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【世界を目指す国、中国】中国サッカー・スーパーリーグの“今”

近年、中国サッカー・スーパーリーグ(CSL)において監督や選手を問わず、数々のビッグネームの“爆買い”によって世界的な注目を集めてきた中国サッカー市場。これまで、オーナー企業の投資に傾倒してきたクラブ経営は、この先どうなっていくのか、そもそも、CSLは中国国内でどんな立ち位置なのだろうか。CSLの“今”に迫る。

文=黄志铭(WYFAグループ COO)
写真=ゲッティ イメージズ

 一昔前、中国サッカー・スーパーリーグ(CSL)の現場では、実にのどかな光景が広がっていた。多くのスタジアムにはチケットを販売するための窓口が設置されていなかった。試合当日にスタジアムの周りにいる〝販売員?からチケットを購入するという仕組みだ。試合カードによって価格は変動したが、地方クラブの場合、わずか100円~300円程度が相場だった。

 それに、試合のない平日のスタジアムは、シーズン中にもかかわらず、即席の「ゴルフ練習場」となった。普段はサッカーをしているピッチやスタンドにゴルフボールを打ち込むという、貴重な体験ができたのだ。今でも、スタンドにボールが届いた時に聞こえる音色が懐かしい――。ただこれは、一昔前の話である。

■様変わりした中国サッカー

 CSLは、この数年間で大きく様変わりした。リーグの収益面ではすでに、アジアのレベルを凌駕している。その規模を測る指標としては、収益で世界30位以内に入るクラブが3つもあるということ(ちなみに、収益で世界30位は、イタリア・セリエAのナポリで、その額は約150億円)。日本最大のクラブである浦和レッズの66億円(2016年)と比較すると、6つのクラブが、収益面で上回っている(表1)。

 所属するトップ選手や監督に支払われる給与を見ても、6クラブが毎年のように50億円以上を費やしている。

 その中でも広州恒大は抜き出ている。これまで、選手としてはブラジル代表のパウリーニョやロビーニョ、エウケソン、コロンビア代表のジャクソン・マルティネス、監督としては元イタリア代表のファビオ・カンナヴァーロや、名将ルイス・フェリペ・スコラーリといった“ビッグネーム”を次々に獲得してきた。彼らの16年の給与支出は、およそ100億円近くにまで上った(★表1)。

■好調な投資と広告料収入

 各クラブのオーナー企業、もしくは協賛企業による投資や広告料収入は、CSL全体で980億円を超えている(★表2)。その内訳は、直接投資が710億円、広告料収入が270億円となる。

 クラブを支えている企業の業種としては、「不動産」、「メーカー(小売)」、「エネルギー・電気」という、中国でも好調が続く3セクターが9割を占めている。

 巨大企業にとっては、広告費が自社ブランドの価値を高めてくれる「販促費」として捉えられているため、企業は高額な支出を続け、不動産や小売、エネルギーなど、本業が好調だからこそ、販促費に多額を投下することができると言える。

 さらに、この販促によって、本業のビジネスがまた拡大するという好循環が生まれているのだ。

■低迷するチケット収益

 オーナーや協賛社からの収益が好調である一方で、クラブのその他の収益源は伸び悩んでいる。

 その一つが、チケット収入だ。この点は、冒頭の“一昔前”からそれほど変わっていないところでもある。例えば、北京の東北に位置する遼寧省の遼寧宏運というクラブは、ホームの1試合平均観客動員数が2万2000人に達しているにもかかわらず、チケット収入はわずか9000万円しかない(★表3)。CSLのホームゲームは15試合あるため、観客数を元にして計算すると、1人当たり300円弱しかチケット代金を払っていないということになる。

 一方、都市部においても、それほど状況は変わらない。7連覇中のリーグ王者、広州恒大は、約4万5000人の観客動員数を誇りながら、チケット収入は7億円弱。つまり1人当たり1000円ほどしか払っていないのだ。同じように、ブラジル代表のフッキやオスカルを擁する上海上港も、世界的なスター選手を一目見ようという理由でチケット収入が飛躍的に伸びてもおかしくないはずなのだが、その収入は上海上港と同じように年間で7億円にも満たない。平均観客動員数は2万8000人なので、1人当たりのチケット代は1600円ほどとなる。上海は所得水準が高く、チケット価格が上がっても観客が減りづらい立地だと考えるならば、そもそも、この価格設定自体が間違っているのかもしれない。

 同様に、グッズ販売においても未熟だと言える。16年のグッズ関連売上はCSL全体でも10億円に達していないという統計がある。近年、多くのクラブが、商品開発やライセンスビジネスに取り組んでいるものの、欧州のサッカー市場の規模感と比較すると、商業分野においては大きな後れを取っているのだ。

■CSLの底知れぬ可能性

 もう一つ、近年の変化として放映権料が挙げられる。

 これまで、CSLで比重を占めることはなかったが、16年から5年間、政府系の投資ファンド、チャイナ・スポーツ・メディアとの間で、年間約260億円の放映権契約が結ばれた。クラブへの分配方法としては、放映料の80パーセントを16クラブで均等に分け、残り20パーセントを順位に応じて振り分ける。この方式は、順位による放映権料収入の傾斜が生まれづらく、16年は、1クラブが平均して約16億円の分配金を受けるという想定だ。

 Jリーグでも、17年からDAZNとの10年間で総額約2100億円という放映権契約を結んだことが話題になったが、年間額に直しても、CSLの方が収入は大きい。ただやはり、“超アジア級”のリーグとして捉えるならば、上位クラブへの分配金が最大で150億円に上ることもあるイングランドのプレミアリーグを筆頭とする欧州リーグの放映権料には遠く及ばない。つまりあと数年間、20年までは、CSLの放映権収入という項目は、現状の金額感で“停滞”するということになるだろう。

