慶應義塾大のFW渡辺夏彦 [写真]=平柳麻衣
文=太田直人
「うちのサッカーができた」。勝利チームの指揮官が試合後に語ったこの言葉に、全てが凝縮された試合だった。
4日に川口市青木町公園総合運動場で開催された、JR東日本カップ2015第89回関東大学サッカーリーグ戦1部リーグ第6節で、慶應義塾大学が首位の明治大学相手に2-1と逆転勝利を飾った。
前節、共に黒星を喫し、是が非でも勝利を手にしたい両チームの試合は、立ち上がりから激しい展開となった。
前半3分、慶應大MF手塚朋克の右サイドからの仕掛けから、FW加瀬澤力が頭で合わせるも相手DFにブロックされ先制ゴールとはならず。対する明治大も5分、キャプテンのFW和泉竜司がゴール前に抜け出し、GKと1対1の場面を作るがシュートは枠を外れる。
その後、両チーム共に再三の決定機を生かせず迎えた28分、CKからMF柴戸海が頭で合わせ明治大が先制ゴールを挙げる。
それでも、自慢の堅い守りで追加点を許さない慶應大は前半アディショナルタイム、同じくCKからDF望月大知が頭で合わせ同点。1−1で前半終えた。
後半に入り慶應大のカウンターが鋭さを増す。62分、クリアボールに反応したFW渡辺夏彦が左サイドからドリブルで仕掛けゴール前の加瀬澤へ。慶應大の先輩、武藤嘉紀(現FC東京)のようなドリブルに、スタンドから歓声が上がる。勢いに乗った渡辺は直後の63分、手塚の仕掛けから相手DFとGKの間にこぼれたボールを、ゴールに流し込み待望の逆転ゴールを挙げた。
劣勢に立たされた明治大の栗田大輔監督は、「両サイドバックの攻撃力を生かすために、システムを3-4-3に変更した」と、ディフェンスを3枚にして攻撃に枚数をかけるが、「相手が3バックになってやりやすくなった」と須田芳正監督が振り返ったように、慶應大は左右のMFを下げ5バックで対応し、ポジションをDFから前に上げた明治大MF室屋成(U-22日本代表)、MF高橋諒のクロスをことごとく跳ね返す。
71分にはカウンターから、再び渡辺が最終ラインの裏へ抜け出し決定的なチャンスを作るなど、「後半はうちのサッカーができた」と指揮官が語ったように、最後まで自分たちのサッカーを貫いた慶應大が逃げ切り、首位の明治大から貴重な勝ち点3を挙げた。
試合後、勝利を呼び込む逆転ゴールを上げた渡辺に対し、「武藤嘉紀」と比較されることについて聞くと、「武藤さんは目標であり、いつか超えたい存在」と、真っ直ぐな目で答えてくれた。
これから、気温の上昇と共に熱い上位争いが予想される関東大学サッカーリーグ戦1部リーグ。「渡辺夏彦」の季節となれば、慶應大の53年ぶりの優勝も現実のモノとなるかもしれない。