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【注目ルーキー】柏加入の流経大DF橋口拓哉、“シンデレラストーリー”の裏側にある根性と努力

2017.01.16

 大学ラストシーズンに訪れた一度のチャンス。橋口拓哉の“シンデレラストーリー”はそこから始まった。それは偶然に起きた奇跡ではない。決して夢を諦めない根性と、地道な努力。“自力”でつかみ取ったプロの舞台で、橋口の成長物語は続いていく。

インタビュー・文=平柳麻衣、写真=ゲッティ イメージズ

■大学4年の秋に訪れた転機

 宮崎日大高校に通っていた2年の夏、橋口拓哉はFWからセンターバックへとコンバートされた。小学校高学年から中学時代にグンと身長が伸びた橋口の“高さ”という武器は、粘り強く我慢のできる性分も相まって、ディフェンスラインでより生かすことができた。

 だが、サッカーに捧げた高校時代は全国舞台を一度も踏むことなく終わりを告げた。本気で日本一を目指すため、その先にあるプロ入りという大きな夢に向かって、橋口は大学屈指の名門・流通経済大学へと進学。そこで待っていたのは、思い描いていた華々しい生活とは程遠い、陽の当たらない場所での苦悩の日々だった。大学4年の秋までスポットライトを浴びることのなかった彼は、いかなる道のりを辿ってプロ入りを果たしたのか。

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――高校卒業後、流経大を選んだ理由は?
橋口 高校で全国舞台を経験することができなかったので、よりレベルが高いところで勝負したい気持ちがあったことと、指導者同士のつながりが理由です。高校3年生に上がる前のタイミングで流経大が宮崎キャンプに来ていたので参加させてもらい、そこでレベルの高さを感じて、早い段階で進学を決めました。

――入学後、大学サッカーや流経大のレベルをどのように感じましたか?
橋口 流経大は他の大学と比べて選手の数が多いですし、僕よりうまい選手もたくさんいました。最初は「やってやろう」という気持ちが強かったんですけど、どんどんトップチームから遠ざかっていき、厳しい世界だなと感じました。

――気持ちが折れそうになったことはなかったのですか?
橋口 2年生の9月にひざのけがをして、結果を出せていない中でしばらく離脱することになり、結構落ち込みました。その後、3年生になってチームの振り分けをする時もコンディションが上がらず、トップチーム、流経大ドラゴンズより下のIリーグ(インディペンデンスリーグ)に出るチームに入って、その時期はさすがに気持ちがブレそうになりました。

――Iリーグチームから見ると、トップチームははるか上の存在に感じるものですか?
橋口 他の大学だったらトップチームのサブがIリーグに出たりすることもありますけど、流経大の場合はトップチームの下にJFLに出るドラゴンズがあって、Iリーグはさらにその下なので、50~60人が上にいることになります。Iリーグチームからトップチームまで上がることはなかなかないことですし、僕自身も3年生の時は全くトップチームに関わることができませんでした。

――そこからどのようにしてトップチームまで上がっていったのですか?
橋口 3年生ではずっとIリーグに出ていて、4年生からドラゴンズに上がりました。チームはJFLの1stステージで優勝しましたけど、僕はなかなか出場機会を得られず、サブとしてサポートをしながら、いつでも出られるように準備をしていました。4年生の9月になって、身長190センチという僕の高さを試合終盤のパワープレーで生かしたいということでトップチームに上げてもらい、そこでもしばらくはずっとサブだったんですけど、柏レイソルとの練習試合で調子が良くて、声を掛けてもらって……自分でも意味が分からないくらいにトントン拍子で話が進んでいきました(笑)。

――大学リーグに出るよりも、柏から声が掛かったほうが先だったのですね。
橋口 そうです。リーグ戦の翌日にレイソルとの練習試合があって、リーグ戦にスタメンで出ていないメンバーだけで臨み、そこでレイソルの方に声を掛けていただきました。

――練習試合では相当いいプレーができたのですか?
橋口 うーん……どうなんですかね。ただ、ずっといい準備はしてきたつもりですし、プロとの練習試合はチャンスだと思っていたので、いいプレーをしようと心掛けました。この体格で左利きというのはなかなかない特徴ですし、そこをうまく生かせたのかなとも思います。

――プロのFWと対峙した印象は?
橋口 その試合は大津祐樹選手と田中順也選手の2トップだったんですけど、大学生と違ってスピードや力強さがあるので、やりづらさは感じました。僕はスピードがないので、あまり飛び込まず、先にポジションを取って、来たところにしっかりとぶつかっていくことを意識しました。ミスはありましたけど、ビビることなくプレーできたと思います。

