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【コラム】その強さ、圧倒的…ドイツが“ジンクス”覆し南米の地で王座返り咲き/2014年 ブラジルW杯

南米の2強を下したドイツが優勝を飾った [写真]=FIFA/FIFA via Getty Images

 人々の記憶の中でブブゼラの音が鳴り止まぬ南アフリカでの熱狂から4年、再び南半球で地上最大の祭典が開かれることになった。ワールドカップが南米大陸にやって来たのである。南米開催は1978年アルゼンチン大会以来、実に36年ぶり。しかも、大会のホストは世界に冠たるサッカー界の「王国」だった。ブラジルである。もっとも、当の国民はそれを手放しで喜んでいたわけではない。本大会の1年前、公共料金の値上げに対する抗議運動に端を発したデモが全国規模へと広がり、やがて怒りのマグマは金と権力を牛耳るエスタブリッシュメント(既得権益層)に向かって爆発していた。時の政府は社会福祉の充実などには目もくれず、巨額の公的資金をワールドカップの費用に投じていく。インフレ、物価上昇、重税に嫌気がさしていた国民からすれば、そこに金を使っている場合か――というわけである。

 これに慌てたお偉方は祖国の「生ける伝説」であるペレやロナウドにすがり、大衆の怒りを静めるメッセージを発信させたが、火に油だった。偉大なストライカーから政治家へ転身していたロマーリオは「あいつらは何も分かっちゃいない」と、悪代官にまんまと利用された英雄たちを、ばっさり切り捨てている。かくしてブラジルは必ずしも「挙国一致」の状態で大会の開幕を迎えていたわけではない。この異変は何やらセレソンの悲しい結末を暗示していたかのようだった。

 大会自体も序盤から異変続き、波乱に満ちていた。最大の驚きは王者スペインの「早すぎる敗退」だろう。前線にロビン・ファン・ペルシーとアリエン・ロッベンという強力な決め手を持つオランダに1-5という衝撃的なスコアで惨敗すると、2戦目も南米の刺客チリに0-2と敗れ、3戦目を待たずに連覇の夢が潰えた。前回大会で鮮やかな「ブロック崩し」で天下を取った金看板のパスワークが、マンツーマン気味に張りついて肉弾戦に持ち込むオランダとチリの激しい守りに寸断されて、何度も逆襲を浴びている。辛うじて3連敗は免れたものの、失意のまま帰国の途についた。

ロビン・ファン・ペルシー

ファン・ペルシーの一撃などでオランダが前回王者に快勝 [写真]=FIFA/FIFA via Getty Images

 悲惨と言えばアジア勢だろう。日本、韓国、イラン、オーストラリアの4カ国が早々と大会を去ることになったからだ。しかも、1勝すらできずに敗退の憂き目に遭っている。アジア王者の日本はアルベルト・ザッケローニ監督の下でポゼッションプレーに磨きをかけ、列強に挑んだものの、結果は1分け2敗。腰の引けた戦いぶりでコートジボワールの逆襲を招いた初戦の逆転負けが、大きく響いた格好だ。

 アフリカ勢も振るわなかった。報酬の支払いを巡って、選手側と協会側が対立する構図は相変わらず。前回大会ベスト8のガーナに至っては、ケヴィン・プリンス・ボアテングとサリー・ムンタリが規律違反で追放され、チームは内側から崩壊していった。そうした中、初めて2カ国(アルジェリアとナイジェリア)が決勝トーナメントへ進んだが、ベスト16止まり。ポジティブな話題と言えば、大国ドイツを延長まで引きずり込んだアルジェリアの健闘くらいだろう。

 そして大方の予想通り、大会を盛り上げたのは、ベスト16の半数を占めたラテン・アメリカの国々だった。中でも、世界をあっと言わせたのがコスタリカだ。初戦でウルグアイの寝首をかき、第2戦でもイタリアの足をすくうジャイアントキリングの連続。歴代優勝国がひしめく『死のグループ』を1位で勝ち抜き、人々の度肝を抜いた。守護神のケイラー・ナバスを後ろ盾に5-4-1の人海戦術で穴をふさぐ鉄壁のディフェンスは番狂わせの演じ手ならでは。そこにブライアン・ルイスを軸にした鋭いカウンターアタックを絡めて、ベスト8の一角に食い込んでみせた。

