2017.08.30

「バルサ」からの強烈なメッセージ。育成年代が気付くべきこと/U-12ジュニアチャレンジ2017

過去5大会で4回目の頂点に立ったバルセロナ [写真]=本田好伸
1984年10月31日生まれ。山梨県甲府市出身。日本ジャーナリスト専門学校⇒編集プロダクション⇒フットサル専門誌⇒2011年からフリーとなりライター&エディター&カメラマンとして活動。元ROOTS編集長。現在はfutsalEDGE(http://www.futsaledge.jp )などで執筆中。

「バルセロナ」という強烈なメッセージを持つクラブ

表彰式で歓喜の表情を見せたバルセロナの選手たち [写真]=本田好伸

 今年で5回目を迎えた「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2017」は、バルセロナの2回目の連覇、通算4回目の優勝で幕を閉じた。決勝で、先制を許しながらも同点に追い付くなど健闘した東京都U-12の戦いぶりもさることながら、相変わらず今大会は、バルセロナの質の高さに焦点が集まっていた。

 世界屈指のカンテラ(育成組織)で指導を受ける彼らは毎年、そのプレーを通して、今大会に強烈なメッセージを残していく。「バルサのサッカーは、年代に関わらず、強くて美しいだろう?」。彼らを目当てに会場を訪れる子どもや大人たちは、例外なく戦いぶりを称賛する。「すげー!」、「超うまい!」。今大会も、観客席からは何度も、興奮した様子で話すそんな子どもたちの声が耳に入ってきた。

 メッセージ性を持つチームがいることは、育成年代の大会では、何よりの価値がある。

 以前、日本フットボールにおける選手育成、指導者養成、代表強化に携わる日本サッカー協会の関係者に聞いたことがある。「協会の主催大会にはそれぞれ目的や狙いがあり、そういうものを発信する必要があると感じている。そうしないと、こちらの意図から掛け離れたところに主眼を置くチームが増えてしまう。例えば、ただ勝つことだけが目的となってしまったりする。育成という点では、マイナスになってしまいかねない」

 当然、どの年代であっても、勝利を前提としたアプローチは必要となる。ただし、育成年代において「勝利」、「結果」だけが目的となってしまうことは、「選手育成」という本来の目的を見失ってしまう可能性がある。勝利を目指した上での過程こそ、選手の財産になる。そして、その先にある勝利や敗北という結果が、メンタルを鍛えていく。育成年代には、そうした狙いを理解した指導が不可欠なのは言うまでもない。

表彰式後、多数の子どもたちがバルセロナの子どもたちにサインを求めた [写真]=本田好伸

 でも実際は、まるで「勝ったチームが正しい」と言うかのように、優勝チームだけが持ち上げられ、その手段が称えられ、その戦い方が育成年代に横行し始める。紛れもない、日本フットボールの現状だ。

 そんな状況に抗うように、今大会は、「バルセロナ」というブランドによって、すべてが好転する。

 13歳以下の育成年代であっても、バルセロナはバルセロナ。一つひとつのプレーで人々を魅了し、彼らが勝ったとしても負けたとしても、そのサッカーは常に賛辞が集まった。ブレることないクラブの哲学、信念、メソッドに基づいて育成されてきた選手が、その力をきちんとピッチで表現する、もしくは表現しようとトライしているからだろう。バルセロナのサッカーに対して人々は、勝敗を超えたところに価値を見出している。

 もちろん、「バルサがすべて正しい」ということではない。彼らのメソッドが唯一絶対であるということはなく、あくまでも、トップ選手を育てるための方法論の一つに過ぎない。それでも彼らは、彼らの育成方法によって輩出してきた数々のトップ選手という、明らかな結果とともに、そのメソッドを実証してきた。「バルセロナ・メソッド」はもはや言うまでもなく、世界の育成シーンのトップレベルにあることは間違いないだろう。

