2015.05.26

「前回王者としてのプライドは絶対に持っていたい」宮間あや(岡山湯郷Belle)

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インタビュー=上野直彦 Interview by Naohiko UENO
写真=岡山湯郷Belle Photo by Okayama Yunogo Belle

 今大会のメンバーに選出された宮間あや。5月3日、所属する岡山湯郷Belleの本拠地で開かれた代表選出会見で彼女はこの4年間の気持ちをありのままの言葉で表した。
 思えば千葉の外房で生まれ育った宮間が、岡山・美作の地に移り住んですでに10年以上がたつ。W杯は今度で4回目の選出だ。ただ前回と決定的に違っているのは、日本のサッカー史上、初めてW杯連覇がかっている。
 2011年ドイツ大会で初優勝、その後、澤穂希からキャプテンマークを託され、難しい舵取りではあったが、2012年ロンドン・オリンピックでは見事銀メダルを獲得。だが、今大会のミッションはそれ以上に困難なものだ。
 宮間あや。その小さな瞳は、いま、何を見つめているのか。彼女に思いのたけを語ってもらった。

高いパフォーマンスを発揮できるのは、しっかりした準備から

――8日からW杯に向けて国内合宿がスタートしますが、現在のコンディションはいかがですか?(取材日:5月14日)
宮間 良い状態だと思います。ありがたいことに大きなケガをしたこともないので。もともとコンディションが大きく変化することはありません。

――宮間選手はケガも少ないですし、常に高いパフォーマンスを発揮しています。その秘訣は?
宮間 よく食べてよく寝ることです(笑)。本当にそれくらいです。ただ、試合に向けては、いつも良い準備をと心掛けて練習をしています。

――今回のW杯は前回王者として参加することになります。「連覇」を期待されていますが。
宮間 全く気にしていません。前回優勝はすでに過去のことです。なでしこのいいところは、常にチャレンジャーであるという気持ちを忘れないことです。初戦のスイス戦から、とにかく一つひとつ相手を倒していく……倒すとかいう表現はあまり好きではないのですが、上を目指して一歩一歩上がっていくイメージです。今回は私達も私達自身に期待していますし、連覇したいと思っています。周りの声というよりは、今は自分たちが何をするかということに集中しています。

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人と人が繋がるチカラは日本が一番

――今回選ばれたW杯のメンバーは、ドイツW杯とロンドン五輪の両大会に参加している選手が15名選出されました。大舞台を経験していることはトーナメントを勝ち抜く上でどのようなメリットになると思いますか?
宮間 ドイツW杯では一番高いところに立てました。オリンピックでは表彰台で2番目に高いところに立てました。やはりそこからの風景は特別です。その風景を知っているのは強みですし、そこへ再び行きたいと思っています。未知の世界へ行くよりも、知っている世界をもう一度見たい、もう一度あそこに上がりたいとい思うほうが現実味があります。そういったメリットがあると思います。あれから世界の女子サッカーはどんどん進化しています。でも、人と人が繋がるチカラというのは日本が一番だと思っています。攻撃でも守備でもと、できるだけ多くの人がボールに関わるサッカーを目指していきます。

――今回のW杯はキャプテンとして臨みますが、この4年間でチームとして成長したと感じている部分がありましたら教えてください。
宮間 4年間で選手の入れ替わりがかなりあったので、方向性というものを完全には見いだせてはいません。でも、4年前の時のように守備を徹底的にやってワンチャンスを生かすという形では難しいと思っています。また、昨年のカナダ代表との遠征試合では、2試合とも勝利したものの、セットプレーからの失点がありました。成長という点ではまだまだの部分が多いです。ただ、いろいろな形で得点できているので、試合を動かせる戦い方ができるようにはなっていると思います。

澤選手は本当に必要な選手

――佐々木監督は宮間選手の役割について「前回大会のようにゲームメークよりチャンスメークの方がいいと思っている」と話しましたが、チームではどういった役割を求められていると思いますか?
宮間 これから監督が何を言うか、チームをどういうふうに融合していくかだと思いますので、今の段階ではそこはあまり考えていないです。どういうシステムでやるか、どこのポジションかも決まっていないので、準備の段階で、私の役割も見えてくると思います。

――澤選手の選出について率直な感想を聞かせてください。
宮間 復帰や戻ってきたという書かれ方をするのですが、自分としては、そういった感覚ではありません。佐々木監督が今までタイミングを調整してきたのだと思います。本当に必要な選手であることは間違いないですし、とにかく一緒にプレーできることが嬉しいと思っています。

