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【コラム】トッティ引退にふさわしい花道は用意されるのか

2017.05.09

40歳のレジェンド、トッティ。今シーズンを最後にスパイクを脱ぐ [写真]=AS Roma via Getty Images

 ローマのシンボル、フランチェスコ・トッティが今シーズン限りで20年間の選手生活に別れを告げる。自身も今年に入ってから、引退か他国のリーグでプレーヤーとして現役を続けるか、フロント入りするかを決めかねているとコメントしていた。今回の「今シーズン限りで引退」の発信源は、ローマのスポーツディレクターに就いたばかりのモンチ氏だった。

 同氏がトッティの現役生活の終止符を宣言し、「テクニカル・ディレクターとしてモンチ氏をサポートしてほしい」というのがクラブ側の意向だ。この引退ニュースは瞬く間にヨーロッパ中を駆け巡り、バイエルンは公式サイトで「可の輝かしい経歴に、キャプテンへ」と功績を称え、ヘルタ・ベルリンも「ミッレ・グラツィエ(ありがとう)、トッティ」とイタリア語で感謝した。またイギリスメディア『BBC』は「ローマのレジェンドが夏に引退」、フランス紙『レキップ』も「トッティ、ローマにアリベデルチ(さようなら)」と別れを惜しんだ

 さらに、背番号10を永久欠番にするクラブの方針に関しても、賛否両論が巻き起こった。トッティはこれまでに自身のブログやインタビューで、「ローマの背番号10は私の第二の肌のようなもの。誇りを持っている。ただそれが永久欠番になった場合、ローマの10番に憧れるサッカー少年たちの夢を壊してしまうことになる」と思いやっていた。まだ完全な結果は出ていない。

 7日、引退が報じられてから最初の試合であるミラン戦をサン・シーロ・スタジアムで迎えた。選手紹介のアナウンスでその名が呼ばれると、会場には大きな拍手が響き渡り、なかなか鳴りやまなかった。敵、味方は関係ない。5万4022人の観客全員が、ミラノで最後となるであろうトッティの姿をピッチで見たいと切望していたのだ。

 これを台無しにしたのが、ローマのルチアーノ・スパレッティ監督だった。試合は前半にFWエディン・ジェコの2ゴールでリード。後半にミランが1点を返したものの、ローマはFWステファン・エル・シャラウィのゴールで3-1と余裕の試合運びを見せていた。交代枠があと1人となった残り6分のこと。DFブルーノ・ペレスが出場しようとする“信じられない光景”に、観客は怒りを爆発させた。ローマのサポーター席からは「C’e solo un capitano(唯一のキャプテンを)」とトッティを要望するコールが沸き起こり、スタジアムが共感の空気に包まれた。テレビカメラは静かに微笑むベンチのトッティの表情を映した。

 結局、ナルシストなスパレッティ監督は自分よりも注目されるトッティが気に入らなかったのだろう。まったく器の小ささを感じさせるエピソードだ。

 指揮官は試合後にこんな言葉を残している。

「私は落ち着かなかった。これまでも残り数分で2失点したこともあったし……そう、いつも私が批判される。これ以上どうしたらいいか分からない」

 同情をひこうとしたのだろうが、メディアからは失笑を誘っただけ。昨春、トッティとスパレッティ監督の不仲が明らかになったことを思い出した。試合展開を見ていても、両チームの力の差は明らかだったからだ。

 アレッサンドロ・デル・ピエロやパオロ・マルディーニら生涯一クラブを貫き通した選手が、また一人消える。スパレッティ監督が今後、指導者としてどんな偉業を成し遂げたとしても、人々の記憶により強く温かく残るのはローマの背番号10の姿に違いない。クラブが最後にできるのは、選手としてのキャリアだけでなく、多くの人々に愛されたトッティにふさわしい花道を用意することではないだろうか。

文=赤星敬子

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