2015.07.09

【松原渓のなでしこ現地レポート】「仲間を信じて最後まで走りぬいたなでしこ」

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文=松原渓 Text by Kei MATSUBARA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

 9日ぶりに、バンクーバーに帰ってきました。

 いよいよこの日がやってきました。前日の練習は、決勝前日とは思えないほどに和気あいあいとしてリラックスした中で、1カ月間激戦を勝ち抜いて来たチームの一体感が現れていました。そして練習後にはサプライズが待っていました。初戦のスイス戦で負傷し、帰国を余儀なくされていた安藤梢選手が再びバンクーバーに戻って来たのです! 選手達は手で花道を作り、盛大にハグをして迎え入れました。決勝戦まで進んだら、安藤選手を決勝戦に連れてこられるという協会の決定があり、それもなでしこジャパンが勝ち進む大きなモチベーションになっていたようです。かくして、23人で決勝戦を迎えることになりました!

 大勢のアメリカサポーターがこの日の試合に向けてカナダ入りしたそうで、この数日間のバンクーバーは、ホテルもチケット(あっという間に完売)も破格のレートになっていました。カナダはアメリカにとって“準”ホーム。ロンドン五輪決勝も現地取材しましたが、あの時でもここまでアウェーではありませんでした。

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 キックオフ3時間前。スタジアム周辺は大勢のサポーターで歩行者天国状態。スタジアム前は、歩けないほどの人で溢れています。昨年、川澄奈穂美選手がプレーしたシアトル・レインの選手の皆さんと会いました! アメリカサポーターも、「一緒に写真撮ろう!」「Good luck!!」ととってもフレンドリー。

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 「自分たちの声が聞こえなくなるぐらいのアウェー感が大好き」と話していたのは大野忍選手。そんな“超アウェー”のスタジアム、川澄選手や岩清水梓選手も、歓迎していましたが……。

 対戦相手のアメリカとは、前回のドイツ女子W杯決勝で対戦して勝利(2-2の後のPKで日本が勝利)し、2013年のロンドン五輪では敗れ(1-2)ました。大舞台で名勝負を繰り広げ、宿命のライバルでもあるアメリカとの3度目の対戦。共に、2つの激戦を経験している選手も多く、ベテラン揃いです。アビー・ワンバック選手、カリル・ロイド選手、ミーガン・ラピノー選手、アレックス・モーガン選手といった、ロンドン五輪で活躍したアメリカの攻撃陣は相変わらずのスターぞろい。ここまで5試合連続無失点で勝ち上がってきており、守備陣の硬さも大会随一。

 一方、日本は技術と組織力、そして宮間あやキャプテンが大切にする「仲間を信じる気持ちの強さ」があります。

 そして16:00、ついに運命のキックオフを迎えました。

 試合は、思わぬ展開に。前半3分と5分に、ロイド選手にセットプレーからゴールを決められ、さらに1点を追加された16分にはロングシュートでハットトリックを許します。加えて、米国サポーターの「USA!、USA!、USA!」の大合唱が地鳴りのように起こり、見ているこちらが強張ってしまうほど……しかし選手達は、それでも勝利を信じていました。

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 大儀見優季選手が1点を返し、前半33分からは大黒柱の澤選手が登場! 52分には、セットプレーからの競り合いで澤穂希選手が空中戦から相手のオウンゴールを誘い、2点差に。これまでに何度も力を合わせて逆境を乗り越えてきた経験と仲間への信頼で、なでしこジャパンの選手達は最後まで走りぬきました。しかし、その後1点を追加されて2-5。なでしこジャパンの挑戦は、準優勝でフィナーレを迎えました。

 ピッチ上では、最後まで全力を尽くした両チームの選手がしみじみと言葉を交わすシーンが至る所で見られました。

 試合後の選手たちは、「悔しいけれど、すべて出し切った」と、話していました。振り返ってみると、現地取材の中でも日に日に成長していく、生き物のようなチームの強さを目の当たりにできて、私にとっても忘れられない大会になったな……としみじみ。

USA v Japan: Final - FIFA Women's World Cup 2015

 負けて終わるのは確かに悔しいですが、W杯準優勝は素晴らしい快挙です。前回大会でチャンピオンになり、翌年の五輪では準優勝。そして今大会も準優勝。主要大会でこれだけ結果を残したなでしこジャパンは、世界の強豪国であることを改めて証明しました。

 4年前のなでしこブームを経て、この4年間を振り返って宮間選手は「ブームではなくて文化になっていけるように」と目標を話しました。また一歩、その目標に近づいたのではないでしょうか。

 再び両者が対戦する日がいつになるのか、今から楽しみでもあります。早ければ来年のリオデジャネイロ五輪。なでしこジャパンの新たな戦いは既に始まっています☆