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富山第一が勝利を手繰り寄せた“選手層の厚さと諦めない心”

2014.01.13

[写真]=大木 雄介

第92回全国高校サッカー選手権大会 決勝戦 富山第一-星稜
鈴木智之(スポーツライター) 取材・文

14年1月13日(月)/14:08キックオフ/東京都・国立競技場/観客48,295人/試合時間90分+延長20分

富山第一 3 ( 0-1、2-1、0‐0、1‐0 ) 2 星稜

得点者
富山第一
後半42分 高浪
後半45分+3分 大塚
延長後半9分 村井

星稜
前半34分 寺村
後半25分 森山

 富山第一が押し込む展開ながら、星稜が前半34分にPKで先制すると、後半25分にも追加点をマーク。星稜は残り時間5分を切ったところで10寺村介を下げて逃げ切り態勢に入るが、直後に失点を許す。後半アディショナルタイムにはPKを献上し、富山第一が土壇場で同点に追いつく。延長後半9分、途中出場した19村井和樹が強烈なシュートを突き刺し、富山第一が逆転。0-2からの大逆転劇で、富山第一が『国立最終章』のチャンピオンに輝いた。

 国立最終章、ザ・ファイナル――。今年、改修が行われる国立競技場。首都圏開催の第55回大会(昭和51年度)以降、幾多の名勝負を繰り広げた聖地での『最後の決勝戦』を見届けようと、詰めかけた観客は48,295人。満員にふくれあがったスタジアムで繰り広げられたのは、最終章にふさわしい熱のこもったゲームだった。

 決勝に進んだのは星稜と富山第一。星稜はこれまでの4試合を無失点で勝ち上がり、富山第一は5試合で13得点をたたき出した攻撃が特徴。キックオフから攻勢に出たのは、攻撃力に勝る富山第一だった。ダブルボランチの6川縁大雅と8細木勇人を中心に鋭い出足でボールを奪うと、トップ下を務めるキャプテンの10大塚翔、体の強さとキープ力でボールを収めるワントップの9渡辺仁史朗にボールを預ける。星稜の河崎護監督が「いままで味わったことのないプレッシャーを感じた」と話した鋭い出足でボールを奪い、チャンスを作り出した。

 19分には、富山第一の11野沢祐弥が高い位置で相手からボールを奪うと、10大塚が拾いスルーパスを通す。11野沢はGKと1対1の場面を迎えるが、今大会、好セーブでピンチを救ってきた星稜GK1近藤大河が絶妙の飛び出しでブロックした。

 富山第一ペースで進む前半だったが、ひとつのプレーで試合が動く。32分、ゴール前の競り合いで、富山第一の5村上寛和が星稜の16原田亘に足の裏を見せ、太ももに蹴りを入れる格好になりPKを献上。これを星稜のキャプテン10寺村介が落ち着いてゴールに左に決め、劣勢だった星稜が先制する。

 富山第一は失点したものの、ペースを落とさず、ボランチの8細木のボール奪取やサポート、味方への的確なパスでリズムを作り出す。さらには、左サイドバックながら、高い足元の技術と正確なキックで攻撃をコントロールする3竹澤昂樹が輝きを放つ。3竹澤のキープにボランチの6川縁、11野沢が絡み合い、星稜のストロングポイントである右サイドを制圧。ゴール前に進入する場面も増え始める。

 しかし、劣勢ながらも虎視眈々(たんたん)と追加点を狙っていた星稜が、富山第一の一瞬の隙を突いて2点目を挙げる。後半25分、左からのクロスボールを11仲谷将樹が中央で受け、左に流れてパスを送ると、空いたスペースに9森山泰希が走り込み、ドンピシャのタイミングでヘッド。ゴールに突き刺した。

 相手を押し込みながら、まさかの2失点を喫した富山第一。大塚一朗監督は後半32分、左ウイングの11野沢に変えて、ボランチの19村井和樹を投入。10大塚を1トップに上げ、9渡辺、途中出場の20高浪奨を2シャドーに配置し、6川縁、8細木、19村上の3ボランチにして、攻勢に出る。

 後半41分、2点にリードを広げ、優勝へのカウントダウンが始まった星稜は精神的支柱、キャプテンの10寺村を「疲労があった」(河﨑監督)と判断し、ベンチに下げる。直後、国立競技場が揺れた。富山第一のGK1高橋昂佑が素早く3竹澤へフィード。ボールを受けた3竹澤は前線へ鋭いボールを送り、途中出場の19村井がDFラインの裏に抜け出す。左足であげたクロスは、ファーサイドに走り込んできた20高浪の下へ。20高浪はワントラップすると、右足で押し込んだ。

 途中出場の2人の活躍で1点差に迫った富山第一。さらにアディショナルタイムに大きなドラマが待っていた。この試合、類まれなドリブルと正確なロングキックで、左サイドバックながら、ゲームメーカーとしても機能していた3竹澤が、ペナルティーエリア左外でボールを受けると、足の裏でボールを「ナメて」相手を引き寄せる。フットサルで身につけた足技で時間を作ると、ボランチの6川縁がペナルティーエリアに進入。「相手が食いついてきたら、裏に走り込む動きを徹底しよう」(3竹澤)とハーフタイムに話したとおりの形で星稜を自陣にくぎ付けする。

 そしてアディショナルタイムも1分50秒に差し掛かったころ、ゴール前で9渡辺のパスを受けた6川縁が左で待っていた3竹澤にパス。「ボールを受けたら縦に突破して、シュートを打とう」(3竹澤)とイメージしていた矢先、ペナルティーエリア内で深いタックルを受けて転倒。ラストプレーで獲得したPKをキャプテンの10大塚が冷静に決め、勝負の行方は延長戦に持ち越された。

 延長戦開始前、富山第一応援団を中心に、大きな富山コールが湧き起こる。アディショナルタイムタイムに追いついた富山第一、追いつかれた星稜。勢いの差は明らかだった。延長後半9分、富山第一は右から22城山典がロングスローを送る。ゴール中央にこぼれたボールを「ロングスローから、前の選手がヘディングでそらせてこぼれ球を狙う練習は、結構していました」と話す19村井が左足で豪快に蹴りこんで3-2。0-2からの大逆転勝利を収めた富山第一が4166校の頂点に立った。

星稜は2点リード後、精神的支柱である10寺村をベンチに下げた判断が悔やまれる。試合後、河崎護監督は寺村の交代について、「結果的にはどうだったかなと疑問が出るかもしれませんが、彼には疲労がありましたし、結構、引っ張ったほうでした」と話した。勝負にたら・ればは禁物だが、失点後、誰もが頼りにするキャプテンがピッチに立っていたら、果たして結果はどうだったのだろう。

 勝利した富山第一はハーフタイムに大塚一朗監督が「絶対に諦めるな。2点差になっても必ず追いつける。今まで逆転勝ちはなかった。神様は逆転勝ちを俺たちにプレゼントしてくれるだろうから、気持ちを入れて引き寄せよう」とげきを飛ばし、見事そのとおりの結末を手繰り寄せた。決勝戦で見せた鋭い出足、体を張ったボールキープ、相手の守備を左右に揺さぶる攻撃、プレッシャーのかかる場面でPKを決めた10大塚の精神力、交代選手がスタメンとくらべて遜色ないクオリティーを備える選手層の厚さ、そして諦めない心など、チームの持つ良さをファイナルの舞台で思う存分に発揮してみせた。

 星稜と富山第一、共に力を出し切り、『国立最終章』を戦い切った両チームに拍手を送りたい。

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