2014.01.01

水戸啓明に見た 「急ぎすぎない」勇気

第92回全国高校サッカー選手権大会 1回戦 水戸啓明-立正大淞南
寺下友徳(フリーライター) 取材・文

13年12月31日(火)/12:05キックオフ/千葉県・ゼットエーオリプリスタジアム/観客3053人/試合時間80分

水戸啓明 1( 1-0、0-0 ) 0  立正大淞南

得点者
(水戸啓明)
石川(前半38分)

J1広島内定の左SB10高橋壮也を筆頭とした「強く、速い個の集合体」立正大淞南。「緩急で攻守を操る組織」水戸啓明。お互いのストロングポイントを出し合う好ゲームは前半38分に動いた。水戸啓明は立正大淞南の仕掛けるハイテンポをスローダウンさせると、大きく右サイドに展開。右SBの7阿部悠大がアーリー気味にあげたクロスをゴール前で受けたFW10石川大地が相手DF、GKの位置を見透かした右足シュートをゴール左に沈めて先制する。後半、優勝候補の名にかけ、このままで終われない立正大淞南はさらにドリブルのスピードを上げてゴールに迫ったが、焦りからシュートミスも多くスコアを動かせず。終わってみれば終盤は退場者を出すなど守勢を強いられながらも粘り強く守った水戸啓明が、水戸短大付属時代の2000年度・79回大会以来となる13年ぶりの選手権6勝目を完封で飾った。

「日本のサッカーは速い」。Jリーグにやってくる新外国人、特に南米系の選手は、来日してしばらくすると、ほぼ例外なくこんな衝撃を口にする。確かにCS放送などで目にするコパ・リベルタドーレスやワールドカップ南米予選などを見ると、DVDをスロー再生している錯覚にかられることもたびたびだ。むろん、緩急の引き出しを持ち、速さにも短期間で順応できる彼らの確かな技術がそれを可能にしていることはいうまでもないのだが……。

さて今大会優勝候補の一角にもあげられる立正大淞南は、この日本特有の「速さ」を突き詰めることを伝統にしているチームである。左SB絞り気味の位置からはJ1広島内定・U?18代表候補の10高橋壮也。右のワイドからは10高橋を超える直線でのスピードを有する19坂本将一朗。真ん中からはトップ下の17熊田克斗に1.5列目の7佐藤拓真ら。島根県大会決勝戦、南健司監督いわく「内容的には最悪」な中でも開星を振り切れたのも、彼らの突出したスピードがあったからだ。

対する水戸啓明が取った策は「急ぎすぎない」ことだった。ブラジル代表の色を模した帝京高校1年時に選手権全国制覇。93年の浦和時代には森孝慈監督(故人)の下、アルゼンチンスタイルの薫陶も受けた巻田清一監督が選手たちに落とし込んだポイントは以下の通り。

「守備では相手の縦の速さに裏返らず、チャレンジ&カバーを行うこと。攻撃ではプレッシャーの速い中で広げた後、前線に供給すること」

紙一重でいなし、返す刀で致命傷を与える。前半38分、自陣ゴール前でボールを奪うと、スピードを緩めながら左から右サイドへ展開。そこから一転、アーリークロスが入る。10石川大地による先制点までの流れは、正に南米サッカーの醍醐味「緩急」を地でいくものだった。この瞬間、立正大淞南は行き場を失った猛牛のごとく、呆然と紫紺の歓喜を眺めることになったのである。

後半、同点を狙い続けた立正大淞南の鬼気迫る攻撃も見事だった。「いろいろな人に見せたかった」。指揮官の悔いは3000人以上が集った観衆たちの想いでもある。

だからこそ、「何度か教えたことがあるんですけど、背がないだけ(172センチ)で素晴らしいGKです」とOBのJ2水戸GK本間幸司も高評価するGK12黒子兼汰から前線まで勇気を持って闘い抜いた水戸啓明の輝きは、単なる1勝以上の価値を持つ。「思った以上に相手が速く内容は完ぺきではなかったが、勝ち切れたことで次につながる」試合終了間際、左SB②永井大樹を警告2枚の退場で失いながらも、なんとかしのいだCB③会沢凌の疲労と満足感が入り混じった表情が、この試合を端的にいい表しているように見えた。

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