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「進んだ道は間違ってない」トロントFC遠藤翼が語ったMLSと日本代表

2016.12.27

MLSのトロントFCに所属する遠藤翼が、ルーキーイヤーとなった2016年、日本代表への思いを語った

 12月15日からの2日間、アメリカMLS(メジャー・リーグ・サッカー)のロサンゼルス・ギャラクシーは、日本で初となるオープントライアウトを実施。150名以上の選手が参加し、見事5名が来年行われるLAギャラクシーII(セカンドチーム)のプレシーズンキャンプ(2017年2月6日~10日)の参加資格を獲得した。

 トライアウトの会場には、トロントFCに所属する遠藤翼が視察に訪れていた。遠藤はジュニア時代、JFAアカデミー福島に在籍。18歳で単身渡米すると、語学勉強とサッカーの両立を目指し、メリーランド大学に入学した。同大学で活躍し頭角を現すと、2016年のMLSドラフトでトロントFCから1巡目で指名を受け入団を果たす。MLSのクラブから日本人選手が1位指名を受けるのは、初の快挙だった。以降、今年5月のFCダラス戦では初ゴールを挙げるなど、その存在感は日に日に増すばかり。遠藤が感じたMLSプレーヤーとして見た日本選手の印象、そして日本代表への思いとは? さらに、ルーキーとしてMLSを戦った2016年を振り返ってもらった。

取材・文=サッカーキング編集部

■アメリカ以外の選択肢はなかった

――今回のトライアウトに参加した選手の印象を聞かせてください。

遠藤 足元のテクニックが優れている選手が多く、試合を見ていても「上手いな」という印象です。でも、それだけじゃ通用しないのがMLSだと思います。今、ここで自信を持って(アメリカに)行ったとしても、通用するという保証はありませんから。

――JFAアカデミーでプレーしていた時、将来海外に渡ろうという目標はありましたか?

遠藤 もちろん、ずっと海外リーグを見ていました。一番好きだったのがプレミアリーグで、フランク・ランパード選手が好きでした。彼を目標にしてやってきてて、同じリーグでプレーしているのは変な感じですね(笑)。昔からずっと、海外でプレーすることを目標にプレーしていました。

――日本でプレーしていた頃は、テクニックを重視するプレースタイルだったのでしょうか?

遠藤 そうですね。ボールを失わない技術とか、テクニックをかなり重視してました。ボールをつなぐことだけにフォーカスして、それを理論としてプレーしていました。今に活きていることはありますし、自分はアメリカ人が持っていないものを持っていると思います。でも、本当に良かったのは大学に行って「それだけじゃない」というのを知れたことだと思います。

――アメリカ以外の国に行くという選択肢はなかったのでしょうか?

遠藤 なかったですね。アメリカの大学は設備も環境もJリーグ並みに充実していて、奨学金ももらえます。英語は全然喋れなかったですけど、監督から“ロゼッタストーン”っていう教育プログラムを教えてもらって英語を勉強できましたし、期待されているというのを感じました。そういう部分では、環境面では自由にやらせてもらったのはありがたかったですね。こういうのはアメリカならではで、日本にはなかなかそういうのはないので。

――英語が話せないことで色々な苦労があったと思います。

遠藤 最初の1年は生活するのも厳しかったですね。ずっと英語漬けだったので、あんまり自由時間もなかったですし、勉強して、サッカーして、また家庭教師と勉強して、ご飯を食べて寝るという生活でした。そんな生活が1年間続きました。でも、それはアメリカの良いところだと思います。それでちゃんと大学を卒業できましたし、進んだ道としては間違ってなかったと思います。

遠藤は日本を離れ単身渡米したことについて「進んだ道としては間違ってなかった」と語った

遠藤は日本を離れ単身渡米したことについて「進んだ道としては間違ってなかった」と語った

■アメリカ人と日本人ではメンタルに違いを感じる

――日本とアメリカのサッカーで「違う」と感じた点は?

