FOLLOW US

【コラム】史上初、アマチュア2チームがFA杯16強進出――プレミア勢相手の次戦でも番狂わせに注目

2017.02.04

FAカップで5回戦へ進出したサットン・U(左)とリンカーン(右)

 136年目を迎えた世界最古のカップ戦、FAカップが今年も面白い。

 年が明け、イングランドサッカー界もシーズン後半戦を迎えるとともに、毎年プレミアリーグ勢が姿を見せるFAカップ3回戦が始まった。

 プレミア勢ありきのFAカップと見られがちだが、同カップはプレミアリーグから10部リーグの総勢736チームによって争われており、昨年8月の予備予選から予選が6回、プロリーグの3部と4部が参戦する本選1回戦、そしてプレミアリーグと2部が参戦する本選3回戦、さらに毎ラウンドで引き分ければ再試合と、下部リーグのチームにとってその道のりは果てしない。

 1月27日から29日にかけて行われた4回戦(16強決め)では、5部リーグのサットン・Uとリンカーンが、それぞれ2部のリーズとブライトンを1-0、3-1で撃破し、アマチュアクラブとして5回戦進出を決めた。5部以下の2チームが5回戦に進出するのは史上初の快挙となり、サットン・Uは史上初、リンカーンは115年ぶりの16強入りとなった。

ブライトンを破ったリンカーン [写真]=Getty Images

 中でも、最下層のチームとして生き残ったサットン・Uは、5回戦で同カップ12度の優勝を誇るアーセナルをホームで迎え撃つことが決まり、地元ファンは夢心地だ。5回戦進出決定時の順位に換算しても、その差は105位も離れており、まさにカップ戦ならではともいえる奇跡的なカードが実現した。

 史上初の16強入りを果たしたサットン・Uは、南ロンドンに本拠地を置く、客席数770席の小さなクラブだ。立見席を加えると、最大集客数は5000人まで可能だが、安全面での問題から、近隣スタジアムをレンタルする可能性も報じられた。しかし、サットン・Uのブルース・エリオット会長は「我々のホームはガンダー・グリーン・レーンだ。このスタジアムでプレーすることこそが、FAカップの醍醐味でもある。スタジアムを借りることはない」と、あくまで地元で試合をする姿勢を示している。

 最終予選から参戦する5部のチームが本大会5回戦に進出するまでには5回勝ち抜く必要があるが、各ラウンドで発生する獲得賞金額も特筆すべきだろう。同賞金は最終予選突破で12500ポンド(約170万円)、本選1回戦突破で18000ポンド(約250万円)、2回戦突破で27000ポンド(約380万円)、3回戦突破で67500ポンド(約950万円)、4回戦突破で90000ポンド(約1260万円)となっており、サットン・Uとリンカーンはこれまでに総額21万5000ポンド(約3010万円)を獲得した計算になる。これはアマチュアクラブにとっては宝くじを当てるほどの臨時収入となるのだ。

 4回戦で“ジャイアント・キリング(大物食い)”を達成した直後、サットン・Uとリンカーンの両サポーターはピッチになだれ込み、控室では選手たちがシャンパンとビールで歴史に残る大金星を祝った。普段は不動産開発業者として働くサットン・Uのポール・ドスウェル監督は、「人生の変わる一戦になる」と次戦を見据える一方、サットン・Uで主将を務める非常勤建設業者のジェイミー・コリンズは、「金曜まで普通に現場で働いていたから、夢みたいだ。ホームだったから勝てる気がした」と満面の笑みを浮かべた。

4回戦突破を喜ぶサットン・Uの選手ら [写真]=Getty Images

 俗に“セミプロ”と称される5部から10部のクラブの練習日は週2、3日と決まっているが、プロリーグ昇格を目指す5部の約半数のクラブはフルタイムで活動している。5部選手の平均月給は1100ポンド(約16万円)で、リンカーンがフルタイムで活動する一方、昨シーズン5部に昇格したばかりのサットン・Uは練習日がいまだ週3日と、ほかに仕事を持つ選手をプレーさせている状況だ。そんな背景を踏まえ、番狂わせを期待しながら今回の5回戦を楽しむのも一つの醍醐味と言えるだろう。

 2月18日から20日にかけて行われる5回戦で、サットン・Uはホームでアーセナルと、リンカーンはアウェーでバーンリーと対戦する。

文=藤井重隆

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

SOCCERKING VIDEO