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富山第一の大塚親子 「監督の息子」として乗り越えたもの

2014.01.16

[写真]=大木 雄介

文=川端暁彦

「翔がキャプテンで良かった」

 高校サッカー選手権得点王に輝いた富山第一FW渡辺仁史朗は、そんな言葉で頼れる主将・大塚翔を称えた。

 大塚一朗監督と主将の「親子鷹」という分かりやすい部分がクローズアップされた今大会。「息子を主将に指名するなんて凄い度胸だよな」と言う記者もいたのだが、これは誤解である。富山第一の主将は選手間投票によって選ばれるので、大塚翔を主将にしたのは、大塚監督ではないのだ。自らの息子が主将に指名されたと聞いた大塚監督は内心で頭を抱えたというが、それは無理もないだろう。

 実を言うと、渡辺はこの投票で大塚翔に自らの一票を入れていない。だが、実際に大塚が主将になってみると、父と子は「壁を作って線を引いていた」(渡辺)。そして最後は冒頭に言葉につながる。イレブンがこの不思議な関係を違和感なく受け入れるまで、実のところ大した時間は要らなかった。それも大塚が「監督の息子」として乗り越えてきたものと、重ねてきた努力を周りが知っていたからこそである。

 富山第一のトップ下として、機敏な動きと鋭いパスで攻撃を形作った今大会の大塚の働きは、あらためて語るまでもない。ただ、そのハイライトはやはり、あの決勝後半終了間際のPKだろう。「外せば負け」というシンプルなシチュエーション。硬くならないはずのない状況で「緊張はしなかった。自信を持って蹴れた」と振り返る。祈りにも似たスタンドの声も聞こえていた。「『翔、決めろー!』とか、聞こえてきましたよ」。普通なら硬さを呼びかねないその声だが、「試合に出られない選手の思いを背負ってやってきた。あとは蹴るだけだったので」と言い切った。なるほど確かに、主将になるべくしてなったメンタリティーの持ち主だ。

 鋼の精神を持つ富一の主将は、「3年生の試合に出ていない選手たちが、僕たちを支えてくれていた。『翔が決めてくれるのが一番うれしい』と言ってくれるあいつらがいたから頑張れた。あいつらの思いを背負うことができた。この3年間で仲間の大切さを教わった」と高校生活を総括した。

 ちなみに試合終了間際の交代時に、すでに感涙状態になりつつあった大塚監督にかけた言葉は「ありがとう」と「でも、まだ試合は終わってねーぞ!」だったとか。「(監督は)本当に泣き虫なんですよ」と笑った大塚翔は、新年度から西の名門・関西学院大学に進む。そこで今度は「プロを目指します」。

文=川端暁彦

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