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【プレミア開幕展望】マンチェスター・U モウリーニョ招聘と大型補強で常勝軍団復活へ

2016.08.14

 サー・アレックス・ファーガソンに27年間も指揮を任せてきたクラブが、その名将の勇退からわずか3年で4人目の監督をベンチに据えた。ただ、偉大な船頭を失って行き先を見失った名門クラブはやっと答えを見つけたのかもしれない。ジョゼ・モウリーニョの下で、本当の改革がいよいよ始まる――。マンチェスター・ユナイテッドにはいま、そんな機運が漂っている。

「私はチャンピオンになりたい。シーズンが始まる前から、トップ4が目標などと言うつもりはない。シーズンの中で、ポイント差によって王者になれないとわかった時点で初めて、次の目標がトップ4になるのだ」

 モウリーニョは言った。これぞ、イングランドの盟主たるこのクラブが持つべき姿勢である。マンチェスター・ユナイテッドは、成績も、パフォーマンスも、ピッチ内外での立ち居振る舞いも「普通」であることが許されない特別なクラブだ。そんな集団のボスに、「スペシャル・ワン」ほど適した人材はいないだろう。

 この3年間で失われてしまったものは、ファーガソンのチームが醸し出していた“無敵”の空気感や、対戦相手がユナイテッドに対して抱いていた“畏怖”だ。OBのフィル・ネヴィルはこう語る。

「再び嫌われるチームになってほしい。人々にマン・ユナイテッドを憎んでほしい。このチームに対して、対戦相手が再び怒りや恐れ、妬みを持つようになってほしいんだ」

モウリーニョ(右)とイブラヒモヴィッチ(左)はともに勝者のメンタリティーを強く持つ  [写真]=Getty Images

モウリーニョ(右)とイブラヒモヴィッチ(左)はともに勝者のメンタリティーを強く持つ [写真]=Getty Images

 モウリーニョには、ロンドンの青い古巣でそんなチームを作った実績がある。昨季のチェルシーで悪夢を見たとはいえ、その影響力やカリスマ性は間違いなく今も健在だ。それに、今回のチームには新監督のマスタープランにおいて要となる選手を2人も確保してある。それはもちろん、ズラタン・イブラヒモヴィッチポール・ポグバの2人。モウリーニョとはスクデットを獲得したインテル時代以来のタッグ結成となるイブラヒモヴィッチは、プレーした全リーグを制してきた根っからの「勝者」だ。かつてのキング、エリック・カントナを想起させる“オレ様ぶり”はさておき、勝ちにこだわり、常に高みを目指すハングリー精神は指揮官と通ずる部分があり、若い選手たちに勝者のメンタリティーを注入できる存在だ。

 一方で、歴代最高額の1億500万ユーロ(約119億円)と言われる移籍金で成立したポグバ獲得は、ユナイテッドの「格」やステータスを改めて誇示するいいメッセージになった。ポグバは16歳からこのクラブの下部組織で育った生え抜きで、12年夏にファーガソンの制止を振り切ってユヴェントスに飛び出した経緯がある。移籍金ゼロで手放し、他所で大成した選手を、これほどの額で買い戻すのはクラブの失態を認めるようなものだが、それを躊躇なく実行したのは本気でクラブを再建しようとする決意の表れだろう。

 もちろん大前提として、彼らの獲得にはフットボール的な側面でも計り知れない利益がある。ルイ・ファン・ハール監督の下で深刻な決定力不足に泣いたチームにとって、独力でスーパーゴールを決められるズラタンの存在は大きい。10月で35歳になるとはいえ、パリ・サンジェルマンで残したリーグ・アン122試合113ゴールという実績は説得力抜群。FAカップ王者として臨んだ8月7日のコミュニティーシールドではいきなりゴール前で圧倒的な存在感を見せつけ、1-1で迎えた83分という勝負どころで決勝ゴールを決めている。それも、リーグ王者レスターのキャプテンにして、プレミアのフィジカル主義の象徴たるウェズ・モーガンに競り勝ってのヘディングシュートである。