 そのコスタリカにお株(堅守速攻)を奪われた格好のウルグアイとイタリアは3戦目で潰し合い、前者に軍配が上がった。だが、イタリアDFジョルジョ・キエッリーニへの「噛み付き」が発覚した大砲ルイス・スアレスが大会から放り出され、チームもベスト16で姿を消している。そのウルグアイを破って初の8強に駒を進めたのが、同じ南米のコロンビアだった。戦況に応じて、遅攻と速攻、プレスとブロックを使い分ける巧みな試合運びに加えて、攻撃陣に新しい武器を持っていた。今大会で一躍スターダムにのし上がるハメス・ロドリゲスだ。いかにも南米風の「10番」で、ボールを扱う左足は魔法だった。今大会のベストゴールとも言うべきウルグアイ戦の先制点も、その左足から。胸トラップから素早い反転でボールの落ち際を叩いた会心のボレーは記憶のミュージアムに飾っておきたいシロモノと言えた。日本戦の2得点を含め、通算6ゴールを記録したハメスは今大会の得点王を獲得する。しかし、そのハメスをもってしても準々決勝の壁は厚かった。いや、王国の壁と言うべきか。ブラジルである。スコアは1-2。ハメスのPKで1点を返すのが、やっとだった。位負けと言ってもいい。決勝トーナメント1回戦でPKの末に手ごわいチリを蹴落としたセレソンが、若いコロンビアに格の違いを見せつけた格好だ。

 だが、ホスト国に絶対的な強さがあったわけではない。タレント不足にあえぐ攻撃陣に至っては、ハメスと同じ22歳の魔法使いにすべてを委ねていた。ネイマールである。コロンビア戦の終了間際、そのネイマールを悲劇が襲う。背後からフアン・スニガのヒザ蹴りを食らい、負傷退場。ほどなく脊椎骨折の診断が下され、残り試合の出場が絶望となった。さらに最終ラインを束ねるキャプテンのチアゴ・シウヴァも警告累積で準決勝は出場停止に。こうして、あの衝撃的な『ミネイロンの惨劇』が起きたのである。

ドイツ代表

準決勝で衝撃のスコア [写真]=FIFA/FIFA via Getty Images

 1-7。記録的なスコアによる惨敗だった。鳴かず飛ばずのカナリア軍団は準決勝で一敗地にまみれ、ファイナルへの道を閉ざされることになる。カーニバルの終わりだった。手負いのブラジルを容赦なく痛めつけ、楽々と決勝への切符を手にしたのがドイツだ。その戦いぶりは、押してよし、引いてよし。そこに速さ、強さ、高さ、巧さの四要素をてんこ盛りにした、今大会の最強チームだった。金髪の司令塔トニ・クロースを軸にロングレンジの対角パスを織り込むパスワークは敵の守備ブロックを外側から破壊している。そして、最後尾にスイパーを兼任する守護神マヌエル・ノイアーを擁し、まさに11人で攻め、11人で守るスタイリッシュなサッカーを展開していた。

 ブラジルの消えた決勝で、最強ドイツに挑んだのが南米最後の砦となったアルゼンチンだ。その戦いぶりはドイツとは実に対照的。攻めも守りも、傑出した個の力に依存していた。いかにリオネル・メッシの魔法を引き出すか。このたった一つのコンセプトに基づき、決勝まで勝ち上がっている。決勝トーナメント以降はスイス、ベルギー、オランダのヨーロッパ勢を仕留め、あとは「ラスボス」を倒すだけだった。だが、アルゼンチンもまた、手負いの状態にあった。準々決勝で負傷したアンヘル・ディ・マリアが戦列を離れ、ケガを抱えたセルヒオ・アグエロはベンチを温める身。さしものメッシも以心伝心の相棒を失って、マジックの使いどころに腐心する。準決勝でオランダの韋駄天ロッベンの突破をことごとく阻んだハビエル・マスチェラーノを軸に守備陣が粘り、延長に持ち込んだが、最後はマリオ・ゲッツェの一発に沈んでいる。ドイツに敗れて大会を終えるのは、これで三大会連続となった。

 ブラジル、アルゼンチンという南米の両大国を破ったドイツの強さは圧巻の一語。1990年イタリア大会を最後に四半世紀近く遠ざかっていた王座に、ようやく返り咲いた。なお、ヨーロッパ勢が南米大陸の大会を制するのは、これが初めてのことだった。準決勝で倒れたドイツ大会から8年、先代ユルゲン・クリンスマンの跡目を継いで、再建プロジェクトを実らせたヨアヒム・レーヴ監督は最後に胸を張った。

「我々こそ、今大会でベストのパフォーマンスを見せたチームだ。それだけは間違いない」

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