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「欧州カップ戦出場権を争う」 エスパニョールファンが今季に期待する理由

2016.08.31

声援を送るエスパニョールのサポーター [写真]=Getty Images

 あるペリコが言う。

エスパニョールは歴史がある。同じ街にバルサ、ビッククラブがある。だからエスパニョールが、アトレティコ・マドリードみたいになってもおかしくない」

 たしかに彼の言うとおりだ。天変地異が起きないかぎり、ホームタウンで第2のクラブというポジションは、今後数十年間は変わらないだろう。とはいえ、エスパニョールはスペインでも有数なクラブの1つであることも事実だ。これまでの主な戦績は国王杯4度。ヨーロッパリーグ(かつてはUEFAカップ)で2度の決勝進出。欧州でのタイトルもなければ、リーガ・エスパニョーラ制覇の経験もないが、クラブを熱心に支えるペリコ(インコの意味)と呼ばれる多くのサポーターがおり、創設された年は1900年と今シーズンの1部チームの中で4番目に古い。本拠地が欧州でも随一の都市で、同じ街に巨大なライバルがあり、サポーターが多く、そして歴史がある。戦績さえ上向けば、欧州でも注目を集めるクラブとなる素質を備えている。

 その潜在的な可能性に投資する価値を見出したのか。昨年11月に中国企業のラスターグループがエスパニョールを買収。同グループの会長であるチェン・ヤンシェンが今年1月にエスパニョールの会長に就任した。僕の周りにいるペリコは新会長の就任を喜んでいた。なぜなら新会長はクラブの株式を54パーセント手にすると、毎年赤字経営で1億8500万ユーロ(約209億円)に膨らんでいた負債を完済。さらに今年6月30日の役員会で承認を経て、クラブに1億5000万ユーロ(約169億円)を増資し、6900万ユーロ(約78億円)の現金をつくり、経営を安定させた。

 チェン・ヤンシェン会長は就任会見で「3年以内にチャンピオンズリーグ出場」と公言した。その意思に偽りはないようだ。前会長コジェットは過去38カ月で440万ユーロ(約5億円)を補強に使ったが負債を返すために主力選手を中心に放出し、3850万ユーロ(約43億円)を手にした。中国人新会長は今年7月末までに選手を誰も売却せず、一方で補強に880万ユーロ(約10億円)を使った。約半年で前任者の2倍の投資だ。さらに今夏の移籍市場では約400万ユーロ(約4億5000万円)を加え、使われた補強費は最終的に合計で1200万ユーロ(約14億円)となり、トップチームの人件費は3000万から3500万ユーロ((約34億から40億円)になるとスペイン紙『アス』は伝える。

 指揮官にはバレンシア、ベンフィカ、ヘタフェを指揮し、アトレティコ・マドリードの監督在任時にはヨーロッパリーグを勝ち取ったキケ・サンチェス・フローレスを招へい。昨シーズン、ビジャレアルで活躍したFWレオ・バチストン、バレンシアのFWパブロ・ピアッティ、MFハビ・フエゴ、セビージャの元スペイン代表MFホセ・アントニオ・レジェス、オリンピアコスのGKロベルト、マンチェスター・Cの元アルゼンチン代表DFマルティン・デミチェリスなど派手さはないが、経験を持つ即戦力を集め、勝点を積み重ねられるチームづくりを進めている。ペリコは毎夏、「お金がないから誰も補強できない」と言っていた。今夏はそんな恨み節ではなく「見たか、ハビ・フエゴ“も”獲得したぞ」と言う。この「も」にペリコの期待が見て取れる。

 期待は例年になく高まっているが、ペリコはまだディフェンスに難があると見ていた。そしてリーガ開幕戦で予感的中、セビージャ相手にアウェーで6-4と敗れた。乱打戦でやはり目についたのは、サイドバックを含めたディフェンス陣の脆弱さだ。新加入のGKロベルトは再三ファインセーブを見せたが、彼1人で守るにも限界がある。31日までにサイドバック、センターバックをさらに補強する必要性が浮き彫りになった。ただ例年とは違い、資金はある。チームは8月31日までにきっちりと新たな選手を連れてきて、ペリコの不安は解消されるはずだ。

 あるペリコは確信している。

「今シーズンのチームは、欧州カップ出場権を争う」

文=座間健司

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