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横浜FM内定の富樫敬真がサッカー人生を回顧、「プロになれればいいな」が「本気で目指そう」に変わった瞬間とは

2015.11.11

インタビュー=安田勇斗、写真=JUFA/REIKO IIJIMA、Getty Images

 Jリーグ特別指定選手として迎えた9月12日のデビュー戦。トリコロールのユニフォームに身を包んだ関東学院大学4年生の富樫敬真(とがし・けいまん)は後半43分、絶妙なポジション取りからヘディングでネットを揺らし、チームに貴重な勝ち点3をもたらすとともに、鮮烈デビューを飾ってその存在を広く知らしめた。それから約2カ月を経て、横浜F・マリノスへの加入が決定。トントン拍子に見えるステップアップの裏には、中学時代の挫折や高校時代の転機、大学時代の分水嶺となる試合があった。

サッカーは人を感動させるスポーツなんだって気づかされました

――小学生時代、中学生時代はどんなキャリアを歩んできたのでしょうか?
富樫 地元が横浜の日吉というところなんですが、小学2年生の時に地域クラブの駒林SCに入ってサッカーを始めました。そこは土日だけ活動するような、強豪ではなく普通のチームでした。それで中学生になって横浜F・マリノスのジュニアユースみなとみらいに入りました。

――ジュニアユースではどうだったか憶えていますか?
富樫 小学校、高校では前のポジションをやっていて大学でもそうなんですけど、ジュニアユースではサイドバックをやっていました。やるところがなかったので(苦笑)。一つ上に小野裕二君(シント・トロイデンVV)と松本翔君(レノファ山口)、同い年に(熊谷)アンドリュー(横浜F・マリノス)、一つ下に喜田(拓也/横浜F・マリノス)がいたり、ホントにすごい選手ばかりだったので。

――ユースに上がるのは難しかった?
富樫 そうですね。コーチたちとの面談があって、そこでユース昇格の可能性を伝えられるんですが、その時に「あまり高くない」と聞いていて、割と早い段階であきらめていました。まあスタメンで試合に出ることもあまりなかったので難しいとは思っていました。

――その後、日本大学高等学校に進みます。数ある高校の中で、なぜ日大を選択したのでしょうか?
富樫 俊さん(中村俊輔)もそうですけど、ジュニアユースから桐光(学園高等学校)に行く選手が多かったんですよ。レベルが高くて、選手権(全国高校サッカー選手権)に出られる可能性も高いので。でも僕は桐光に行けるレベルにはなかったので、夏に日大のセレクションを受けました。で、落ちたんです(苦笑)。

――それからどうやって?
富樫 その時はサッカーは趣味ぐらいでいいかなって気持ちがどこかにあったんです。普通に受験して高校に入って何となくサッカーができればいいって。なので、セレクションで落ちて、秋ぐらいからはジュニアユースの練習に行かず勉強をしていました。でも、その時に僕の知らないところで尾上(純一/現育成スカウト担当)コーチが日大に掛け合ってくれたんです。それでもう一度チャンスをもらい日大に入ることができました。ただ実際のところ、両親はコーチのそうした手助けを断っていたみたいなんです。「サッカーはもういいので」って。でも、せっかくそこまでしてくれたので、僕自身はもう一度チャレンジしたいって思うようになりました。本当に尾上コーチには感謝していますし、ジュニアユースでは良い指導者に恵まれたと思っています。

――当時の日大高校サッカー部はどの程度のレベルだったのでしょうか?
富樫 僕が高校1年の時にインターハイに出場しました。その時の3年生には年代別の日本代表に入った選手もいて、そこそこ強かったと思います。

――一度はサッカーから距離を置こうと思ったそうですが、日大高校ではサッカーに打ちこめていましたか?
富樫 1年の時はまだ中途半端だったと思います。真剣にやり始めたのは高2になってからですね。

――きっかけなどはあるのですか?
富樫 サッカーのプレー動画を見て、プロサッカー選手になりたいって思うようになりました。それまでほとんどサッカーを見ていなくて、やる専門だったんです。それがある時、確かロナウジーニョのプレー集だったと思うんですけど、楽しそうにプレーしている姿や、それを見て喜んでいるファンの姿などを見てすごいなと。サッカーは人を感動させるスポーツなんだって気づかされました。それで自分もプロになりたいって思ったんです。

――それから何か変えたことは?
富樫 毎日が変わりましたね。それまでは何となく練習してた感じでしたけど、いろいろな選手のプレーを見たり、真似したりして、サッカーがどんどん好きになりました。

――プレーを参考にしている選手はいますか?
富樫 昔はテクニックがある選手が好きで、ロナウジーニョ(元ブラジル代表)とか(リオネル)メッシ(バルセロナ)とかネイマール(バルセロナ)とか、あとパストーレ(パリSG)も好きでしたね。最近はガンガン行く選手が好きで、(セルヒオ)アグエロ(マンチェスター・シティ)、(ルイス)スアレス(バルセロナ)、(アレクシス)サンチェス(アーセナル)とかを見てます。

