を見せられのか。移籍プレーヤーたちの可能性を探る。
“勝てるチーム”を自ら作り上げるという挑戦
サッカー界屈指の野心家であるズラタン・イブラヒモヴィッチは、目標達成のために常に最もシンプルかつストレートな方法を選択する。所属クラブが自分の野心を満たしてくれないと感じれば、いつも移籍を選択してきた。今回もそうだ。ミランの競争力低下を肌で感じ取り、「このチームではチャンピオンズリーグ優勝という目標を達成できない」と思うと、すぐに移籍先を探し始めた。ただし、今回の選択はそれまでのものと少々異なり、「勝てるチームへの移籍」ではない。
3年前の失敗が、今回の選択に影響しているのは間違いない。CL制覇のためにバルセロナへ移籍した2009-10シーズンは、自らが「勝てない」と見限ったインテルがCLを制覇。バルサでの彼は、相次ぐケガに加え、ジョゼップ・グアルディオラ監督と対立するなど散々なものとなった。
この経験により、彼は「常勝チームに加わる」という方法論を捨てた。パリ・サンジェルマンは現在のヨーロッパで最もリッチなクラブだが、CLを勝つにはクラブとしてあまりにも未熟だ。金で選手を集めるだけで強いチームが生まれるわけではないことを重々承知の上で決断を下した。
もうすぐ31歳になる彼にとって、残された時間はそれほど多くない。チアーゴ・シウヴァを直接交渉で口説き落とし、パリへと伴ったのは、その必死さの表れだろう。これまでは“一匹狼”で、ピッチ上でも唯我独尊の振る舞いが目立ったが、パリSGではリーダーとして、才能はあるが勝者のメンタリティーを欠く若手たちを引っ張らなければならない。
もっとも、開幕からの数試合を見る限り、心配の必要はなさそうだ。パリでの挑戦は、彼をこれ以上ないほどに奮い立たせているのだから。
スクデットを勝ち取り“10番”の後継者へ
誰よりも小さいが、ゴール前に迫った時の威圧感は誰よりも大きい。2年ぶりのユヴェントス復帰は、ジョヴィンコのリベンジ成就に他ならない。移籍先のパルマで「放出したことを後悔させてやる」と公言し、昨シーズンは15ゴール16アシストと抜群の輝きを放ち、アッズーリにも定着した。一度は自分を見切った古巣を翻意させ、今夏に古巣へと返り咲いた。
主将アレッサンドロ・デル・ピエロの退団に伴い、名門の“背番号10”が空き番号となった。その後継者として名乗りを上げたのが、ファンタジスタの系譜を継ぐジョヴィンコだ。ユーヴェ生え抜きの彼は、下部組織でもU-21代表でも10番を背負ってきた。だが、「デル・ピエロやプラティニが誇示してきたように、ユーヴェの10番は明らかに重みが違う」と守護神ジャンルイージ・ブッフォンは安易な後継者指名に釘を刺す。結局、背番号10は保留のままになった。
ただし、最前線も1・5列目もこなせる高いスキルを持つジョヴィンコの復帰を熱望したのは無敗優勝監督のアントニオ・コンテであり、既に新旧チームメートからの信頼も厚い。
FW陣のもう一人の柱であるミルコ・ヴチニッチが「やはりうまい。確かにデル・ピエロと似ているよ」と感嘆すれば、次期主将の呼び声が高いクラウディオ・マルキージオも「彼はパルマでの2年間で成熟した」と旧友の帰還に興奮を隠さない。
自他ともに認める10番の後継者になるにはチームをスクデットに導く活躍が絶対条件。負けん気の強いジョヴィンコは、敵に回せばこれほど厄介な相手はいないが、味方になればこれほど心強い男もいない。今シーズン、背番号12をまとうジョヴィンコは自身初のスクデットを目指す。
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