 その勝利の直後に復帰が発表されたポグバについては、モウリーニョが獲得に動いた理由をこう説明している。

「このチームには10番なら多くいるが、いわゆる“セカンドMF”がいない。強く、パワフルで、守備のインテンシティーを持ちながら、同時に創造力があってゴールを奪える選手だ。ランパード、スコールズ、ジェラード。彼らはときに10番よりもゴールを決め、6番のように守れる選手たちだった。こういう選手は見つけるのが最も難しい」

歴代最高額の約119億円の移籍金で獲得したポグバは中盤に新たな核として期待される[写真]=Getty Images

歴代最高額の約119億円の移籍金で獲得したポグバは中盤に新たな核として期待される[写真]=Getty Images

 ここに名前が挙がったプレミアリーグ歴代の名手たちと並び立つボックス・トゥ・ボックスに、ポグバならなれる。そう思ったからこそ、モウリーニョは彼の獲得に固執した。そもそも、“スコールズ後”のユナイテッドにとってセントラルMFはずっと泣きどころと言われてきた。昨季、ウェイン・ルーニーが一時的にセントラルMFにコンバートされたのもそれが理由だった。だが、モウリーニョはチェルシー時代にユナイテッドから強奪しようとしたこともあるルーニーを「9番か10番」から動かす気はなく、だからこそ中盤に新たな核が欲しかったのだ。

 この“ビッグ2”以外にも、モウリーニョ体制最初の夏は、効率的かつ的確な補強ができたと言えよう。センターバックにはビジャレアルからエリック・バイリーを獲得。モウリーニョが「最高のDFになれる」と太鼓判を押す若きコートジボワール代表DFは、プレシーズンからパワフルかつクレバーな守備を見せており、コミュニティーシールドではプレミア最高レベルのFWジェイミー・ヴァーディーに対し、1点を奪われたとはいえ総じて堂々と渡り合っていた。

 さらにヘンリク・ムヒタリアンは、モウリーニョの言葉を借りれば「頭の回転が非常に早い」選手。ドルトムントで植えつけられた素早い切り替えやタテに速い攻撃への適性、さらに昨季ブンデスリーガのアシスト王の肩書きが物語る技術や創造力と、どこをとっても指揮官好みだ。

 モウリーニョは8月末までに「経験豊富なセンターバック」をもう1枚加えたいようだが、ポグバ、イブラヒモヴィッチ、ムヒタリアン、バイリーの4人は間違いなく彼が希望して射止めたピンポイント補強。ここまでのチーム作りは順調と言っていい。

常勝軍団復活へユナイテッドにはかつてない期待感が漂っている[写真]=Getty Images

常勝軍団復活へユナイテッドにはかつてない期待感が漂っている[写真]=Getty Images

 開幕1週間前を切ってから獲得が決まったポグバを除く3人は、すでにテストマッチで実戦経験を積み、モウリーニョが思い描く「4-2-3-1」にうまくハマっている。彼が守備にこだわる監督であることは知られた通りで、これが攻撃を美学とする“ユナイテッド流”に合わないという声も聞かれたが、少なくとも「ボールは回るがチャンスが作れない」という症状に陥ったファン・ハール体制と同じ轍を踏むことはない。前任者がしばしば陥った「ポゼッションのためのポゼッション」は、モウリーニョが最も嫌うプレーだからだ。より効率的に、ダイレクトかつスピーディーにゴールへと迫るのがモウリーニョ流。不毛なパス回しにいらだった客席から「アタック! アタック! アタック!」という声が飛ぶことは、もうなくなるだろう。

 あるべき姿へと戻るための条件はそろった。あとは、「ファーガソン後の世界」で初のリーグタイトルを獲得できれば、常勝軍団として完全復活する日は近い。その瞬間を、全サポーターが大きな期待を持って見守っている。

(記事/Footmedia)

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