――最終的に高校ではどんな成績を残したのでしょうか?
富樫 高2の時にインターハイに出て、関東選抜にも選ばれました。ただ、インターハイでは1回戦負けでした(苦笑)。高3の時は……何もないかな。

――何もない?
富樫 インターハイとか選手権とかは予選で負けたんですけど、ホントにあっさり負けちゃって。だからちゃんと憶えてないんですよね。

――高校時代にプロ行きは考えていましたか?
富樫 その気持ちはずっと持っていました。で、高校でダメだったので大学行って、また目指そうと。

大学4年間で、サッカーや戦術を本当の意味で知ることができた

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――そこから関東学院大学を選んだ理由は?
富樫 高3の夏に一度練習試合をさせてもらって、当時の小林慎二監督に声をかけていただきました。ただその時は関東1部の大学に行きたかったのでお断りしたんです。それで1部のある大学へ入学することがほぼ決まるところまでいって、願書を出して面接をすることになりました。でもそこで、考えを改めたんです。その大学は夜間の学部にしか行けなくて、練習と学業の両立を考えたら難しいなって。朝練して、昼間に長い空き時間があって、夜授業を受けてとなると、とてもサッカーに集中できないなと。本当に急な進路変更だったので、たくさんの方に迷惑をかけたと思います。その後、もう一度家族やいろいろな方と話し合って指定校推薦で関学に入りました。

――そうして入った関東学院大ですが、サッカーのレベルなどはどう感じましたか?
富樫 正直1部でやりたい想いがあったので、2部では少し劣るかなとも思っていました。でも今思うと、自分には良かったかなと思っています。2部と言ってもスピードとかフィジカルとかは高校とは全然違って、まだまだ足りないところがあると気づかされましたし、最初はBチームでやったり、先輩に怒られたり、慣れるまでに時間もかかりましたしね。

――試合に出始めたのは?
富樫 1年の後期リーグです。1、2年の時はFWもやりましたけど、サイドも結構やってました。

――FWのイメージが強いですが、今のポジションは?
富樫 前期ではサイドもやりましたが、今はFWです。自分としてはFWが一番やりやすいですね。

――自分の特徴をどう考えていますか?
富樫 動きだしですね。自分で何かをするよりも、味方との連係でフィニッシュに持っていく。DFの裏を取ったり、味方のポジションや動きを見てエリア内に入ったり、そういうプレーが特徴かなと。

――サイドではどういうプレーを仕掛けるのですか?
富樫 左サイドから切りこんでシュートを打つのは、石村(大)監督から求められている部分だと思います。強めに巻いて打つシュートが得意な方なので。ただサイドではFWの時ほど自分の味は出せないかなと思っています(苦笑)。

――長い距離をドリブルしたりは?
富樫 たまにありますけど、好んでやるという感じではないですね。それよりも味方とのパス交換で前に入っていくような。

――もうすぐ大学生活が終わりますが、4年間でもっと成長したと思うところは?
富樫 サッカーや戦術を本当の意味で知ることができたと思います。高校時代は足先のプレーばかりで、よく言えばテクニック重視だったんです。それが大学では戦術的な部分を求められ、サッカー観が変わりました。戦えないやつは使えない、守備ができないとチームのマイナスになる、そういった部分を徹底的に指導していただき、少しづつですが成長できたかなと思っています。

――大学サッカーで一番印象的な試合やエピソードは?
富樫 いろいろありますけど、一番は2年生の時の、アミノバイタルカップですね。2回戦で慶應義塾大学と対戦したのですが、関学は一度も全国大会に出ていなくて、ここで勝てばっていう重要な試合だったんです。で、相手は武藤嘉紀選手(マインツ)がいる1部の慶應大でした。いきなり武藤選手に決められたんですが、前半のうちに自分のゴールで同点に追いつき、後半にもゴールを決めて逆転しました。でも結局、その試合は3-3のスコアで、PK戦で負けてしまったんですけど、その前の平成国際大学との試合でも2点決めて、2試合連続で2ゴールを決めることができたんです。それが自信になりましたね。「大学サッカーでもやっていけるかも」って。それまでの「プロになれればいいな」が「本気でプロを目指そう」に変わり、両親にもその気持ちを伝えました。そしたら両親は「がんばれよ、応援してるよ」って言ってくれてうれしかったですね。

