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勝負強さを見せた富山第一 勝敗を分けたセットプレー

2014.01.01

[写真]=佐藤博之

第92回全国高校サッカー選手権大会 1回戦 富山第一-長崎総科大附
清水英斗(サッカーライター) 取材・文

13年12月31日(火)/12:05キックオフ/埼玉県・浦和駒場スタジアム/観客2371人/試合時間80分

富山第一 3 ( 1-0、2-2 ) 2 長崎総科大附

得点者
(富山第一)
西村(前半4分、後半3分)
渡辺(後半9分)
(長崎総科大附)
安藤(後半26分)
境(後半37分)

かなり見応えのある試合だった。前半4分、富山第一はFKから25西村拓真がヘディングで幸先良く先制弾。一方、いきなり出鼻をくじかれた長崎総科大附だったが、ここから猛烈な反撃に転じ、得点には至らないものの、前半26分に決定機をファウルで阻止した富山第一の5村上寛和を一発退場に追い込む。ところが後半はさらに攻勢を強めたいところで、逆に1人少ない富山第一のCKから2点を追加され、一時は0-3と絶望的な点差をつけられてしまう。しかし、長崎総科大附はあきらめない。相手GKとDF間の連係ミスを突いた10安藤翼が1点を返し、さらに途中出場19知念北斗の折り返しを7境泰樹が沈めて3-2と富山第一を追い詰める。そして終了間際のCKでも決定機を生み出した長崎総科大附だったが、ここで試合はタイムアップ。約60分間を10人で戦った富山第一が、辛くも1点差で逃げ切った。

FK1発、CK2発。合計セットプレー3発で長崎総科大附を沈めた、富山第一。

実力伯仲の一戦において、セットプレーが勝敗を分けるポイントになるのは珍しいことではない。まして早い時間に1人少なくなったことで、富山第一はどうしてもセットプレーに頼る比率が大きくなった。

3点をセットプレーで決めたのは、左サイドバックの3竹澤昂樹という素晴らしい精度を誇る左足のキッカーを備えたことが要因の一つに挙げられる。

前半4分の先制ゴールは見事。右サイド、ペナルティーエリアの横辺りで得たFKに対し、右利きの8細木勇人と、左利きの3竹澤の2人がそろい立つ。ここから2人はトリックプレーで蹴るタイミングをずらし、最終的に3竹澤が左足でゴールに向かって曲がっていく軌道のクロスを送り込む。合わせたのは右サイドハーフの25西村拓真だ。

「(キッカーが)フェイントするのはわかっていたので、2人目に合わせるようにしていました」(富山第一・?西村)

サインプレーにより、3竹澤にタイミングを合わせて走り出した?西村は、頭でボールをすらし、ファーサイドネットを揺らした。

右足、左足の両方に優秀なキッカーを備えるチームは、それだけでセットプレーの駆け引きで優位に立てる。それはつまり、ザックジャパンにおける名コンビ、本田圭佑と遠藤保仁のようなものだ。両足のキッカーがそろい立つことで、相手ディフェンスはボールの軌道やタイミングを読みづらくなり、後手に回らざるを得ない。

163センチと小柄で、この試合では自陣での危険なボールの奪われ方、あるいはディフェンスにも課題を残した3竹澤だが、左足のキック精度はかなり魅力的に映る。次の試合も、彼の美しい軌道のクロスが見たい。

そしてゴールを決めた25西村も、何となく気になる選手だ。後半3分には、8細木の右CKのこぼれ球を拾い、空いたニアサイドのコースへ沈め、この日2点目をマークした。1人少ない富山第一にとって、このゴールの価値は大きい。

右サイドハーフながら、県大会でも大事な試合で得点を挙げてきた2年生の?西村。率直にいえば、まだまだ荒削りな選手だ。この試合でも、長崎総科大附の素早いプレスを受けてあっという間に囲まれてしまい、視野の狭さ、判断の遅さが目立った。

しかし、それでもチャンスは不思議と?西村の元に巡ってくる。教えようのない才能とでもいうべきか、何となくそういったものを感じさせる選手だった。次も注視したい選手の一人だ。この試合は展開的にセットプレーに頼ることになったが、次の試合ではどのような攻めが見られるのか、楽しみにしたい。

そして、長崎総科大附もここで大会を終えるには惜しいチームだった。

マンマークで責任をはっきりとさせた守備、強じんな球際の競り合い。そして富山第一をもっとも苦しめたのは、センターフォワードの10安藤翼のポストプレーに対して両ウイングの7境泰樹、9中島成斗が裏のスペースへ飛び出す攻撃パターンだった。

前線とも中盤ともいいづらいギャップを、ふらふらと動き回る10安藤。そこに縦パスが入った瞬間、7境と9中島が3人目の動きでサイドバックとセンターバックの間から飛び出して行く。前半26分に富山第一の5村上寛和が、決定機を阻止するファールで退場になったのも、9中島が斜めに飛び出してフリーになったシーンだった。

個々の技術やフィジカル、グループの戦術。そういったものに関して、この試合で両校に明らかな差があったとは思えない。

最終的に勝敗を分けたのは、富山第一の“経験値”だったのではないだろうか。

今年、高円宮U-18プレミアリーグWESTに参戦し、Jクラブの下部組織などと全18節を戦った富山第一。10チーム中8位と、東福岡の2位に比べれば決していい成績を残せたわけではないが、真剣勝負のリーグ戦というシーズンを送ったことの成果が、この選手権に表れていたように感じられる。象徴的なのは、5村上が退場になった直後のシーンだ。

「退場になったとき、少しシステムを変更しなければいけないため、ちょっと迷っていたんですけど、選手の中から(サイドバックの)?城山典を中央に入れて、6川縁大雅をサイドに出しましょうと、向こうからいってきたので、『おお、じゃあそれでいい』と(笑)。選手にたくましさを感じました。あとは中盤の構成を4枚にするか、3枚にするかについて迷ったんですけど、相手は長いボールが多くてセカンドボールを取るには3枚のほうがいいかなと思い、1トップ、トップ下、3枚のボランチのような形で。それがはまったというか、スムーズにいけた要因かなと思います」(富山第一・大塚一朗監督)

1人少なくなっても、たしかに富山第一には余裕というか、落ち着きが感じられた。引き過ぎることもなく、行けるときにはプレスもかけて、効果的に試合を進めた。そこには今年1年をハイレベルな公式戦の中でもまれたという自信も影響しているのだろう。

セットプレーで効果的に加点したことも含め、勝負強さを見せた富山第一。次の試合も要注目だ。

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