――決まってから連絡は取り合いましたか?
宮間 はい、電話でもメールでも。お互い良い準備をして、良い状態で大会に入れるようにしようと話し合いました。

――澤選手と宮間選手は先輩・後輩を越えて、例えるなら“同士”のような印象を持ちますが。
宮間 尊敬する先輩でありますし、これまでの日本の女子サッカーを引っ張っている凄い選手です。同時に人間として、ピッチ外でも本当に尊敬する存在です。それにとても楽しい女性です。今まで時間を共有することができて幸せに思っています。

――澤選手がいるだけでチーム全体のモチベーションも違うのでしょうか?
宮間 チーム全体がどうかは分からないですが、私自身は何でも話せる何でも聞いてもらえる相手、特別な存在です。とにかく、いるといないのとでは大違いです。ベンチにいても、ずっと声を出してくれますし。

グループリーグのポイントは初戦・スイス戦

――W杯の展望についてお伺いします。グループリーグではスイス、カメルーン、エクアドルといずれも初出場の国との対戦となります。それぞれの対戦国の感想を聞かせてください。
宮間 スイスは本当に勢いがあるし、若いチームです。個人技もあって、アクションも多いチームです。一対一でのアクションも多いですし、ドリブル突破を仕掛けてくる選手も多い。果敢にゴール前まで攻めてくる選手もいるので、そういった意味でも勢いを感じます。

――守備に関しては。堅いイメージがあります。
宮間 そうですね。ですので、横の揺さぶりには対応が難しいのではと思っています。

――カメルーンについては、さすがに情報が少ないと思いますが。
宮間 今の段階では謎です(笑)。 映像も見ていないですし、情報もありません。

――エクアドルについては。
宮間 カメルーンと同じで情報はありません。でも、南米なので個人のテクニックはあるのかなと思っています。

ブラジルの圧倒的な個の力

――日本が順当に勝ち上がるとベスト8でブラジルと対戦することが予想されますが、ブラジルについてはどのような感想を持っていますか?
宮間 すごく良いチームだと思います。マルタ選手をはじめ、個だけではなく、攻撃の部分では組織的になっています。ただ、守備はそこまで組織的ではない印象です。日本はロンドン五輪でも対戦していますし、どう戦えばいいのかはチーム全体が理解しています。

――ブラジル代表は、来年のリオデジャネイロ・オリンピックも踏まえて代表選手はクラブに所属せず代表チームに所属しています。代表の合宿所で練習を重ねて、給与も協会が支払うという形で異例の長期合宿を行っています。
宮間 そのようですね。ボールを奪い切る力であったり、反応のスピードとかはかなり速い。やはり私達は連携で崩していかなければいけないと思っています。

宮間あやから見た優勝候補国の真実

France

――優勝候補には日本以外に、ドイツ、米国、フランスが挙げられています。佐々木監督は「勝てない相手ではない」とコメントしていましたが、宮間選手はいかがでしょうか?
宮間 ドイツは形があるというか、得意なパターンを持っています。例えばサイド攻撃であってもサイドチェンジしてからの崩しが多いです。そこに選手がサポートに入ってきて、形を作ってフィニッシュで決めるとか。あるいは、前が空いた時はミドルシュートだとか、ある程度形ができているチームです。しかも、その完成度がかなり高いですね。

――守備はどう見ていますか。
宮間 ただ組織的な守備という印象はありませんので、崩せるチャンスはあるのではないかと感じています。

――フランスはどうですか。ロンドン五輪では勝利しましたが、3月のアルガルヴェ・カップでは大敗しました。
宮間 フランスはセンターバックに背の高い選手がいるのですが、カバーリングがとてもうまい。高さもフィジカルもあるので、ハイボールには絶対的な強さがあります。味方が突破を許しても、組織としてのチャレンジ&カバーができる守備が固い。攻撃面も組織的ですが、サイドは直線的な攻撃が多いですね。

――サイドには元・短距離選手だったエロディー・トミス選手などがいます。
宮間 そうです。ドリブルにしてもマルタ選手のようなピッチを切り裂くようなドリブルではなくて、スピードの変化で抜いてくるような選手が多いです。ただし、(ルイーザ)ネシブ選手がいたらリズムが違ってきます。彼女は左右にパスを散らすことができるので。アルガルヴェ・カップではケガで欠場していましたが、いずれにしてもフランスはバランスの取れた良いチームです。

――アメリカはどうでしょうか。前回大会の決勝戦では歴史に残る名勝負を演じましたが、現在はあまり調子が良くないように思います。アメリカの女子リーグでプレーしていた宮間選手にとっては友人も多いし、気になるチームでは?
宮間 もちろん友人はたくさんいますが、4年前ほどではありません。若い選手もどんどん入ってきています。アメリカは今のように調子が上がっていない状態であっても、本大会に入ってから強い。それがアメリカです。自分達がうまくいっていないのは分かっているのでしょうけど、彼女達は試合の勝ち方を知っています。今までの経験もありますし、私たちとはA代表マッチの数が比べものにならないくらい違います。月に1、2回は代表戦をやっている。日本の女子代表も強化を考えるなら、この点は重要なことだと思います。

