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4冠を達成した“絶対王者”関西学院大が示したタイトル獲得の難しさ「最初から優勝するつもりで戦わないと優勝はできない」

2015.12.20

文=安田勇斗 写真=平山孝志

 この1年で関西学院大学は生まれ変わった。アパマンショップPresents平成27年度第64回全日本大学サッカー選手権大会(インカレ)の大会最優秀選手に輝いたキャプテンのDF井筒陸也(徳島ヴォルティス加入内定)は自信を持ってこう言いきる。「サッカー以外のことも含めて、日本一になるために必要なことを部員全員が理解して、1年間突き詰めてやりきった」。これが躍進の原動力になった。

 関西学生選手権、総理大臣杯、関西学生リーグ、そしてインカレ。関西学院大は今年度のタイトルをすべて勝ち取り、“絶対王者”となった。この結果は、彼らのあらゆる取り組みが“正解”だったことの証明になる。

 井筒は続ける。「試合でも練習でも常に勝ちにこだわってやった。ミーティングでもみんなが納得するまでずっと話し合ってきた」。成山一郎監督も選手たちの姿勢を称える。「去年までは勝った後に気が緩むことがあったが、今年は昨日より今日、今日より明日と、毎日の練習で少しでも向上しようという気持ちでやり続け、それが結果につながった」

 3つのタイトルを獲得して臨んだインカレでは、準々決勝で流通経済大学、準決勝で明治大学を破り、決勝では関西地域のライバルである阪南大学を撃破。昨年度のインカレ決勝で黒星を喫した因縁の相手、流経大を延長戦の末に2-1で下すと、余勢を駆って明治大に4-2、阪南大には4-0で快勝を収め、4冠達成という最高の形でシーズンの締めくくった。

 関西学院大は日本一を目標に、メンタル面で一つになれた。ではプレーにおけるストロングポイントは何だったのか。井筒はその一つとして粘り強さを挙げた。「攻撃でも守備でもゴール前の最後の部分で戦えていたことが大きい。守備ではしっかり体を張ること、攻撃ではしっかりゴールを決めきることができた」

 主軸の一人であるMF小林成豪(ヴィッセル神戸加入内定)と、決勝を累積警告により欠場したエースのFW呉屋大翔(ガンバ大阪加入内定)からも似たような答えが返ってきた。「今年のチームは内容が悪くても勝てるところがあった。それは全員が最後の局面で体を張ったり、チームのために走れたりしたから」(小林)、「1年をとおして、どんな時でも根気強く戦える、耐えしのげるチームになった。スタンドから見ていて改めて頼もしいチームだと感じた」(呉屋)。この粘り強さもまた、勝ちにこだわるメンタルにより生まれたものだ。

 もちろん、闘争心やハードワークだけでなく、技術レベルも高かった。インカレ決勝で敗れた阪南大のMF松下佳貴(ヴィッセル神戸加入内定)は「今日は自滅に近い形で負けた」と前置きしながらも、「個人個人の実力も、勝負を決めきる力も向こうが上。あそこまでやられたのは初めてだし、決勝の舞台を経験している差が出た」と完敗を認めた。チームメートのMF八久保颯(ロアッソ熊本加入内定)も同調する。「決勝という舞台を味わっていたか、味わっていなかったかの差が出た。ただそれがなくても、一人ひとりの球際の強さ、パススピード、動きだしなどは相手が上回っていた」

 決勝を経験しているかどうかもポイントだったようだ。1年前のインカレ決勝、流経大戦に出場していた井筒も、この点を強調する。「最初から優勝するつもりで戦わないと優勝はできない。去年のインカレでは『決勝に来てしまった』という感覚があって、優勝するイメージを持っていなかったし、だから決勝で負けた。その経験を経て、今年は必ず優勝するつもりで戦った。日本一になることを明確にイメージして取り組めたのは大きかった」

 加えて背番号3は、冒頭の言葉にあるように「全員でタイトルを勝ち取る」ことにこだわった。「『スタメンの11人がうまいから日本一になれるのではなく、BチームやCチームの選手の力もなければ日本一にはなれない。だからすべてのことをみんなでしっかりやろう』と1年間、言い続けてきた」。その提言は着実にチームに浸透した。「自分たちは全員で戦ってきた。部員一人ひとりの応援がなければ、ここまでできなかった」

 呉屋を欠いた決勝では、3年生のFW出岡大輝がハットトリックを記録。エースを欠いた中での完勝は、そのままチーム力の高さを示している。この試合では、アタッキングサードでの鮮やかなパス回しが印象的だったが、これはチーム力が生みだしたある意味で偶発的な攻撃だったという。小林はこう語る。「あれはほとんどアドリブ。呉屋は裏へ飛びだすタイプで、呉屋に預ければという感じだけど、出岡は足元で受けてさばくタイプなので、みんなでサポートを意識したらああいう形になった」。また、小林はキープレーヤーの一人として、あまり日の目を見ない右サイドバックの1年生DFを挙げた。「個人的には、高尾(瑠)の存在が大きかった。攻撃はあいつから始まっていた。あそこに預けたら奪われないし、そこからの攻撃が強みだった」

 関西学院大が取り組んだことは、総合的に見ると意外にシンプルだ。「日本一を目指して全員で戦うこと」。同じ目標を持ち、チームワークを磨くことで、状況に左右されない安定感のあるチームができあがり、勝負にこだわる粘り強さが生まれた。

 もう一度言ってみる。「日本一を目指して全員で戦うこと」。一見すると当たり前のことでスッと消化できる。そのため、明日からでも実践できそうな錯覚に陥ってしまう。しかし、これが実に難しい。

 プロを目指す多士済々のメンバーが集まる大学リーグである。個性的な選手たちを束ねるのは簡単ではない。また、プロのように地位や名誉、生活が懸かっていないため、ベンチ外の選手も含めた全員に勝利を追求させるのも一筋縄ではいかない。さらにシーズン中には負傷者が出ることもあるし、JFA・Jリーグ特別指定や様々な選抜チームの招集もあるし、1年間を戦う上での疲労もある。

 その中でモチベーション高く「日本一を目指して全員で戦うこと」を徹底したのだ。全タイトル制覇の偉業もさることながら、1年間同じ方向を向いて戦い続けた選手たちはそれだけでも称賛に値にする。

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