――そこでのプレーが評価されて、練習に呼ばれたと。
橋口 はい。練習参加する前に大学リーグに出て、早稲田大学に3-0で勝ちました。その試合でマッチアップした山内寛史(2017シーズンセレッソ大阪加入内定)くんにほぼ競り勝つことができたことで、自信を持ってレイソルの練習に行くことができたと思います。

――柏の練習に参加して、どんなことを感じましたか?
橋口 レイソルはアカデミー出身の選手が多くて、特に僕と同年代か年下の若い選手がたくさんいますけど、みんなうまくて、しっかりとボールをつないで攻撃を組み立てることができるという印象です。僕がそこで真っ向から勝負しても厳しいので、そこだけではなく、高さや強さ、ポジショニングなどで勝負できればいいと感じました。

――ある程度、手応えを得ることができたのですね。
橋口 本当にスムーズに練習に入れたので、学ぶことが多い2日間でした。練習参加後にクラブからは「前向きに考えている」と言っていただき、その週末の法政大学戦もスタッフが見に来てくれて、そこでもしっかりと勝つことができたので、オファーを頂けたのかなと思います。オファーが来た瞬間は素直にうれしかったですけど、こんなに短期間で決まるんだと驚きました(笑)。

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■あのタイミングでオファーが来たのは“奇跡的”

――なかなかトップチームに関われなかった時期も、チャンスさえあれば良いパフォーマンスができると思っていましたか?
橋口 1年生の時に一度トップチームにいた時期があったんですけど、その時はまだ経験が少なかったので、プロとの練習試合でめちゃくちゃ緊張してしまっていました。でも、4年間しっかりとトレーニングを積んできたおかげで、レイソル戦や早稲田大戦は自分でもビックリするほど落ち着いてプレーできましたし、レイソルの練習にも緊張することなく入れました。4年間の積み重ねの成果が出たと思います。

――4年間でメンタル面以外に成長したと思う部分は?
橋口 入学時は体が細かったので、上のレベルでやるには体の強さが絶対的に必要だと思い、ウエイトトレーニングはしっかりと取り組みました。それこそ2年生の半ばにひざをけがした時にも、サッカーができないなら体作りをしっかりとしようと前向きに筋トレをすることができたので、今は大学生が相手だったら当たり負けしない自信があります。

――お話を聞いていて、精神面がとてもたくましい印象を受けます。
橋口 「おとなしそう」とも言われるんですけど、あまり表に出さないだけで、負けず嫌いな面はあると思います。けがしていた時期も、何もできないことが悔しくて、それなら復帰した時にもっといい状況を作れるようにと思って取り組みました。もちろんけがをしないことが一番いいですけど、そういう精神的な強さはけがをしたことで身についたものだと思います。

――それだけ「サッカーに懸ける」ことができる理由は?
橋口 「プロになりたい」という自分自身のためでもありますけど、九州から関東に出させてくれた親の存在が大きいです。僕の夢に対して投資してくれているので、そう簡単に諦めるわけにはいかないですし、両親の気持ちを考えたら落ち込んだりしている暇はないです。

――けがをしている時など、ご両親から何か言われたことはありますか?
橋口 いや、僕の親はいつも好きなようにやらせてくれます。もし、いろいろと口出しされていたら「うるさいな」と感じてしまっていたと思うんですけど、好きなサッカーを伸び伸びとやらせてもらえているので、逆に裏切ることができない、両親が悲しむようなことは絶対にできないなと思っています。その気持ちはプロになっても忘れずに持っていたいです。ただ、両親も僕がプロに入るのは難しいだろうと思っていたみたいで、オファーが来た時には喜ぶというより、驚いていました(笑)。

――柏から話が来る前は、進路についてどう考えていたのですか?
橋口 就活はしていなかったです。でも、プロになれなかった場合に社会人チームで続けるつもりはなかったので、どこかのタイミングで就活を始めなきゃいけないな、と考えてはいました。

――期限を設けて、そこまではサッカーで粘ろうと。
橋口 十何年間も続けてきたサッカーを辞めるのってすごく難しいし、勇気がいることだと思います。僕もプロを目指す以上は、プロになれなかったらきっぱりと諦めようと思っていたので、もしプロになれていなかったら、リーグ戦が終わった頃に就活を始めていたと思います。だから、レイソルからあのタイミングで話が来たのは、本当に奇跡的でした。