遠藤 良い意味でも悪い意味でもアメリカのサッカーは縦に速いです。「ただ蹴って」という感じのサッカーが多いです。もちろん、つなぐサッカーもあるんですけど、そういうサッカー(ロングボール主体)に固執しがちです。そういう部分で上手くいかないこともあって、最初はふてくされたり、アカデミーのサッカーと全く違ったので、順応するのに時間がかかりました。1年目は試合に出たけど不完全燃焼という感じでした。

――「上手い選手だけでは世界に通用しない」ということは、Jリーグや日本代表を見て感じることはありますか?

遠藤 一概には言えないですけど、メンタル面ではアメリカ人が持っているものと日本人が持っているものが違うような気がします。例えば、今年のコパ・アメリカで、アメリカは3位決定戦で負けました。でも、そこまで行く快進撃はアメリカの全試合を見て、先制されても崩れない気持ちの強さを感じます。コパ・アメリカは初戦で負けたんです(グループステージ初戦でコロンビアに0-2で敗戦)。初戦で負けたのにグループを突破できる強さという部分は、やっぱり日本代表が見習う部分はあると思います。

――日本では初戦の重要性が強調されすぎでしょうか?

遠藤 そこにフォーカスされすぎている部分はありますよね。もちろん大事なんですけど、(グループリーグは)3試合あるから。まぁでも、難しいですけどね。

――遠藤選手が決勝トーナメントを目指す上で初戦というのは重要視していますか?

遠藤 初戦はどう転がり落ちるか分からないから、そこに気合を入れて臨むのは自然なことだと思うし、チームの雰囲気もそこに向けてやるのが大事。でも、そこはやっぱり難しいですよね。正解、不正解はないから。

――誰もが「何回経験しても初戦は難しい」と口にします。

遠藤 負けても勝っても安堵しないチームの雰囲気作りが大事です。そういう点では、アメリカ代表キャプテンの(マイケル・)ブラッドリーは、(トロントFCの)チームメイトなんですけど、キャプテンシーが本当にすごいです。プレーで引っ張る部分もありますけど、毎日の練習で見せるプロ意識の高さは、僕が一緒にプレーした選手の中で一番ですね。

■プロになって身につけた「考えて動く」ということ

――トロントFCの話についてもうかがいいたいのですが、大学在学中に1巡目で指名を受けました。その時の心境は?

遠藤 ビックリしましたね(笑) トップ10に入ると思ってなかったので。

――「ドラフトで上位指名される」という手応えはありましたか?

遠藤 ありました。当時は勢いがあったから、「どこかで指名はされるだろう」とは思ってました。でも、トロントから1巡目で指名されるとは思ってなかったです。トロントは2巡目の指名権がなかったので、「自分は指名されないな」と思っていたんですけど、指名されたときは驚きましたね。

――アメリカのスポーツにおいて、ドラフトの指名権はかなり重要だと思います。1巡目で指名されたことで、期待の大きさを感じたのではないですか。

遠藤 驚きはしましたけど、やれる自信はありました。トップ10で指名されれば、期待されているのは当たり前なので。ただ、大事なのは1年目から試合に出ることだと思います。

大学時代に頭角を現すと、2016年のMLSドラフトでトロントFCから1巡目で指名を受け入団を果たした [写真]=Getty Images

大学時代に頭角を現すと、2016年のMLSドラフトでトロントFCから1巡目で指名を受け入団を果たした [写真]=Getty Images

――晴れてプロになりました。トロントFCに入団して最初に感じた大学との違いはありましたか?

遠藤 インテンシティですね。あと、大学では自分が一番上手かったから、何でも思い通りにやれました。でも、トロントにはセバスティアン・ジョヴィンコ(元イタリア代表)とか、マイケル・ブラッドリーやジョジー・アルティドール(アメリカ代表)がいるので、彼らがチームの中心です。そうなると、「どうやって彼らと上手くプレーしていくか?」ということが求められる。今の監督はかなりスマートな方で、効率性を求められるから、大学と違って、だた動けば良いということはなくなりました。

――「考えて動く」ということでしょうか。

遠藤 そうです。プロに入ってから学んだ部分はあります。僕の特徴は持久力なので、「エンジンがあるのは良いけど、もっと効率的に動くということを組織でできるように」と。

――そうした中で出場機会を得て、手にしたプロ初ゴールはジョヴィンコのパスからでした。

遠藤 かなり嬉しかったですね。シーズンが開幕して最初の8試合がアウェイで、(得点した)FCダラス戦はホーム開幕戦でした。遠征からやっと戻ってきて、満員のホームで得点できたので。しかも、大量得点ゲームではなく1-0で勝てたので。それに加えて皆が祝福してくれたのが嬉しかったです。自分にとってはブラッドリーが来てくれたのが一番嬉しかったですね。

――近年、MLSには世界のトッププレーヤーが加入するようになりました。遠藤選手から見たMLSとは?