――セントルイス・アスレティカ時代にチームメイトだったゴールキーパーのホープ・ソロ選手は宮間選手の親友です。メンバー発表後に連絡は取られましたか。
宮間 お互いに勝って会えるようにしよう、と連絡しました。決勝トーナメントの組み合わせでは勝ち続けないと会えないので。

なでしこには“土壇場力”が備わっている

Japan v USA: FIFA Women's World Cup 2011 Final

――佐々木監督は「簡単には連覇できないだろうと周囲から思われている中で、そういうところをかいくぐっていくのが、なでしこ」だとコメントしていましたが、宮間選手はそういったチームの底力みたいなものは感じていますか?
宮間 それは前回も同じです。自分たちでさえ、そこまで勝てるかは分からないところを現実のものとしてきました。底力というか、自分達にはそういう力があると信じていますし、実現するための努力をすべてやりたいと思っています。

――なでしこは、もの凄いアウェー状態でこそ底力を発揮してきました。北京オリンピックでの準々決勝の中国戦、ドイツW杯ベスト8のドイツ戦。どれもスタジアムは超アウェー状態でした。“土壇場力”とでも呼ぶべきものが、なでしこにはあります。
宮間 そうですね、本当に。自分達が持っている以上のものが出せる、そういう能力を持っている選手がすごく多いと思います。お互いが化学反応ではないですが、さらに引き出し合えるので、そこは自分達も楽しみにしている部分でもあります。

――代表発表の場で佐々木監督は「若手はベテランに比べ、メンバー入りへの奮起が足りなかった」と話しましたが、宮間選手自身はメンバー入りできなかった選手との違いを感じましたか?
宮間 それが選手選考の難しさでもあると思います。とはいえ、優勝するためのメンバーと監督も考えて選んでくれたのだと思います。そのチャンスをつかむのは若手自身です。チャンスは与えられていましたから。若手時代の澤選手もそうだったかもしれませんし、他の先輩たちも、また私や福元(美穂)選手も、十代の頃にそういったチャンスをもらったら、絶対逃さないという気持ちでプレーしてきました。差があるとしたらそこでしょうか。

――宮間選手にとって今回のW杯は4度目。キャプテンとして挑む今大会に特別な思いなどはありますか?
宮間 自分がキャプテンとして挑むということに特別な思いはありません。ただ、前回チャンピオンで挑むのは私達だけ。そういう意味でのプライドといのうは絶対に持っていたい。そういう特別な思いはあります。

――2011年のW杯優勝を境に、女子サッカーを取り巻く環境は大きく変わりました。宮間選手にとってこの4年間はどういうものでしたか?
宮間 この4年間には東アジア杯の惨敗などいろんなことがありました。「このままじゃダメだ」と思った時期もあります。自分たちの周りの環境があそこまで激変して、正直に言うと不安なこともありました。幸い自分や福元選手が住んでいるところは比較的静かなので、まだサッカーに集中できる時間はありましたが他の選手がどうだったのかと……。そういったギリギリの状況が続いていたのも事実です。チームが全て上手くいっているわけでもありませんでした。そんな中、代表では澤選手や近賀(ゆかり)選手に支えてもらい、存在の大きさをあらためて感じることがありました。やはりチームにとって大事なのは、みんなで一つの方向を向いていることです。

岡山湯郷Belleの選手としてW杯に出場

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――宮間選手はチームメイトの福元選手とともに多くの国際大会に出場しています。岡山湯郷Belleの代表として大舞台に臨む想いを聞かせてください。
宮間 本当に小さな町から、たくさんのサポートをいただいてW杯へ旅立ちます。テレビでも、大会のパンフレットでも、「岡山湯郷Belle」という名前が世界中に発信できるチャンスです。そういうことができることはとても光栄なことです。(クラブの代表として)責任を持って挑みたいと思います。

――日ごろサッカーを見る機会の少ない方もW杯は注目します。チーム・個人として特に注目してほしい点はどこですか?
宮間 ボールに関わっていないところ、オフザボールの動きが一番楽しいと思います。出場しているどこの国よりもそういった動きをしたいと私は考えています。ただ、テレビで見るには難しい部分があるのですが(笑)。スタジアムで応援して下さる方は、攻守ともに、そういうところを見てほしいです。個人としては、周りの選手を生かすプレーが得意です。そこは常に意識してやっていますので注目していて下さい。

――最後にW杯への意気込みを聞かせてください。
宮間 自分達が優勝を信じなければ、誰も信じてくれません。自分達がまず一番に信じて、そして仲間を信じて、優勝したいと思っています。

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