――流経大はこれまでも多くのプロ選手を輩出しています。4年間を過ごして感じた流経大のすごさは?
橋口 やっぱり環境面は絶対にどこのサッカー部よりもいいと思います。人工芝のグラウンドが3面あって、トレーニングジムやプールもある。寮生活で食事も出ますし、スタッフもたくさんいて、素晴らしい環境が整っています。また、僕がプロに決まったきっかけもそうですけど、プロとの練習試合が多いのも流経大ならではのメリットです。

――1日の中でどれくらいの時間をサッカーに費やしていたのですか?
橋口 チームの練習は基本的に16時30分からなんですけど、僕は13時30分から14時頃からジムでウエイト系のトレーニングをやっていました。本当にプロに近い環境でサッカーができていたと思います。

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■レイソルを背負って立つ存在になりたい

――DFとしてどんな選手を目指しているのですか?
橋口 セルヒオ・ラモス(レアル・マドリード)のように技術もキャプテンシーもある選手はすごいなと思います。あと、得点が取れるDFはチームへの貢献度が大きいと思うので、僕もこの身長を生かして点が取れるDFになれればいいと思います。

――プロの試合はよく見るのですか?
橋口 ライブで見る時は単純に試合を楽しみますけど、録画した時にはプレーの細かいところを見ます。あとは自分の試合映像もしっかりと見直して整理するタイプです。

――マメな性格なのですね。
橋口 マメなほうだと思います。練習前は結構早くからストレッチなどを入念にしますし、ゲームをする時には練習試合であっても準備と終わった後の整理をしないと落ち着かないです。あと、試合前には「気持ち作り」の時間をしっかりと確保したいタイプです。大学ではホームだと前泊がないので、アウェイのほうが得意でした。プロではサポーターの数も違いますし、ホームのほうがアドバンテージが大きいと思いますけど。

――地道な努力を重ねてきたことがうかがえます。
橋口 この体格は生まれ持ったものですけど、サッカーのセンスや才能は元々の僕にはなかったものだと思っています。だから、センスや感覚でプレーする選手と勝負するためには、こっちも感覚で対抗していたら勝てない。どれだけ相手のことを知って、何ができるかが大事だと思います。例えば一対一の場面では、飛び込んで抜かれてしまうと、僕は足が速くなくて追いつけないので、コースを限定してサイドに追いやって、シュートを打たせないことを考えます。FWだったら感覚や勢いでも通用するかもしれないですけど、DFはそうではいけない。ジワジワと追い込んで、相手の嫌なことを90分やり続けて、やっと無失点になるので。

――加入内定までの経緯にも、“シンデレラストーリー”の裏側にコツコツと積み上げた努力があったのですね。
橋口 本当にコツコツタイプですね。たまたまタイミングが良くてプロになれましたけど、それだけのことをやってきたという自負がありましたし、それを出すことができれば大丈夫だと思っていました。

――プロで活躍するため、プロで長くプレーするために必要だと思うことは?
橋口 レイソルに来て感じたのは、体のケアの時間を大事にしている選手が多いということ。やっぱりプロは体が資本なので、早く練習場に来て、練習までに体をほぐしたり、筋トレをしたり、どれだけ体のために時間を割けるかが大事だと思います。もちろん結果を残さないといけないですけど、まずは体が動かないとそもそもサッカーができないので。

――センターバックとして、どのように自分をアピールしていきたいですか?
橋口 大学4年間で「我慢する」というメンタルは身につきました。もちろん初めからポジションを奪えるのが一番いいですけど、もし出られなかったとしても、焦れずにやっていければいいし、僕にはそれができると思っています。大卒で即戦力として期待して取ってくれているので、チャンスは十分にあると思う。そのチャンスを生かせるかどうかは自分次第なので、今までどおり慢心せずにやっていけたらいいと思います。

――柏ではどんな存在になっていきたいですか?
橋口 まずはレイソルのために一生懸命プレーして、サポーターの皆さんやチームのスタッフ陣から信頼を得たいです。いずれは流経大の先輩でもある栗澤僚一さんのように、レイソルを背負って立つような存在になれたらいいなと思います。

――柏での生活は初めてになりますが、現段階で柏に対する愛着はありますか?
橋口 地域に支えられているクラブなんだなと感じています。練習場からロッカーに戻る間の道でもサポーターと接する距離が近いですし、僕のことはまだそんなに知られていないと思うんですけど、練習場で声を掛けてくれるサポーターの方もいて、そのように期待していただけるのはすごくいいなと思います。僕は本当に少し前まで、まさかレイソルという素晴らしいクラブでプレーできるとは思っていませんでした。取ってもらったからには絶対に結果で恩返ししたいので、取ってよかったと思ってもらえるように頑張りたいです。

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