遠藤 他のリーグと比較するのは難しいですけど、世界のトッププレーヤーたちがいるとリーグの知名度も上がるし、周りの人たちがトッププレーヤーを見習って練習することでリーグのレベルも上がると思います。実際、MLSのレベルは毎年上がっていると思います。その理由はやっぱり、ヨーロッパでプレーしていた人たちが移籍してくることが一番だと思いますね。でも、まだまだ発展途上のリーグです。

――これからMLSに挑戦する日本人選手に期待したいことは?

遠藤 日本人が増えればMLSの知名度も高くなると思いますし、目指す人が増えるのは良いことだと思います。でも、ただ漠然と来ても意味はないと思います。「自分の特徴は何なのか?」ということを理解して、どうやってチームにフィットするのかも考えた方が良いです。

――リーグ内でチームの特徴は分かれますか?

遠藤 分かれますね、はっきりと。「このチームはこういうサッカーをする」ということを分かった上でMLSに入るなら歓迎したいですね。でも、まだ僕は1年目なので、偉いことは何も言えないです。僕も学ぶことがたくさんあるので。

インテンシティの強さを求められるMLSの戦いに挑み、5月のFCダラス戦ではプロ初ゴールをマークした [写真]=Getty Images

5月のFCダラス戦ではプロ初ゴールをマーク。インテンシティの強さを求められるMLSの戦いの中で着実に成長を見せている [写真]=Getty Images

■トロントFCで試合に出続ければ代表入りのチャンスもある

――遠藤選手の日本代表への思いは?

遠藤 もちろん、日本人として代表でプレーしたいという思いはあります。そのために、チームでしっかり先発して結果を出す。チームメイトたちもそうやって代表に選ばれているので、僕にもチャンスはあると思います。僕はトップ下かウイングですが、裏に抜ける動きはチームで一番だと思っているので、そういう動きや、クロスの精度の高さで勝負したいです。

――日本代表でも試合に出ていない海外組を使うのか、試合に出ているトップコンディションの国内組を使うのか、という点が問題となることがあります。

遠藤 難しいですよね(笑) 正解はないと思います。僕もプレーオフに入ってからは出場機会が少なくて自分の力が足りないと感じています。シーズン途中は試合に出られても、一番大事なところで出場機会がないのは、監督の信頼を勝ち得ていないという部分があると思います。(これまでの日本代表の海外組は)実績を残してきた選手たちですし、自分は監督の考え方は変わっても良いと思ってます。(日本代表の)ハリルホジッチ監督のようにその時の自分が正しいと思って選手を選ぶのは悪くないと思います。過去の実績だけ固執するのも良くないので。ただ、難しいですね、こればっかりは(笑) 正解がないから。色々な人の意見は尊重した方が良いと思いますけど。

――遠藤選手も代表に呼ばれるチャンスは十分あると思いますが

遠藤 この前(ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に)会いました。テレビの収録で僕の前にたまたま撮影していて、「MLSはちゃんとチェックしている」って言ってました。

――最後に、アメリカで生活していて日本語を忘れることはありますか?

遠藤 あります。1年に1回しか帰ってこないし、滞在時間も短いので。あとは日本人の友達がアメリカにいないので、日本語を話す機会がほとんどないですね。

――トロントFCに日本人のチームメイトが来ると良いですね。

遠藤 そうですね。それは楽しそうですね。でも、自分としては頼ってほしい部分もありますけど、自分自身で道を切り開いてほしいです。自分から飛び込んでどれだけやれるかということも大事だと思います。日本人が2、3人いたら、その人たちで固まっちゃうじゃないですか。僕の場合は大学で習ったから英語は大丈夫ですけど(笑)

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