2016.08.19

【リーガ開幕展望】セビージャ 攻撃サッカーへの大転換、清武に求められるバランサーとしての役回り

「フットボール」と「メディア」ふたつの要素を併せ持つプロフェッショナル集団を目指し集まったグループ。

 セビージャは今シーズンから新たなサイクルに突入する。その象徴が、監督交代だ。昨シーズン、ヨーロッパリーグ3連覇という偉業を達成したチームを作り上げたウナイ・エメリは、パリ・サンジェルマンへ転職。代わって、新監督に就任したのが、アルゼンチン人指揮官のホルヘ・サンパオリである。2015年にはチリ代表を率いて自国開催でのコパ・アメリカを制覇。これが欧州初上陸とはいえ、あのペップ・グアルディオラと親交があるなど、サッカー界では一目置かれる存在だ。

 ボスが代われば、チームカラーも変わるのは当然のことである。とはいえ、セビージャの場合、まさに“180度”の大転換となる。

 まず、サッカースタイルが一変した。エメリが率いた頃のチームの主戦術はカウンターだった。アトレティコ・マドリードのように、守備が鉄壁というわけではなかったが、ボールを奪った後にサイドを起点として素早く攻めるという点は一貫していた。また、190cm近い大柄の選手をトップ下に置くなど、フィジカルを生かしたサッカーを展開するのも特徴の1つだった。

 しかし、サンパオリが求めるのは、真逆のスタイルである。いわゆる、バルセロナのようなパスサッカーだ。GKであっても味方の足元にショートパスを出すことが優先され、自分たちで積極的にボールを動かしていく。つまりセビージャは今季、それまでの「受け身のサッカー」から、「攻めのサッカー」へ大きく舵を切ることになる。

サンパオリ新監督はカウンターから、ポゼッションへ戦術の大転換に踏み切った[写真]=Getty Images

サンパオリ新監督はカウンターから、ポゼッションへ戦術の大転換に踏み切った[写真]=Getty Images

 そのためには、サンパオリが志向するスタイルに合致する選手が必要になり、今夏獲得した選手たちはテクニシャンが多勢を占めた。そのうちの1人が清武弘嗣であり、その他の新戦力の顔ぶれを見ても同じタイプの選手たちが並ぶ。実際のところ、清武を始めとして、ガンソ、パブロ・サラビア、ホアキン・コレアはいずれも、前所属チームで10番を背負っていた。

 キャラクターが似ている選手ばかりを獲得したことに「偏った補強」という声もある。だが、それも全てサンパオリが目指すサッカーを実現するため。むしろ、欧州屈指の敏腕スポーツディレクターとして知られるモンチ氏は、よくこの短期間で新指揮官が好みそうな選手をかき集めてきたと言うべきだろう。

 では、サンパオリは腕利きの仲買人が買い集めた素材(=選手)を、どのように調理して、チームという一皿に仕上げるのだろうか。

 システムに関しては、3バックと4バックが併用されそうだ。サンパオリと言えば、チリ代表監督時代に多用した3-1-3-3のイメージが強いが、相手や戦況によって様々なシステムを使い分ける柔軟性を持つ。先日行われたUEFAスーパーカップやスーペル・コパ2016でも、4バックでスタートしたかと思えば、試合途中で3バックに変更するなど型にこだわらない采配を見せた。セビージャには最終ラインを3人でカバーできるほどスピードに長けたDFがいないため、4バックで臨む試合が多くなりそうだが、システムは試合展開次第でいかようにも変わりそうだ。

テクニシャンを数多く補強したセビージャ。スタイルの変換が成功するのか注目される [写真]=Getty Images

テクニシャンを数多く補強したセビージャ。スタイルの変換が成功するのか注目される [写真]=Getty Images

 そのため、現時点で「不動のレギュラー」と呼べるような選手はほとんどいない。間違いないのは、自陣のゴールを守るのが、スペイン代表GKのセルヒオ・リコということくらいである。