俊さんには、本当の集中というのをいつも見させてもらってます

Yokohama F.Marinos v FC Tokyo - J.League

――それから約2年後に、横浜F・マリノスに加入することが決まりました。クラブとはどう関わってきたのでしょうか?
富樫 関学サッカー部はマリノスタウンで練習させていただいているのですが、マリノスのトップチームの人数が足りない時に、一緒に練習させてもらうことがあるんです。僕も1年の時からたまに参加させてもらうことがあって。で、今年の夏も人数調整で呼んでいただいて、違う大学のサッカー部との練習試合で20分ぐらい出場して1ゴール1アシストを決めることができました。それがきっかけだったのか、それから3日間練習に参加させてもらい、期間を置いてまた1週間ぐらい練習に入れてもらいました。

――その時からJリーグの特別指定選手という話もあったのですか?
富樫 いや、なかったですね。ただ、スタッフの方がアドバイスをしてくれたりするので、何でかなとは思ってました。それである程度したら特別指定の話が来たのでビックリしました。

――8月5日に特別指定選手になり、9月12日のJリーグ2ndステージ、第10節のアルビレックス新潟戦でベンチ入りしました。
富樫 特別指定になってからは全然ダメだったんです。8月頭にチームに入ったんですけど、ずっとベンチ外で試合もスタンドから見てるだけ。もうマリノスでは無理だなって気持ちもありました。特別指定にしていただいたおかげで多少注目されただろうし、練習に参加して良い経験もできたので、クラブには感謝しつつ僕の中では一度終わりにしようと思いました。それで吹っ切れたんですよね。たぶんそれまでは変にチームに合わせようとしてたんだと思います。それで持ち味を出せなかったのですが、もう一度自分のプレーをしようと思い、それから練習でも自分を出せるようになって、新潟戦でベンチに入れていただきました。

――新潟戦では出場機会が訪れませんでしたが、1週間後のFC東京戦では後半28分に出場し、43分に値千金の決勝点を挙げました。
富樫 新潟戦で一度ベンチに入って試合への臨み方や試合中の雰囲気などを味わえたので、FC東京戦ではいい準備をして迎えられました。さすがに緊張はしていたんですけど、大勢のサポーターの大歓声の中で、緊張よりも興奮の方が上回りいい状態でピッチに立つことができました。

――得点シーンでは、左サイドからのクロスに頭でキレイに合わせました。
富樫 狙っていた形でしたけど、あそこまでキレイに決めたことは今までないですね(笑)。完璧なボールが来たので合わせるだけでした。

――ヘディングでのゴールは多いんですか?
富樫 得意ではないですけど時々あります。ヘディングは入り方が大事だと思っていて、あのゴールもいい形で中に入れたかなと思います。

――ゴール後は周囲の反応もすごかったのでは?
富樫 そうですね。関学の仲間とかみんな喜んでくれました。メールやLINEもたくさん来て、その日は興奮して全然寝られなかったですね(苦笑)。

――ただそのゴールから加入内定が決まるまでは1カ月以上ありました。どういう気持ちでしたか?
富樫 ずっとその連絡がなかったので、マリノスに入れなくても仕方ない、という気持ちでした。チームの素晴らしさがよくわかり、入りたい気持ちはどんどん強くなりましたけど、声をかけてもらえなければどうしようもないので。なので、実際に内定のお話をもらった時は本当にうれしかったです。

――特別指定としてF・マリノスの一員となり、どんな部分で成長できていると感じますか?
富樫 たくさんありますけど、一つは緊張感の違いを感じます。大学サッカーでも緊張感の高さは感じますけど、プロは準備段階から緊張感があって、サッカーに本当に集中して取り組んでいるんですよね。他のクラブを知っているわけではないですが、マリノスは特にいい緊張感を持てるチームだと思います。

――クラブには中村俊輔選手と中澤佑二選手という飛びぬけた存在が2人もいます。
富樫 そうですね。佑二さんは若手とうまくコミュニケーションを取っていい雰囲気を作ってくれます。一方の俊さんは集中力がすごい。うまく言えないですけど、本当の集中というのをいつも見させてもらってます。また、2人とも練習や試合に向けてしっかりとした準備をしていて、そういうところも学ばせてもらっています。

――先輩からアドバイスをもらったりは?
富樫 佑二さんからは守備についてアドバイスをもらいました。FWでも守備ができなければといけないと。守備力の高さはマリノスの伝統だと思うんです。それを監督に言われずとも、選手たちが自分たちで作っていく。当然FWの僕も必要ですし、練習の中でみんなの動きを見たりして教えてもらっています。

――では最後に、今後の目標をお願いします。
富樫 関学での目標は1部昇格。個人成績などは考えず、とにかく自分たちの代で初の1部昇格を達成したいです。マリノスでは、やっぱりFC東京戦でのあの一発では終わりたくないですし、もっと試合に出たい。自分の中では1年目が勝負だと思ってます。レベルの高いクラブで競争は激しいですが、その中で結果を残せるようにがんばります。

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