 中国サッカー市場は近年、爆発的に拡大し、盛り上がりを見せてきた。ただしそれはまだ、成熟した欧州市場のようなものではない。オーナー企業の莫大な投資によって加速度的な発展を遂げたCSLの各クラブは、今まさに、より健全な事業運営・経営を模索する段階に入ったと言える。

 だからこそ今後はチームブランドの強化や、ファン、サポーター向けの商品を展開することでクラブの価値を生み出していけるように、収益をさらに高めていくための施策を考え実行することこそが不可欠だろう。

 収支のバランスを保つことも必要であり、その意味では、支出のうちの大きな比重を占める、外国人選手への依存度を下げていかないといけないはずだ。 それはすなわち、自国選手の発掘につながり、優れた育成システムの構築へと発展していく。

 そういう段階を経て一歩一歩確実に進んでいった先にある未来のCSLは、いまだに底が知れない可能性に満ちあふれている。

★CSLの象徴1『広州恒大』
中国で唯一株式公開しているアジア屈指のビッグクラブ


中国を代表する強豪クラブであり、2011~17シーズンまで、7年連続のリーグ優勝を果たしてきた“絶対的な王者”。オフェンスとディフェンスのバランスが取れたチームである。広州を拠点とする不動産企業の『恒大グループ』と『アリババ』がオーナー企業として、潤沢な資金を提供している。恒大グループは、八百長問題で苦境に陥ったクラブを10年に買収し、「3年間で広州恒大をCSLとアジアの舞台において最高のクラブにする」という目標を掲げた。一方でアリババは14年からクラブへの投資を開始。広州恒大は中国で株式公開している唯一のクラブであり、恒大グループがクラブ株式の56.71%、アリババが37.81%を保有している。中国の第三株式市場への新規上場を行い、上場前の時価総額は約2,600億円のバリュエーションが付いた。
★CSLの象徴2『上海上港』
上海の港湾ビジネスを独占する国内屈指の“ライジングクラブ”


これまで、上海といえば「上海申花」というイメージが地元のファンでは浸透していたが、近年の大補強によってその人気を奪った中国屈指の“ライジングクラブ”。親会社の『上海国際港務集団有限公司(SIPG)』は国営企業であり、上海での港湾ビジネスを独占管理している。2014年に上海東亜(以前のクラブ名称)を買収した後、90億円近い投資を敢行して、実績のある有名監督や選手を獲得して改革に着手。17年にはCSLとACLでの優勝を目標に掲げて、ポルトガル人のアンドレ・ヴィラス・ボアス監督を招へいすると共にチェルシーからMFオスカル、日本でもプレーしたフッキを獲得した。
★CSLの象徴3『天津権健』
1シーズンで約20億の黒字に達する“昇り竜”


ヘルスケア用品の直販会社である『権健グループ』は、2015年に天津松江を買収して、チーム改革に向けて多額の投資を実行。元イタリア代表としてその名を轟かせたファビオ・カンナヴァーロを監督に迎え、ブラジルのアレシャンドレ・パトやフランスのフランソワ・モデストなど大型補強も実施してきた。16年にはCL1リーグ(2部)を制し、17年のCSLでも優れたパフォーマンスで上位争いに加わると、最終的には3位となり、ACL出場権獲得を果たした。16年末のクラブの収入は約87億円、黒字も約20億円に達している。権健グループは、自社ブランドを高めるためのマーケティングツールとしてクラブ経営に関与している。
★CSLの象徴4『江蘇蘇寧』
大手企業を傘下に持つ人気クラブ


中国の小売大手で、スポーツ業界で複数の事業を世界的に展開している『蘇寧グループ』は、2015年に江蘇のクラブを買収し、同社が目指す「スポーツエコシステム」を目標の中核の一つに据えた。イタリアのインテルを買収した他にも、放映権売買を行う『チャイナ・スポーツ・メディア(CSLの独占権を保有)』、動画プラットフォームの『PPTV』、スポーツデータ会社の『チャンピオン』、中国で最も人気の高いサッカーアプリ『AllFootball』を傘下に持つ。クラブ単独での収益目標とは別に、グループとして最も重視しているのは、エコシステムの構築を通じた、多角的な収益構築である。ブラジル代表歴を持つラミレスやコロンビアのロヘル・マルティネスを擁し、名将ファビオ・カペッロ監督が率いるが、選手獲得に巨額を投資したものの、今シーズンは思うような結果を残せなかった。
★CSLの象徴5『貴州恒豊智誠』
美人オーナーを持つ上昇クラブ


中国の第三級都市・貴州省をホームとする中規模クラブだが、不動産会社のオーナー企業、『恒豊グループ』は、2016年からクラブへの投資を開始。17年にCSLへの昇格を果たし、中国国内での認知度を徐々に高めつつあることで、クラブが企業ブランドの価値を上げ、恒豊グループの本業にも大きく寄与している。こうした認知拡大の要因としては他にも、恒豊グループ会長の娘であり、美人オーナーとして知られる文筱?氏の存在がある。彼女は欧州でファッション産業を学んだキャリアを持ち、着飾った姿で試合会場に表れることで話題を呼んでいる。クラブは、今シーズン途中にスペインの知将グレゴリオ・マンサーノを指揮官に擁立してから、上海上港など強敵を撃破するなど勝ち点を伸ばした。

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