岩元颯オリビエ【写真】=安藤隆人
本連載の著者である安藤隆人氏は、元銀行員という異色の経歴を持つサッカージャーナリスト。今では、高校サッカーを中心に日本列島、世界各国を放浪し精力的な取材を行っている。巷ではユース教授と呼ばれる。本連載では安藤氏の“アンダー世代”のコラムをお届けする。
文=安藤隆人
インターハイ鹿児島県予選3位決定戦。鹿児島城西が鹿児島に4-0で勝利を収めた。この試合、鹿児島城西のエースストライカーである岩元颯オリビエは、ハットトリックを達成し勝利に貢献するも、その表情に笑顔はなかった。
それもそのはず、前日に行われた鹿児島実業との準決勝。『事実上の決勝戦』と言われたこの試合で、岩元は鹿児島実業の強烈なプレスの前に沈黙し、シュートを1本も打つことなく、チームも0-1で敗れた。インターハイ出場を逃した悔しさと、自分自身が何もできなかった悔しさの2つがあった。
「インターハイはチームの第一目標だった。鹿実のマークがきつくて、自分らしさが出せなかった」
岩元の背番号は9。鹿児島城西において、背番号9は特別な意味を持つ。ブラジルW杯日本代表に選ばれた大迫勇也がかつて背負い、チームを選手権準優勝に導いた。
「プリンスリーグが開幕する前に9番のユニフォームを渡された。鹿児島城西の9番の意味は聞いていたので、もらった瞬間、凄く重たかった。9番に似合うプレーをしないといけないし、実際にコーチからも『大迫はどれだけ注目されても、多くのマークにつかれても結果を残したぞ』と言われた。なのに僕は決められなかった。そこを決められるようになるかならないかで、上に行けるかどうかが決まってきます」
日本代表の大先輩の偉大さを感じながら、必死で自分の中での『9番像』を描こうとしている。
「裏に抜け出したり、足元で受けるだけでなく、もっと体を使って、DFを背負うプレーや激しい球際に磨きを掛けたい。大迫選手のビデオを見ながら、もっと大迫選手のように自分でも打開できて、周りも生かせる選手になりたい」
昨年まで京都U-18に所属していた。京都U-18では足元の技術を磨き、裏に抜け出したり、ドリブルで突破していくスタイルだった。今年、新天地を鹿児島城西に求め、ここでフィジカルコンタクトや激しい球際を植え付けられると、高かった重心は低くなり、身体もさらに大きくなった。そして今、大迫が高校時代から得意としている『背負うプレー』を修得することで、更なるスケールアップを図っている。
「もっと怖い選手になりたい」
FWとして更なるスケールアップを図ろうとする岩元には、目標とする偉大な先輩のほかに、心強い『兄貴分』がいる。スイス1部リーグ・ヤングボーイズで活躍するFW久保裕也だ。同じ京都の下部組織出身で、岩元を弟のようにかわいがってくれている。
「何かあると電話をして、アドバイスをもらっています。凄くためになっています」
2人の世界で戦う選手を追いかけて。岩元はプロになるために、鹿児島の地で力強くリスタートを切っている。