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わずか7分間で逆転した鹿島学園…1回戦に潜む選手権の魅力と魔力

2017.01.01

得点を喜ぶ鹿島学園の選手たち [写真]=高見直樹

取材・文=川原宏樹(提供:ストライカーデラックス編集部)

 茨城県と山口県の全国常連校同士の一戦は、数少ない決定機をエースが決めた鹿島学園が逆転勝利で1回戦を突破した。両校とも激しい守備で相手にボールを収めさせない展開で、ロングボールで前線に起点を作ろうとしていたが、大きな決定機を作れないまま前半を終えた。後半に入り高川学園は山本駿亮にボールが収まるようになり、鹿島学園ゴールに迫っていった。そして後半23分、左CKから浅野竜生が頭で押し込み高川学園が先制した。その後も高川学園のペースで試合は進んだが、鹿島学園は同30分に上田綺世が後半初となるシュートをゴールへねじ込み同点にし、その7分後に上田がクロスに合わせて再び得点。決定力のあるエースの力で鹿島学園が劇的な逆転勝利を収めた。

 同じ状況で10回試合をすれば、9回は高川学園が勝っていただろう。

 そう思えるくらい高川学園がゲームを圧倒していた。182センチの長身FW山本駿亮が、そのフィジカルを生かして前線で起点を作れるようになると、一気に後ろから押し上げて何度も鹿島学園のゴールへと迫っていった。対する鹿島学園は、サイドバックの裏へ2トップの上田綺世と中野大飛を走らせて起点を作ろうとしたが、高川学園のハードワークによってつぶされて全くチャンスを作れずにいた。

 後半に入り、交代出場の水本和弘を左のウイング気味に配置した高川学園は、前線での起点が増えさらに躍動していった。そして後半23分、左CKからの先制点を挙げる。競り合いで浮き上がったボールに浅野竜生が素早く飛び込み、頭でゴールへ押し込んだ。その後も追加点で試合を決めてしまおうと前がかりになっていた高川学園のほうに勢いが感じられた。

 先制された後、立て続けに交代カードを切った鹿島学園が、ここでようやく目を覚ます。

「80分の内の60~65分くらいは押さえられていた。残りの10~15分だけ、緩くなった一瞬のところで2点を取れた」と鹿島学園の鈴木雅人監督がチームのエースを表したように、チームとして後半初のシュートをエースの上田がゴールへ押し込んだ。これを機にようやくエンジンがかかった鹿島学園は、ここから5分間で立て続けに3本のシュートを打った。そのうち1本が、またもやエースの得点だった。宮本陸が右サイドのスペースでボールを受けてカウンター攻撃に入り、サポートで横パスを受けた木次谷和希がゴール前へクロスを入れる。このボールに対して、ファーサイドから相手の前に入った上田がボレーで合わせて、わずか7分間で鹿島学園が逆転。その後ゴールを守りきった鹿島学園が、内容の伴わない勝利を手にすることになった。

 選手権の1回戦には、ありがちなゲーム。初戦を大事にするあまり、守備的になり自分たちの距離感を失い、自分たちのサッカーが展開できなくなる典型的な例が、今日の鹿島学園といっても過言ではない。選手も監督も完全に負けゲームを拾ったイメージだろう。

 そして、試合が終わるまではわからないというサッカーの一面を見せつけられたのは高川学園のほうだろう。相手のシュートを6本、セットプレーを除く流れの中で作られた本当に危ない場面は2つしかなかった。その2つの決定機だけを決められて敗戦してしまった。それ以外は完全にシャットアウトできていただけに悔やまれる試合となった。何をきっかけに硬さが取れて、試合の流れが変わるかわからないもの。これも高校サッカー1回戦の魅力であり、魔力でもある。

「ボールを大事にすることを意識しすぎたせいか、シュートまで行けずにそこからのカウンターで2点やられてしまった。そういうところが悔しさの残るところ」と高川学園の江本孝監督が振り返ったように、決定力の差がそのままスコアに表れた、内容とは裏腹な高校サッカーらしいゲームだった。

(試合後コメント)

鹿島学園
鈴木雅人監督
高川学園はアグレッシブで試合の序盤からイキイキと向かってきて、うちの選手はのらりくらりと試合に入ってしまってリズムをつかめないまま後半になってしまいました。後半の立ち上がりには「もうちょっと(アグレッシブに)」といったんですけど、それでも高川学園のイキイキとしたアグレッシブな攻めに防戦一方でそのまま点を取られてしまいました。しかし、(相手に)疲れが見えてきたところで、僕も鼓舞してなんとか少しずつエンジンがかかり始めてきました。そこで⑩上田綺世が1点を取って、さらにエンジンがかかっていきました。内容はよかったわけではないんですが、初戦なので勝った結果がよかったと思います。

高川学園
江本孝監督
鹿島学園はいいチームだったと思います。高川学園の子たちはすごく楽しそうにサッカーをしていたんじゃないかと思います。試合前にも、「ここは高校サッカー選手にとって、ディズニーランドみたいな場所だぞ」となごむように話をしたんですが、本当にリラックスしてサッカーをしてくれたんじゃないかと思います。この子たちが一生懸命に体を張ってもぎ取った1点でしたが、その後の試合運びをしっかりとコントロールしてあげられなかったので、(この敗戦は)僕の責任じゃないかなと思っています。たった1試合でしたが、すごくハツラツとした楽しいサッカーを展開できました。

ストライカーDX高校サッカー特集ページ

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