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新たな日本代表監督像、共通点は“脱・カリスマ” 「フトシさん」の呼び名が表す選手との関係性とは

2023.08.10

なでしこジャパンを率いる池田太監督 [写真]=須田康暉

 池田太監督は、壇上に立ったままDF南萌華を見つめている。南は、スペイン語、英語、日本語の同時通訳が入るため答えきれなかったスペイン記者の質問に「答えて欲しかったみたいなんですが…」と配慮し、自分で回答すると申し出た。

 その優しさにスペイン記者たちから「幸運を!」と拍手が湧き、2人が揃って会見場を出ようとした時、隣でずっと南を待っていた監督が報道陣に壇上から大きな声で言った。

「ねぇ(南が)しっかりしているでしょう?」

 自慢気な監督に会見場が大きな笑いに包まれ、南は「フトシさんやめてください」とばかりに笑う。

 FIFA女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド グループステージ第3節スペイン戦の前日公式会見のこんな一場面に、今大会に入って一体感を強め、選手の個性を伸び伸びと表現させる『池田流指導論』が凝縮されていた。

前日会見での南と池田監督 [写真]=須田康暉

■“フトシさん”と呼ぶ選手と監督の“横の関係性”

 7月中旬に、ニュージーランドの南島の中心地クライストチャーチをキャンプ地として準備が始まった。選手たちが連日、取材に対応するなか気付くのは、誰もが「太さんとも話したんですが」とか、「太さんに指摘されて」と、監督を呼ぶ様子だ。日本では、女性が上に立つ男性をファーストネームで気軽に呼ぶ習慣はないはずだ。男性の場合も同じかもしれない。

 しかもワールドカップという高い緊張感と日々戦う大舞台で、選手から「太さん」と聞くたびに、選手が監督に対して「構える」必要がなく、コミュニケーションを取る、縦ではない横の関係性が浮かぶ。監督が率いた2018年のU-20ワールドカップ優勝メンバーも7人。ティーンエイジャーから世代をまたいで築いた距離感もある。

 2011年のワールドカップドイツ大会に優勝した際、佐々木則夫監督(今大会の団長)を何人かの選手たちが「ノリさん」と呼んだ。キャプテンの澤穂希、宮間あや、山郷のぞみといった日本女子サッカーをけん引したレジェンドともいえるメンバーたちを中心にした当時のチームとは違い、今回は10代2人も含み、若い選手が多い。

 佐々木団長は「2011年の代表は本当に豊かな経験を持った選手たちが中心で、試合ごとにチームが成熟していく感じでした。今回は、藤野選手(あおば、19歳)、浜野選手(まいか、19歳)、石川選手(璃音、20歳)と若い選手たちも加わり、成熟より、成長を実感するチーム作りを監督が非常にうまく進めている」と、池田監督が選手の成長を促していると評する。

 今大会、ゴールを奪うと選手がベンチに走り出すシーンも印象的だ。チームメートと喜び合い監督とも軽くハグする。これも監督と選手の関係を自然に映し出す。

 池田監督は「自分の指導で日々の成長を促しているといったことはなく、選手が自分たちで成長してくれている」と、自分の指導より2大会ぶりの8強進出の際に選手を称えた。

池田太

スウェーデン戦に向けて指導する池田監督 [写真]=須田康暉

■日本代表監督の新・流儀は“脱カリスマ”

 興味深いのは、昨年から続く、国際大会で「日本代表」に成果をもたらしたサッカーの森保一監督、WBC優勝を果たした野球の栗山英樹監督、そして池田監督にも“脱カリスマ”という共通項がある点だ。

 2022年11月のワールドカップカタール大会では、森保監督のマネジメントに注目が集まった。グループステージ初戦でドイツ、3戦目にスペインと対戦。突破は難しいと思われながら、結果的にワールドカップ優勝国でもある2カ国を倒して、グループ首位で決勝トーナメントに進出した。

 監督は、「代表チーム」にいかにプラスになるかを選手、スタッフが議論、検討して実行できるかに重点を置く。

「そもそも自分にカリスマはありませんから、自分を無理に演出するのも、知らない事を知っていると振る舞うのもできません。欧州でプレーする選手がほとんどの中、すぐに分かってしまいますから」

 森保監督はそう話して来た。

 代表選手が活動を終えてホテルを離れる時には、深夜、早朝関わらず見送った。

「チームに貢献し監督に応えたいと思うようになった。奮い立たせてもらった」と、吉田麻也主将は話している。

 栗山監督も、自身のカリスマ性を否定していた。「自分にはカリスマはないので、とにかくMLBにいる選手たちのチームを自分の足回って、一緒に戦って欲しい、力を貸してくれと頭を下げました。何かつくろってもMLBで経験のある選手たちに通じるわけがありませんから」と大会後に振り返った(書籍『キャプテン! 日本のスポーツ界を変えた男の全仕事』川淵三郎氏との対談より)。「選手を信じる」は今年のキーワードだ。

 昨年から国際大会で日本代表を指揮した監督3人とも、「信じてもらった思いに応えたい」と、選手が思うまで寄り添い、勇気付ける。

ノルウェー戦後、円陣を組んで勝利を喜ぶなでしこジャパン [写真]=須田康暉

■寄り添うから“後押し”へ 池田流指導論とは

 今大会5得点を獲得して一躍「スパイクを履いたシンデレラ」となった宮澤ひなたもU-20ワールドカップ優勝メンバーの1人だ。ザンビア戦での初ゴールの際、池田監督に駆け寄った。

「太さんには点を取れない時もずっと変わらず声をかけてもらっていた。(ザンビア戦の初得点で)ありがとうございました、と言ったと思います」と振り返る。

 29歳で初のワールドカップ代表メンバーに選出され、2戦目のコスタリカ戦でゴールをあげた猶本光も、選手に駆け寄った後、監督とも喜び合った。

「いい時も悪い時も変わらない。普段の代表活動でもワールドカップでも変わりません。チームが落ち着いて大会に入れたのは、それも大きかったと思います」と話す。縦より横の関係の安定性を選手も理解している。

 準々決勝のスウェーデン戦を前に、フィールド選手では、大会前に肩を痛めてリハビリを続けた浜野以外全員がピッチに立ち、得点者も7人と、他の出場国にも例がない人数だ。

「太さん」と選手が築いた横の組織の強さの証といえる。

 4強進出への準備をするなか、監督は成長を続けるチームの理由(わけ)を「こちらから話したアドバイスや指示をそのまま受け入れるだけではなく、選手間で話してこちらに持ってくることもあるし、反対に規律はしっかり守る。こうしたコミュニケーションのバランスがとても良いと思う。それぞれが非常にいい準備をしてくれて、我々はそれを後押ししている」と表現した。今大会、監督の言葉に“後押し”が多く登場する。

 寄り添うから、さらに後ろから支え、前へと後押しする。

 池田流の極意だろうか。

取材・文=増島みどり

By サッカーキング編集部

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