2018.06.14

常連ドイツのW杯、盛り上がりには複雑な歴史と愛国心

海外在住日本人によるタウン・コンシェルジュサービス「トラベロコ」運営オウンドメディア

 2018年ワールドカップ、はじまりますね! そこで海外ZINEでは、世界各地のサッカー事情について調査&レポート。恐ろしいまでの連続出場記録を持つ、常勝国・ドイツ。もちろん毎回盛り上がる訳ですが、もしかしたら応援のモチベーションには、「ふだんは表立って表しづらい愛国心」が深く関わっているのかもしれません。それってどういうこと? ご覧ください!

記事執筆・提供=久保田 由希/「海外ZINE」編集部

■16大会連続ベスト8進出のぶっちぎり記録を持つ国、ドイツ

 えっと私、ドイツに15年間住んでいますが、全然サッカーファンじゃありません。スタジアムで試合を見たことも、これまでに一度しかありません。ですから、サッカーについて書く資格などこれっぽっちもないことは、百も承知です。でも、世界各国のライター陣が参加する『海外ZINE』でサッカーワールドカップを取り上げるとなれば、ドイツ在住者としても参戦せねばなるまいと思ったんです。

©Marcello Casal Jr/Agência Brasil

 なんせ2014年までのワールドカップでドイツが優勝した回数は、西ドイツ時代を含めれば4回、ベスト8進出に至っては16大会連続だそうじゃないですか。2000年に入ってからの成績は2002年準優勝、2006年(開催国ドイツ)3位、2010年3位、そして2014年は優勝しています。

 これはまさに、ワールドカップの常連国。当然ながら(ドヤ顔な表現ですね)、今年2018年の大会にも出場します。ですからド素人なりに、サッカーとワールドカップについて書くことをお許し願いたいと思います。

■素人でも感じる、サポーターと選手層のアツさ

 サッカーは、間違いなくドイツの人気ナンバーワン・スポーツと言えるでしょう。国内プロサッカーリーグとしてはブンデスリーガがあり、1・2部合わせて36のクラブが加盟しています。強豪は「バイエルン・ミュンヘン」、「ボルシア・ドルトムント」、「バイエル・レバークーゼン」、「FCシャルケ04」あたりでしょうか。香川真司、長谷部誠、原口元気など、多くの日本人選手がブンデスリーガでプレーしているので、サッカーファンでなくても身近に感じている日本人も多いことと思います。

バイエルン・ミュンヘンのサポーターたちによる応援(©rayand)

 ベルリンには、たまに2部リーグに落ちることもある「ヘルタ・ベルリン」があり、ここでは原口選手が活躍していました。「ヘルタ・ベルリン」のホームは、1936年にベルリンオリンピックのメイン会場として使われたベルリン・オリンピアシュタディオン(ベルリン・オリンピックスタジアム)で、ベルリン西部に位置しています。

ヘルタ・ベルリンのホーム、オリンピアシュタディオン

 オリンピアシュタディオンで試合がある日は、すぐにわかります。なぜならファングッズに身を包んだサポーターたちが、スタジアムまで走る地下鉄へとドヤドヤ乗り込んでくるから。一部のサポーターは試合前から士気が高まっており、大声で歌いながら車内に入ってくるので、普通に乗っているこちらも気分はさながらスタジアム。ドイツの成人男性の声は野太く、地響きのような歌を聞いていると、ちょっと怖くなったりもします。

オリンピアシュタディオンの近くでファングッズが売られていました

 子どもたちにもサッカーは身近な存在です。ドイツでは学校の部活動はなく、小さいうちから地域のクラブチームに入ります。ドイツにはブンデスリーガの下にアマチュアチーム、ジュニアチームが全国に存在していて、どこでも経験のあるコーチに教わるそうです。もちろん子どもたち全員がプロ志向というわけではありませんが、幼少時からきちんと組織化されたチームでサッカーに親しむことは選手層の厚さにつながりそうです。こうした仕組みが、ワールドカップ常連国の秘訣なのでしょうか。