 だからこそ、「バルセロナ」という存在自体が、大会のメッセージとなる。対戦相手はみな、「バルサのように戦いたい」、もしくは「バルサに勝つためにはどうしたらいいのか」と考える。それは、試合中に限らず、大会を終えてからも残るテーマであり、バルセロナは、日本の育成シーンに少なくない影響を与えているのだ。

谷間世代の“2005年組”でも優勝できたバルサ

大会MVPとなったマルク・ボンバルド [写真]=本田好伸

 ただし、バルセロナを称賛してばかりでは、“世界一”を目指す日本に未来はない。

 今大会は、開幕前からこんな声があった。「今年のバルサは弱い」。そして大会が進むにつれて、関係者の間で、こんな声も聞こえてきた。「このバルサに勝てないようでは、日本の将来が危うい」。

 確かに、今年のバルセロナは、“過去最強”と呼ばれた前回大会の選手と比較しても、見劣りしてしまうのは事実だった。バルセロナは例年、9月から始まる11人制サッカーのシーズンに向けて、7人制から移行するプレシーズンで今大会にやってくる。新任のダビド・サンチェス監督も「まだ一週間しかトレーニングしていない。選手同士の距離感やキャラクターも、スタッフ陣の特性も分かっていない」と話していた。それでも彼らは、“バルサのサッカー”を理解する選手たちが試合を追うごとに連係を深め、結成から間もないチームとは思えないほどに完成されたチームへと変貌を遂げていく。今年も、そういう強さは、十分に示していた。

 サンチェス監督が率いることになった11人制のインファンティルB(13歳~14歳)には、5人の選手が新たに加わった。GKのアントニオ・ゴメス、DFのセルジ・ドミゲス、FWのカリム・トゥンデ、アマドゥ・バルデ、そしてMFのクルストバル・モニョスだ。そして今大会には、アレビンA(11歳~12歳)の13人と、アレビンB(11歳~12歳)の5人、それに彼ら“補強組”5人の計23人で臨んでいる。チームは例年以上に入れ替わりがあったという。

 クラブ自身も、“この年代が弱い”ことを理解し、チーム力を上げるために選手を探していた。ただ、いつもならゴロゴロいるような逸材が、彼らが属するカタルーニャ州にはいなかった。“アンダルシアの至宝”と称されたクルストバルは、アンダルシア州の選手。スペイン国内においても、今大会に出場した“2005年組”が谷間の世代だという認識が広まっていたのだという。そんな事情が、今大会のバルセロナにはあった。

 でも彼らは、当然のように今大会で優勝した。序盤戦こそ、どこか“バルサらしくない”高さを武器にした強引な戦いぶりも目立ったが、徐々にコンビネーションを上げていき、高い技術と組織力で相手を凌駕していった。大会MVPを獲得したCBのマルク・ボンバルドや、中盤の核となったトマス・カルボネユ、ジェラール・エルナンデス、クルストバル、それにテクニックとスピードに優れるカリムやソロ・トラオレなど、ポテンシャルの高さが際立つ選手は多かった。今年のバルセロナも間違いなく、優勝に値するチームだった。

 ただ、「このレベルのバルセロナに勝てなくていいのか」という疑問はずっと、拭えなかった。

バルサに勝つことを目指さない限り、日本の未来はない

決勝ではバルセロナに対して健闘を見せた東京都U-12 [写真]=本田好伸

 今年のチームが弱いと言われていることを問われたサンチェス監督は、こう話した。

「確かに、世代ごとに選手のキャラクターは異なるが、それが良い悪いではない。去年よりも速い選手、フィジカル的に強い選手がいる一方で、ボールを守る能力に劣っている面があるかもしれない。でも毎年、選手一人ひとりに良いところと悪いところがある。それを理解した上で、常にバルサのサッカーを目指して、今の選手が最高のレベルになれるように指導していくこと、導いていくことが我々の使命だ」

