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25年ぶりに外国人監督を招いた北朝鮮代表…戦術、注目選手、完成度は?

2017.12.08

 EAFF E-1サッカー選手権で日本代表の初戦(9日)は、朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)だ。ハリルホジッチ監督率いる日本代表は2年前の同大会で北朝鮮に1-2で敗れており、初戦から嫌な相手との対戦となる。

 ただ、それから同代表は大きく様変わりしており、当時のチームはほとんど参考にならないだろう。現在の北朝鮮代表の大きな変化の一つとして、外国人監督を25年ぶりに招へいしたことだ。

 指揮官は元ノルウェー代表FWのヨルン・アンデルセン監督。ブンデスリーガのフランクフルトでプレーした1989-90シーズンには、外国人選手として初めて得点王となり、2015年12月までオーストリア2部のSVオーストラリア・ザルツブルクの監督を務めた。

 そんな彼が2016年5月から北朝鮮代表監督に就任。約1年半が経ったが、国内の代表トレーニングセンターで、ほぼ毎日合宿のようにチーム作りに専念している。

 さらにアンデルセン監督が就任してからは、選手たちは所属クラブに帰らず、代表選手たちだけで、毎日練習をこなしているという。つまり、代表チームが完全にクラブチーム化しているわけだ。これは同国協会と監督の方針でもあるが、こうした代表チームの強化は他の国では到底、考えられないことだ。

 その点でいえば、国内組だけで戦う日本と比較して、北朝鮮のほうがチーム力では勝っている部分もあるのかもしれない。

 つまり、これまで国内監督では改革できなかったさまざまなしがらみをとっぱらい、欧州サッカーの風を新たに吹き込もうとしているわけだ。

 11月に第3国のタイでアジアカップ最終予選のマレーシア戦の取材に行った際、アンデルセン監督はこんな話をしていた。

「才能豊かな選手が多く、フィジカルもいいものを持っている。ただ、戦術の理解力を高める必要があったり、もっと国際試合で経験を積んでいかないといけない」

 そういう意味では、タイでマレーシア戦を2戦取材したが、北朝鮮代表の基本フォーメーションは4-4-2。サイドバックはそこまで積極的に上がることはなく、組織的な守備から中盤でボールをつなぎ、試合を展開する戦術だ。

「私が目指すサッカーは攻撃的なサッカー。前線からしっかりとプレスをかけ、中盤でボールを奪ってから攻撃に転じる。組織的なサッカーでポゼッションを高めることを選手には求めています」

 これまで前線へロングボールを放り込み、そこから攻撃を展開するスタイルが多く見られたが、アンデルセン監督に代わってからは、中盤でボールを支配し、組織的に攻撃を組み立てようとする動きが見られる。選手の意識は確かに大きく変わってきているようだ。

 ちなみに、11月にタイで行われたアジアカップ最終予選のマレーシア代表との2試合では、2戦8ゴールと攻撃力が爆発。格下相手だったが、きっちりと結果を残して、日本に乗り込んでいる。

 アンデルセン監督も「若い選手たちの戦術に対する理解力がとても向上しています」と手ごたえを感じているようだ。ただ、日本、韓国、中国のアジアトップレベルのチームとの対戦は初めてで、「確かに力では劣るかもしれない」と認めつつも「何が起こるか分からない。どの試合でもベストを尽くしたい」と語っていた。

 今回、来日したメンバーで注目選手は数人いる。注目はやはり海外組だ。一人はスイスのFCルツェルンでプレーするチョン・イルグァン。左サイドからの突破で攻撃の起点となる。彼は2011年9月、埼玉スタジアムで行われたブラジルW杯アジア3次予選の日本代表戦(0-1)に先発で出場しており、同11月に平壌の金日成スタジアムで行われた日本代表戦にも出場している。

 さらに、在日Jリーガーの李栄直(カマタマーレ讃岐)、安柄俊(ロアッソ熊本)、金聖基(FC町田ゼルビア)の3人が加わった。先発濃厚なのがアンデルセン監督からの信頼も厚い李栄直だ。守備重視ながら、時には攻撃の起点となり、中盤のバランスを取る役目を担っている。11月のマレーシア戦でも、強烈なミドルシュートはゴールバーに嫌われたが、チャンスがあれば積極的にゴールも狙っている。

 日本で育った彼らは北朝鮮にはいないタイプの選手たちだけに、チームに良いアクセントとなるのは間違いない。

 そして国内組もあなどれない。11月のマレーシア戦でハットトリックしたFWキム・ユソンは、今大会でも先発を果たすだろう。彼はセットプレーからのゴールを得意としているほか、スピードに乗ったドリブル突破も脅威となる。

 彼は2014年のAFC U-19選手権の準々決勝の日本代表戦に出場しており、井手口陽介(ガンバ大阪)や南野拓実(ザルツブルク)らと同じピッチに立った。この試合は1-1のまま延長戦へ突入し、PK戦で北朝鮮が勝利したが、E-1選手権でキムと井手口が、再びマッチアップする確率は高そうだ。

 北朝鮮代表はE-1選手権に出場する4カ国のなかで、ではもっとも格下と見られている。だが、そのままのこのこと国に帰るわけにもいかない。監督も選手も足跡を残したいと思っている。

 カマタマーレ讃岐の李栄直から一通のメールが来た。

「楽しみながらも、全チーム苦しめますよ!」

 確かにこの大会をもっとも楽しみにしているのは、李を始めとした日本で生まれた在日Jリーガーだろう。彼らもまた、自分の存在を多くの日本のサッカーファンに届けたいに違いない。

 もう謎多き北朝鮮代表ではない。日本との初戦に勝利し、東アジアの古豪復活の足掛かりとなるか注目したい。

 日本代表対北朝鮮代表は9日(土)19時15分、味の素スタジアムでキックオフを迎える。

文=金明昱(キム・ミョンウ)
協力=アジアサッカー研究所

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