■パブリック・ビューイングから街頭テレビまで、街中で観戦できる

 試合というのは、部屋でひとり観るのもいいかもしれませんが、大勢で観戦するとより楽しかったりするものです。そこで登場するのが、パブリック・ビューイング。

 ベルリンでは、広大なティアガルテン公園内に横たわる「6月17日通り」という広い道が、ワールドカップの期間中に「ファンマイル」という名称で全長約2kmに渡りまるまるパブリック・ビューイングに変身し、連日人が押し寄せます。

ふだんの6月17日通り(©Lotse)

 東京のように人口が密集していない、スカスカしたベルリンに慣れた身には、この人混みは驚異的。いったんその中に入ってしまうと出るに出られなくなりそうなので、私は行ったことがありませんが、きっと開催地と同じ、いやもしかしてそれを凌ぐような熱気があるのではないかと思います。これ以外にも、パブリック・ビューイングは各地にオープンしています。

 パブリック・ビューイングだけじゃありません。街の飲食店も、この期間だけはどこから借りてきたのか大型テレビを設置します。路上のテラス席に置かれたテレビに道行く人も思わず足を止めるので、そこかしこが街頭テレビ状態に。

 冒頭に書いたように、私はサッカーファンではないので試合を見ないことも多いのですが、ドイツが得点すると誰かが爆竹を鳴らしたりするのですぐにわかります。試合日にバンバン音がしたら「あー、いまゴールしたんだなー」と思います。

■歴史から解き放され、ドイツ国民が自国を応援できる機会

 ところでこれはまったくの私見ですが、ドイツは自国のPRがとても苦手だと感じています。いいものはたくさんあるのに、宣伝しないのでほかの国に全然知られていません。ドイツ人は「◯◯ならベルリンだよ」「やっぱりバイエルンは◯◯」などと地域愛にはあふれていますが、ドイツという国単位だといきなりおとなしくなる気がします。ドイツは地方分権の連邦国家ですし、第2次世界大戦の歴史から、国を主張することがためらわれるという心境もあるでしょう。

 でもワールドカップは、国同士が競うもの。多様な社会であろうとするドイツにおいて、ワールドカップは自国を素直に応援できる機会です。この時期は、ドイツカラーの黒・赤・金(じつは黄色ではなく金色なんです)の国旗が至る所ではためいています。車にも小さな国旗がヒラヒラ。ふだんなら、国のシンボルである国旗を派手に振れば、脅威と感じる人もいるかもしれません。ワールドカップ期間中だからこそ、堂々とドイツ国旗を手にできるのだと思います。

ドイツに多いトルコ系移民。トルコとドイツが戦う日もありますが、両国の国旗を掲げて友好ムード

 印象的だったのは、2014年大会でドイツが優勝した瞬間。あちこちで歓喜の爆音が鳴り響いたことで優勝を知った私は「ちょっと様子を見に行くか」と、外に出てみました。

 すると近くの駅にはどこからともなく人が集まり、あっという間に道路を埋め尽くすほどの人だかりに。当然ながら交通は麻痺し、路面電車は走行をあきらめていました。

右側に写っている路面電車は走行を続けられず、この後バックして帰っていきました

 国旗を翻し、ハグをし、大声で優勝を喜ぶ人々を見て、ファンでない私もこの瞬間に立ち会えたことがなんだかうれしくなりました。いつもならちょっと怖くなる野太いエールと歌声にも、この日は笑顔に。さぁ、もうすぐ2018年ワールドカップ。今年はどんな光景が見られるでしょうか。

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海外ZINEは、世界中のカルチャーショックを紹介するウェブマガジンです。サッカー事情のほか、「韓国では雨の日にチヂミを食べる」「アフリカの少年はみんなだいたいバク転できる」「ミャンマーのバスにはお坊さん優先席がある」といった、その国独自の文化や習慣を幅広いジャンルで、現地に詳しい日本人ライターがお届けします。

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