 まさに今年のバルセロナは、その能力に関わらず、選手それぞれが持ち味を存分に出した上で“バルサのサッカー”を体現していき、優勝までたどり着いた。ただ一方で、日本のチームが、そんな彼らに成す術なくやられてしまっていたことが気になった。中盤でボールをキープされて、サイドチェンジやスピードを使ってバイタルエリアに侵入される。ところどころでバルセロナの選手たちが判断ミスや技術的なミスを起こしながらも、その隙を突くことができないまま、ゴール前のチャンスを与えてしまう。バルセロナは決して、完璧ではなかった。だからその意味で、参加したチームは、この事実に気付かないといけないのかもしれない。

 今年の彼らに対抗し、そして上回る強さを身に付けない限り、この年代の日本の選手たちもまた、強くなっていくことができない、と。だから、何が通用して、何が通用しなかったのか、今一度、省みないといけない。

 決勝で、バルセロナをバタつかせた東京都のアグレッシブなプレスや、中盤でのボール奪取力は、十分に可能性を感じるものだった。セカンドボールを簡単には相手に渡すことなく、選手一人ひとりが中盤で戦えていたことが、最後まで行方の分からない拮抗した試合となった理由だろう。詰めの甘さ、勝負を決める一瞬の駆け引きに敗れたものの、彼らもまた、今大会で優勝に値する力を持っていたことは間違いない。

 他にも、選手個人で見れば、際立つ選手は多かった。特に、名古屋グランパスU-12のエース・鈴木陽人は、準決勝のバルセロナ戦でも、その技術が彼らに通用することを示していたし、大宮アルディージャジュニアの種田陽もまた、バルセロナとの対戦はなかったものの、大会を通して高い能力を見せていた。

 彼ら2人に共通していたのは、ポジションにとらわれないことだった。鈴木は2トップの一角を担っていたが、中盤でパス回しに参加したり、DFラインで積極的に守備にほん走したりすることもあった。種田は1トップの石川颯の下で試合をコントロールするMFだったが、彼もまたDFで要所を締め、中盤を牛耳り、裏への抜け出してゴールにも絡んだ。最も危険、もしくは好機がある場所に必ずいる、大会屈指の選手だった。

優勝を決め、歓喜に包まれるバルセロナ [写真]=本田好伸

 MVPのマルクと同じように、CBとして存在感を示したアルディージャの市原吏音など、守備の選手たちに注目が集まったことも、今大会の特徴かもしれない。突き詰めれば、今大会のバルセロナがわずか2失点と大崩れしなかったのは、中盤でのボール支配率以上に、DFラインで睨みを効かせ、ピンチを未然に防いだマルクや、決勝でのミスはあったものの、総合力の高さが光るGKアントニオが支えていたからだろう。

 GK、CB、中盤、FWと、縦のラインの選手が“バルサ水準”だったことで、今年のバルセロナも、相対的に強かった。でもそれは、世界に目を向けた時に、絶対的な強さとは言い切れない。バルセロナの胸を借り、チャレンジすることは素晴らしいが、一方で、バルセロナに勝てない限り、日本の未来は見えてこない。

 マルクは「プロになるために必要なこと」を問われて、こう答えた。「地に足を着けて一つひとつのことを行い、目の前の敵を倒していくこと」。およそ12歳とは思えないほど、思慮深い思考とメンタルを持っている。そんな彼でさえ、将来のプロへの道が約束されているわけではない。だったら、今大会で敗れた選手たちももっと、彼ら以上に一つずつ、努力を積み重ねていかない限り、世界への扉は開いていかないはずだ。

 選手は、敗れた悔しさを噛み締めるのと同時に、何が足りなかったのかを考えないといけない。そしてこの先、何を身に付け、どのように成長していけば勝負できるのか、さらには、圧倒できるのかを追求していかないといけない。世界の育成シーンをリードする「バルセロナ」という強烈な“メッセージ”に触れたチーム、選手、指導者が今後、どういった道を選んで進んでいくのかが、最も大切なことだと感じている。

 今大会はそうやって、日本の未来を変えるきっかけになるものだと、今年もまた考えさせられた。

取材・写真・文=本田好伸

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