 1トップを争うのは、共に新戦力のルシアーノ・ビエットとウィサム・ベン・イェデル。ビジャレアルとアトレティコ・マドリードに在籍歴のある前者の方が、リーガの経験値で上回っているためにスタメンの座を確保する可能性は高いが、セビージャにおいてはどちらもゼロからのスタートになる。また中盤も、同タイプの選手が混在していることから、現状は「横一線」。最終ラインは前述したように、採用するシステムによってメンバー構成が大きく変わる。そもそも、新監督就任によってチームのスタイルが大きく変わったため、ベストメンバーが固まるまで、ある程度の時間を要するのは当然のこと。しばらくの間は現地記者でさえ予想スタメンを考えるのに苦労するはずだ。

 そんな中、注目の清武は公式戦ここまで2試合にフル出場を果たした。怪我でチーム合流が遅れたことを考えれば、まずまずのスタートダッシュを切れたと言える。しかし、なかなか決定機を作り出すことができず、現地メディアからはそれほど高い評価を受けていない。攻撃的な選手である以上、ゴールやアシストがなければ、厳しい目で見られるのは当然だろう。

 とはいえ、モンチSDが“今季のサプライズ選手”に「キヨタケ」の名前を挙げたのは、決してお世辞ではないはずだ。実際、そのプレーぶりを見ていると、多少のミスはあるものの、的確なボールタッチとタイミングの良いパスでゲームに良いリズムを生み出している。また、献身的な守備やパスコースを作る動きなど、ボールのないところでの動きの質は他の選手と比べても見劣りしない。確かに相手に脅威を与えるようなプレーは少ないが、すでにセットプレーのキッカーを任されていることから、チーム内での信頼度はかなり高いようだ。

 もしかしたら、サンパオリは清武に“10番”としての働きは求めていないのかもしれない。バルセロナの選手に例えるならば、アンドレス・イニエスタというよりも、シャビやイヴァン・ラキティッチのようなバランサーとしての役回りを期待しているように見える。サンパオリはこれまでのキャリアで、いわゆるポリバレントな選手を好み、柔軟性、運動量、創造性をいずれも兼ね備えている清武のような選手を重宝してきた監督である。それ故、ゴールに直結する仕事は他の選手に託し、清武にはチームの潤滑油になってもらいたいという意図が垣間見える。

バネガに代わる司令塔として加入した清武だが、バランサーとしての役割も求められている [写真]=Getty Images

バネガに代わる司令塔として加入した清武だが、バランサーとしての役割も求められている [写真]=Getty Images

 問題は、そのプレーぶりがファンやメディアに受け入れられるかどうか、という点にある。もともと清武は、今夏に退団したアルゼンチン代表MFエベル・バネガの“後釜”という触れ込みで、セビージャに加入した。バネガも純粋なトップ下というよりはゲームを組み立てる能力に秀でた選手だが、直接FKでゴールを奪うなどチームの結果に直結する働きを見せていた。そのため、清武にも同じような活躍が期待されている。しかし、現状はどちらかというと“つなぎ役”に徹しているため、存在感がやや希薄で評価しづらい選手となっているのだ。

 それは同時に、チームとしての課題でもある。サンパオリのやりたいサッカーは、ここまでの数試合で十分すぎるほど伝わってきた。バルセロナのルイス・エンリケ監督も、セビージャの新スタイルに賛辞を送る1人である。とはいえ、UEFAスーパーカップでもスーペル・コパ2016でも準優勝に終わり、タイトルはおろか、1勝も挙げられないままリーガ開幕を迎えることになった。「相手が悪かった」というのはもっともな理由だが、それでも結果を残せなかったという事実は変わらない。

 昨シーズンまでのセビージャは、サッカーの内容はつまらなくても、「勝てるチーム」だった。一方、今シーズンは勝利を追及すると同時に「魅力的なチーム」になることを目指している。ただし、見た目は良くても、勝利の美酒を味わう機会を奪われるなら、“熱しやすく冷めやすい”ことで有名なメディアやファンが黙ってはいないだろう。

 果たして、サンパオリという船頭に率いられた新生セビージャはどんなシーズンを送るのか。清武の今後の活躍を含めて、彼らの動向からは目が離せない。

(記事/Footmedia)

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